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第89話_裏切り

――聖王教会仮設本部。


各地で殲滅作戦は継続しているが、

《スティグマ》には、待機命令が出ていた。


「今日は待機か……」


仮設本部の一室。

窓際の椅子に腰掛けたロザリアが退屈そうに呟く。

挿絵(By みてみん)


白金の髪を揺らしながら、

足をぷらぷらと動かしていた。


その様子を見ていたナタリーが苦笑する。


「ローちゃん。

 しっかり休むこともお仕事だよ」


「分かってるわよ」


口ではそう答える。

だが表情は不満そうだった。


昨日の大規模殲滅戦。

《スティグマ》は南部戦線を、ほぼ単独で押し切った。


当然ながら消耗も大きい。


魔力だけではない。

神経も体力も削られている。


それでも――。

(暇なのよね……)


ロザリアは頬杖をつく。


聖痕の神罰執行隊(スティグマ)》。


聖王教会が誇る精鋭部隊。

そう呼ばれている。


だが――。

魔導王国の守護騎士たちを思い出す。


《重力の魔女》イザベラ。


《蒼氷》セレナ。


《超狙撃》ガイ。


どれも常識外れ。


別格の化け物。

そう呼ぶしかない。


ロザリア自身も、

魔力ランクSS。総合評価SS。


《スティグマ》最強の戦力だ。


しかし。

(世界は広いわね……)


少しだけ悔しい。

そんな感情が胸に浮かぶ。


「ローちゃん?」


「何でもないわ」


椅子を揺らしながら答える。


ナタリーは苦笑した。


気を抜くと子供っぽい。


戦場では頼れる隊長なのに。

普段は年相応。


そのギャップが少し可愛らしかった。


「もう……」

ナタリーは温かい紅茶を差し出した。


「ありがと」

ロザリアは素直に受け取る。


束の間の休息。

戦いの前の静けさだった。



――――

――


西部森林樹海。


深い森。

陽光すら木々に遮られている。


静かな樹海。


湿った土の匂い。


風が葉を揺らす音。


その中を森の奥へ。

二人の魔導士が進んでいた。

挿絵(By みてみん)


《迅速》カイ。


《烈火》グレン。


「こっちは外れかな」

先頭を歩いていたカイが呟く。


魔獣はいる。

だが拠点らしき反応は見つからない。


「ガハハハ!」

後ろから豪快な笑い声。


「そういうこともある!」


炎のような赤髪。

巨大な体躯。


相変わらず声が大きい。


(うるさいな……)

カイは内心でため息を吐いた。


(アルトリウス団長と組みたかった……)


(なんで俺、この人となんだろ)

愚痴が浮かぶ。


広大な森林。

探索は想像以上に骨が折れる。


敵も隠蔽魔法を使っている可能性が高い。


簡単には見つからない。


カイは暇潰しのように短剣を回す。


愛用の双短剣型デバイス

《ライトニング・ストライカー》。


指先で器用に回転する刃。


キラリ。

光が反射した。


ほんの偶然だった。


だが。

その反射が――。


後方を映した。


「――っ!?」


瞬間。

全身の毛が逆立つ。


映ったのは。


迫る巨大な拳。


大型籠手型デバイス

《ブレイズ・アトラス》。


グレンの両腕だった。


「くっ!」


ガンッ!!

咄嗟に短剣を交差させる。


衝撃。

凄まじい重量。


地面を滑る。


数メートル。

強引に受け流しながら距離を取った。


「……」

グレンは黙っている。


その目だけがカイを見ていた。


仲間を見る目ではない。


獲物を見る目。


カイの表情が消える。


「先輩」

静かに問う。


「どういうことっすか?」


返答はない。


だが。

十分だった。


カイはゆっくりと構える。


双短剣を逆手に握る。


「まあ」


クルリ。

短剣が回る。


「どうでもいいっすけどね」


口元が笑う。


――戦闘態勢。


「敵ってことですよね?」


瞬間。

空気が変わった。


王国十二守護騎士同士。


本来は、あり得ない戦闘。


しかし。

現実だった。


グレンが一歩踏み込む。


大地が陥没する。


爆発的な脚力。


だが。

――遅い。


カイの視界が変貌する。


世界の動きが遅くなる。


「――エイト・スロットル」


魔力が全身を駆け巡る。


加速術式、起動。


世界が静止する。


壱速、弐速、参速、肆速――伍速。


圧倒的な速度。

二つ名《迅速》の本領発揮。


次の瞬間には、

カイの姿はそこから消えていた。


ドンッ!!

音だけが残る。


「っ!」

グレンが反応した時には。


既に側面。


斬撃。


背後。


斬撃。


正面。


斬撃。


右。


左。


上。


下。


目で追えない。


圧倒的手数。


圧倒的速度。

挿絵(By みてみん)


グレンは防御を強いられる。


拳を振るう。

だが当たらない。


捕まらない。


掠りもしない。


グレンにとって、

近接戦において最悪の組み合わせだった。


「初手で仕留められなかったのは」


カイが笑う。

その声だけが森に響く。


「運の尽きでしたね」


グレンは何も言わない。


ただ――。

笑っていた。


不気味なほど静かに。


ニヤリ。

その笑みだけが。


異様に映った。


そして。

次の瞬間。


グレンの体から。

魔力が噴き上がった。


樹海の空気が震える。


カイの表情が僅かに変わる。


裏切りもの。


今まさに現実に起きたこと。

作者( ゜Д゜):裏切り者が出ましたね。

オコジョ:……魔女は…一体どうなんだい…。

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