第86話_魔導士の休息
――惑星タタロス。
殲滅戦は順調に進んでいた。
各地で魔法生物の掃討が進み、
仮設拠点の建設も着々と進行している。
解放された都市では復旧作業が急ピッチで行われていた。
簡易ゲートの設置。
都市間の物資輸送路の確保。
人々の生活を取り戻すための準備が、少しずつ整えられていく。
そんな夕刻。
一本の報告が本部へ届けられた。
「山側を制圧した部隊より報告です」
女性職員が資料を差し出す。
「旧温泉施設跡を発見」
「地下より高温の湧水を確認しました」
一拍置いて――
「天然温泉です」
かくして。
その情報は、一瞬で広まった。
各組織の女性魔導士たちの空気が――変わる。
「……温泉?」
ロザリアが聞き返す。
「天然だそうよぉ」
「しかも源泉かけ流しらしいわぁ」
イザベラが補足した。
「久しぶりねぇ」
満足そうに微笑み、
「皆、行くわよぉ」
――宣言する。
全員が真剣な表情で頷いた。
異論は誰一人としてない。
――これは、重要な任務である。
数十分後。
集った女性魔導士たち。
《重力の魔女》イザベラ。
《蒼氷》セレナ。
《静寂》フィオナ。
《慈愛》エルゼ。
《灼熱の熾天》ロザリア。
《粛清の能天》ナタリー。
全員が戦闘服のまま到着する。
「これは疲労回復任務よ」
セレナが真面目な顔で言った。
ロザリアも頷く。
「戦闘後の疲労回復は重要です」
ナタリーが苦笑した。
「「「…………」」」
誰も反論しない。
むしろ全員が同意していた。
――出発。
簡易ゲートを潜り抜け、
山道を数分ほど歩く。
やがて木々の間から湯気が見えた。
「わぁ……」
エルゼが思わず声を漏らす。
岩に囲まれた天然露天風呂。
静かな森。
立ち上る白い湯気。
夕暮れに染まる空。
「綺麗……」
エルゼが目を輝かせる。
戦場だったことを忘れてしまいそうな景色だった。
イザベラが最初に湯へ浸かった。
「いいお湯ねぇ」
肩まで沈み込み、
「極楽」
完全に脱力していた。
その姿は、もはや王国の守護騎士ではない。
ただの温泉好きな女性だった。
セレナも静かに湯へ入る。
「…………」
数秒。
目を閉じて湯を味わい、
「……悪くないわ」
短く呟く。
それだけだったが、その表情はどこか満足げだった。
エルゼも肩まで浸かる。
「はぁぁぁ……」
幸せそうな吐息。
「みんなで温泉なんて、素敵ですねぇ」
心の底から嬉しそうだった。
フィオナも静かに湯へ入る。
白いフードは外されている。
黒い目隠しだけを残したまま。
湯に浸かり、小さく頷いた。
その隣では、浮遊するデバイスが淡く発光する。
空中モニターに文字が浮かんだ。
『……あたたかい』
「ふふっ」
エルゼが微笑む。
「気に入った?」
少し間を置いて、
『……うん』
短い返事。
それだけで十分だった。
「ローちゃん」
ナタリーが笑いながら声をかける。
「肩まで浸からないと」
「わ、分かってるわよ!」
ロザリアは少し頬を赤くしながら湯へ入った。
しかし――
「……熱っ!」
思わず声が出る。
「あなた、《灼熱の熾天》でしょう?」
セレナが呆れたように言った。
「二つ名と温泉は関係ないわよ!」
即座に反論する。
するとロザリアは負けじと言い返した。
「あなたこそ《蒼氷》でしょ」
「お湯、苦手なんじゃないの?」
「別に…」
即答だった。
「そうなの?」
エルゼが本気で驚く。
「そ、そうよ!」
ロザリアが言い切る。
「全然違うわ!」
その反応が面白かったのか。
思わず全員が笑った。
穏やかな笑い声が露天風呂に響く。
戦場では見せない表情。
肩書きも。
立場も。
強さも。
今だけは関係ない。
ただ同じ湯に浸かり、
同じ時間を過ごす。
魔導士たちの束の間の休息。
やがて夜が訪れ――
見上げれば満天の星空が広がっていた。
静かな湯気の向こう。
遠くで虫の音が聞こえる。
惑星タタロス。
激戦の一日を終えた魔導士たちは、
束の間の安らぎを楽しんでいた。
明日もまた戦いが待っている。
それでも今だけは。
何も考えずに――
ただ、温かな湯に身を委ねるのだった。
作者( ゜Д゜):待望の温泉回です。
オコジョ:今度は野郎の温泉シーンじゃなーい!(よっしゃ)




