第87話_合流
――惑星タタロス。
殲滅戦が行われた夜。
エリュシオン魔導王国が
設営した仮設拠点。
――王国作戦本部。
周囲には幾重もの
隠蔽魔法が張り巡らされていた。
魔力探査。
遠隔観測。
その全てを欺くための王国式結界。
外からは存在そのものを認識することすら難しい。
その本部内に立つ人物は一人。
大柄な騎士。
王国十二守護騎士第四位。
《超狙撃》ガイ。
腕を組みながら静かに待っていた。
やがて――。
空間に蒼と金の粒子が滲み始める。
まるで夜空の星々が
溶け出したかのような幻想的な光。
粒子は渦を巻き。
一つの魔法陣を描き出した。
「来たか」
ガイが小さく呟く。
次の瞬間。
転移魔法が発動した。
光が収束する。
そこに現れたのは五人。
王国十二守護騎士第一位。
《神剣》アルトリウス。
第五位。
《眠り姫》ネネ。
第六位。
《烈火》グレン。
第十位。
《迅速》カイ。
そして――。
《星海を往く者》レーゼ。
レーゼが行使した奇跡の魔法。
《星渡り》。
世界と世界を繋ぐ転移魔法。
――辺境惑星タタロスへ。
極秘作戦のため。
王国が誇る少数精鋭を送り込んだ。
「ガイ、待たせたな」
アルトリウスが声を掛ける。
「あぁ」
ガイは短く返事をした。
「早速だが説明する」
机上に表示された立体地図。
ガイは現在の戦況を共有する。
魔獣殲滅戦。
各組織の戦力配置。
生活圏拡張の進捗。
強欲の夜帳の調査。
そして――。
西の大森林樹海。
「……なるほど」
アルトリウスが腕を組む。
「西の樹海か」
静かな声だった。
しかし、その瞳は鋭い。
王国は、惑星タタロスに対して、
以前から調査を進めていた。
その中で浮上していた
――複数の要注意地点。
西の樹海もその一つだった。
広大な森林。
異常な魔力濃度。
そして何より。
――隠れるには都合が良すぎる。
「管理局が担当している区域だな」
「あぁ」
ガイが頷く。
「俺も一番怪しいと思ってる」
その言葉にアルトリウスは迷わなかった。
「決まりだな」
神剣の騎士は即断する。
「明日、我々が極秘に調査へ向かう」
誰も異論はない。
「向かうのは――、
私とグレン、カイ」
アルトリウスが地図を指差す。
「樹海は広い」
「グレンとカイは二人一組で行動してくれ」
「ガハハハ!」
豪快な笑い声。
「承知した!」
炎のような赤髪を揺らしながらグレンが言う。
一方。
「げぇ~」
露骨に嫌そうな声。
「おっさんと一緒かよ……」
カイが顔をしかめた。
「なんだと小僧!」
「うるさいなぁ」
早くも言い合いを始める二人。
だが。
アルトリウスは慣れた様子だった。
「ネネ」
アルトリウスが少女へ視線を向ける。
「ここに残り、王女殿下の護衛を頼む」
こくり。
――こくり。
小さな頭が揺れる。
返事なのか。
それとも眠っているだけなのか。
誰にも分からない。
――だが問題はない。
彼女を知る者なら全員理解している。
王国十二守護騎士第五位。
《眠り姫》ネネ。
魔力ランクSS+。総合評価SS。
――異端の魔導士。
起きていようが。
眠っていようが。
――彼女は強い。
ただそれだけだった。
「レーゼ王女様」
アルトリウスが振り返る。
「不便をお掛けしますが、
こちらでお過ごし下さい」
「うむ」
レーゼは頷いた。
「それは構わぬのじゃが……」
ふと周囲を見回す。
「女性陣はどこじゃ?」
その瞬間。
ガイが露骨に目を逸らした。
「あー……」
頭を掻く。
レーゼが首を傾げる。
「のじゃ?」
「……温泉だ」
沈黙。
「………」
「天然温泉が見つかったらしくてな」
「全員行った」
「………」
「王国だけ行かないのも不自然だろ?」
言い訳のように続けるガイ。
レーゼは数秒固まった。
そして。
「……妾も行きたかったのじゃ」
ぽつり。
――本音だった。
ガイは視線を逸らした。
会議は終了する。
それぞれが明日に備え休息へ向かった。
グレン。
カイ。
ネネ。
レーゼ。
全員が部屋を後にする。
残ったのは二人。
アルトリウスとガイ。
静寂が訪れる。
やがて。
アルトリウスが口を開いた。
「ガイ」
「少しいいか」
「二人で話がしたい」
その声は。
先ほどまでとは少し違っていた。
ガイも察する。
――確認したい何か。
それがあるのだろう。
「あぁ」
ガイは静かに頷いた。
――――
――
翌日。
惑星タタロス。
合同作戦は継続されていた。
荒廃した惑星。
未だ数多くの魔獣が徘徊している。
エリュシオン魔導王国。
聖王教会。
時空管理局。
三組織による大規模合同作戦。
第一段階。
――敵性魔法生物の排除。
――生活圏の拡張。
各地で精鋭魔導士たちが戦い続けていた。
順調。
少なくとも表面上は。
――時空管理局、臨時局長室。
部屋には一人。
ヴィンセント・クロムウェル提督だけが立っていた。
窓の外を眺めながら。
静かに呟く。
「そろそろ始めようか」
誰に向けた言葉でもない。
だが。
確かに誰かへ向けて発せられた。
提督はゆっくり振り返る。
「――アムリタ」
空気が揺らいだ。
何もない空間。
しかし、そこには確かに何かがいた。
「我々、《強欲の夜帳》の
使徒を動かす。」
提督の口元が歪む。
「王国にも動いてもらいましょう」
不敵な笑み。
その瞳に浮かぶのは狂気か。
あるいは愉悦か。
空間が微かに揺らぐ。
まるで返答するかのように。
――誰も知らない。
――この男こそが。
世界の裏側で糸を引く存在の一人であることを。
そして――。
静かに。
確実に。
新たな陰謀が動き始めていた。
作者( ゜Д゜):ついに裏切り者が動きます。
オコジョ:王国の戦力強すぎだろ
作者( ゜Д゜):……どうだろうね…




