第84話_殲滅戦―王国十二守護騎士―
――山脈
いくつかの都市を解放し、
イザベラとガイは、目的の山へ辿り着いていた。
「巨大な洞窟だわぁ」
「あぁ」
洞窟の奥からは、高濃度の魔力が溢れ出し、
周囲には無数の魔結晶が生成されている。
幻想的な光景。
だが――。
「この中で竜種と戦闘するのは止めた方がいいな」
洞窟とはいえ、所詮は閉鎖空間。
激しい戦闘になれば、崩落は避けられない。
ニヤリ、とガイが笑い、
イザベラへ視線を向けた。
「地形を使うのは好みじゃないが……」
「えぇ。地形破壊は仕方ないわぁ」
イザベラは《グラビティ・ヘカテー》を
静かに地へ突き立て、
膨大な魔力を練り上げる。
詠唱――。
『――理を歪め。
質量を欺け。』
『我が大鎌が紡ぐは――。
光すら逃れ得ぬ、闇の檻。』
『集え。歪め――。
圧潰せよ――。』
「――グラビティ・コラプス!!」
瞬間――。
高濃度の魔結晶が甲高い音を立て、
次々と砕け散る。
洞窟。
そこへ漆黒の球体
――疑似ブラックホールが出現した。
天井も、壁も。
超重力によって中心へと吸い寄せられ、
音もなく縮退していく。
崩壊――。
地形ごと砕く一撃。
周辺の魔獣は一掃された。
だが――。
巨大な魔力反応は、まだ消えていない。
「怒って出てくるぞ」
ガイが呟く。
その瞬間――。
崩れた洞窟を吹き飛ばし、
それは姿を現した。
二人は同時に空中へ退避する。
吹き荒れる魔力の暴風。
可視化された巨大な魔力の奔流。
「……黒い竜種。」
どちらの呟きだったのか。
巨大な黒龍。
怒り狂った竜が、二人を睨みつける。
ニヤリ。
ガイが笑う。
イザベラもまた、真剣な眼差しで黒龍を見据えた。
戦闘開始――。
黒龍の黒炎。
巨大な黒い業火が二人へ襲い掛かる。
ふわり。
イザベラは軽やかに回避する。
ガイは避けきれず、魔法障壁を展開した。
その隙に、
イザベラは高速で黒龍へ肉薄する。
魔力を纏った大鎌が振り抜かれる。
ザンッ――。
衝撃と共に黒龍が怯む。
黒炎が途切れた。
黒炎の向こうから
――膨大な魔力が噴き出す。
「ガイ!」
イザベラの叫び。
ガイは巨大な長銃
《ディスタンス・ジャッジメント》を構え、
微動だにせず照準を合わせていた。
黒龍であろうと、
彼の前では、ただの標的に過ぎない。
詠唱――。
『――世界の果てを拒み。
距離の理を断て。』
『我が鉄筒が穿つは――。
幾千の夜を飛び越える、死の鉄槌。』
『見据え。定め――。
絶命させよ――。』
「――アブソリュート・ディスタンス!!」
膨大な魔力が収束する。
一瞬――。
世界から音が消えた。
次の瞬間。
射程という概念が消え失せる。
黒龍はガイを睨んでいた。
――だが、
その瞳から光が消える。
胸には巨大な風穴。
その向こうには、
遠くの景色が見えていた。
――
――――
港湾
高波が打ち寄せる港。
セレナたちは、目的地へ辿り着いていた。
イライラ――。
「セレナさん……怒ってませんかね?」
エルゼがフィオナへ小声で話しかける。
こくり。
フィオナは静かに頷いた。
――エルゼにだけ反応。
それも気に食わない。
イライラ――。
海には、高濃度の魔力反応が複数存在していた。
魔獣が多い。
セレナが動く。
無言のまま、
氷結晶の杖デバイス《クリスタニア・レイヴン》を
荒れ狂う海へ向けた。
彼女を包む空気が、
一瞬で肌を刺すような極寒へと変わる。
本来なら、感覚だけで発動できる魔法。
それを敢えて言葉にする。
それは彼女の内に渦巻く、
冷徹な怒りの顕現。
詠唱――。
『――万象を鎮め。
魔脈の息吹を欺け。』
『我が氷が紡ぐは――。
熱量すら逃れ得ぬ、永遠の棺。』
『凍てつけ。
閉ざせ――。 流転へ還れ――。』
「――氷界鎮魂歌!!」
パキィィィン――。
世界そのものへ亀裂が入ったかのような硬質な音。
激しく荒れていた港湾の海面。
そして海中に潜む無数の魔獣たち。
その魔力そのものが、
一瞬にして蒼い結晶へと凍り付いていく。
ゴゴゴォォォ……。
海底から低い唸り声。
ただ一つ。
海の底にいた巨大な魔力だけが動いていた。
「ちっ……しぶとい。」
セレナが呟く。
そして――。
それは姿を現した。
海の支配者。
魔獣の頂点。
巨大な海竜――リバイアサン。
ギャァァアアア!!
咆哮が港湾全域を震わせる。
竜の咆哮。
鋭い氷礫。
無数の魔弾。
それらが衝撃波となり、
エルゼたちへ襲い掛かる。
「エルゼ!」
セレナが鋭く叫ぶ。
「分かってます!」
弓型デバイス《セレスティアル・アーク》を構え、
魔力の弦を力強く引き絞る。
彼女が放つのは、
慈愛の光矢。
それは敵への情けではない。
仲間を絶対の加護で包み込むための、
――光。
「――セレスティアル・ヴェール!」
放たれた光矢が上空で弾け、
無数の光粒となる。
眩い障壁が展開される。
リバイアサンの衝撃波は光の壁へ激突し、
甲高い音を響かせながら霧散した。
「フィオナさん、今です!」
エルゼの声。
フィオナが静かに指先を海竜へ向ける。
浮遊型ビットデバイス
《ウィスパー・ナイチンゲール》。
鳥型ビットが幾筋もの光跡を描きながら、
超高速でリバイアサンへ肉薄した。
頭上を旋回する。
(――『サイレント・ケージ』)
目には見えない結界。
海竜の頭部を包み込む。
「ギャ……ッ!?」
リバイアサンが苦悶する。
フィオナの《静寂》の魔力。
魔力振動そのものを封じ、
魔獣の魔力体へ直接干渉する。
巨体が大きく揺らいだ。
「セレナさん!!」
エルゼが弓を掲げる。
セレナへ繋ぐ支援魔法。
詠唱――。
『――福音を授け。
限界の縛鎖を欺け。』
『我が弦音が紡ぐは――。
終焉すら逃れ得ぬ、聖天の賛歌。』
『高まれ。 響け――。
祝福へ還れ――。』
「――セレスティアル・アンセム!!」
光の矢がセレナへ吸い込まれる。
蒼き氷の魔力が、
爆発的に高まった。
「……フンッ」
ひと睨み。
――パキィィィィィィィィィンッ!!
世界の骨組みが砕けたかのような、
凄まじい凍結音。
リバイアサンの巨体は、
巨大な蒼い氷像となって静止する。
一拍遅れ、
全身へ無数の亀裂が走った。
パリン――。
巨大な氷像は幻想的な蒼い結晶となって砕け散り、
静かな海だけが、その場に残った。
オコジョ:奥義と詠唱は違うんだよな……
作者( ゜Д゜):詠唱は威力を上げるための技や!あとカッコいい!




