第80話_勉強しなさい
――学校・教室。
大型連休明けの高校生活。
朝の教室には、休み明け特有の、
どこかふわっとした空気が流れていた。
そんな中――
一人の少女が教室へ入ってくる。
黒い髪。
青い瞳。
どこか儚げな雰囲気を纏う美少女。
別クラスの生徒。
一条楓。
「………」
教室中の視線が、
自然と彼女に集まる。
だが――
楓は周囲を気にすることなく、
真っすぐこちらへ歩いてきた。
「また…祐司か……」
男子の小さな嫌味がどこかから聞こえた気もするが。
楓は、俺の席で止まる。
(……俺としては、特に接点はないんだが)
無言で見つめられる。
「………」
そして、そっと。
――楓の顔が近づいた。
耳元で、小さな声が響く。
「魔導書が教えてくれた……」
静かな声。
「黒の魔導士さん」
「………」
(……まずいか?)
だが、楓は言いふらすタイプではない。
俺は小さく返した。
「……この事は、黙っていてくれ」
楓はこくりと頷く。
(よし)
(ひとまず一件落着だな)
そう思った。
――次の瞬間。
「祐司ー!!」
「ちょっと近いよ!!」
「近すぎですわ!!」
アリスとエリザが、
当然のようにやってきた。
二人の視線が痛い。
バチバチバチ――
――視線が交差する。
銀髪美少女――、有栖川時寧。
金髪美少女――、小早川エリザ。
黒髪美少女――、一条楓。
三人のヒロインが、
無言で火花を散らしていた。
(……何でこうなる)
俺は心の中で、静かにため息を吐いた。
――
――――
放課後。
時空管理局日本支部。
俺は、受付のバイトをしていた。
学校での出来事は、
一旦忘れることにする。
窓の外をぼんやり眺める。
上司はまだ復帰していない。
「平和だな……」
思わず呟く。
受付業務は基本的に暇だ。
そもそも一般人が来る場所ではない。
――そんな時。
「あ、祐司」
「今日もバイトですか」
声がした。
――視線を向ける。
そこには――
アリス。
エリザ。
そして、楓。
三人が並んでいた。
(っ!!?)
(もう仲良くなってる――!?)
内心かなり驚く。
だが顔には出さない。
「今日も訓練か?」
アリスが頷く。
「うん。管理局の設備で教導訓練だよ」
落ち着いた声。
隣ではエリザが何か話したそうに、そわそわしている。
楓は相変わらず静かだ。
(大丈夫だ)
(まだ決定的なことは言われてない)
(黒の魔導士《天輪》の正体については――)
三人を見送る。
だが――
心の中では、分かっていた。
(――そんなわけないか)
俺の正体――。
(皆、気づいてるよな――)
今後の立ち回りを、
――大いに悩むのだった。
<管理局情報>
日本支部、受付事務。内藤祐司。
魔力ランク、Dランク。総合Dランク。
<管理局情報・裏>
時空管理局日本支部所属。
《天輪》黒の魔導士ユウジ。
魔力ランク――測定不能。
――アリス視点。
訓練室には、すでに二人の人物がいた。
「アリス、待ってたぜ」
レギが声をかけてくる。
「良い訓練室だ」
シエルは静かに周囲を見ていた。
守護騎士レギ。
守護騎士シエル。
そして、楓ちゃん。
三人は、時空管理局日本支部所属となった。
もっとも、楓ちゃんは私たちと同じ、
高校卒業――
十八歳までは、地球で普通の生活を送りながら、
管理局協力者として活動するのだが。
訓練開始――。
疑似戦場が生成される。
訓練室の景色が崩れる――。
無機質な白い空間は消え、
夜の市街地へ変わった。
奇しくも――。
あの夜の戦いを思い出させる
フィールドだった。
エリザちゃんの前には、
剣型デバイスを構えるシエル。
私の前には、
ハンマー型デバイスを構えるレギ。
楓ちゃんは、見守るようだ。
「本気でいきますわ」
エリザちゃんの目が鋭くなる。
「本気で来い」
シエルが応じた。
――魔力が高まる。
「アストラペ!!」
エリザちゃんが叫ぶ。
ガシャン――
重い装填音。
カートリッジの装填。
圧縮された魔力が解放される。
――空間を紅雷が染める。
《雷光王冠》が帯電する。
魔力が激突する――。
戦闘開始――。
その瞬間だった。
「ちょっと待ちなさい」
静止の声。
全員が振り向く。
そこにいたのは――
ミスティ・オーレリア提督。
「まだ日本支部は復旧中よ」
冷たい視線が向けられる。
「こんな高い魔力を出して
訓練なんて――」
一拍置いて。
「――ダメよ」
……正論だった。
「仕方ないですね」
シエルがため息をつく。
<管理局情報>
魔力ランクS+。総合S+。
時空管理局日本支部所属。
《蒼刃》守護騎士シエル。
「なんだよー。訓練できないじゃん」
不貞腐れるレギ。
<管理局情報>
魔力ランクS+。総合S+。
時空管理局日本支部所属。
《巨震》守護騎士レギ。
「訓練は今度でも……できる」
静かに諫める楓ちゃん。
<管理局情報>
魔力ランクS+。総合AA+。
時空管理局日本支部所属。
《宵闇》魔法少女カエデ。
「復旧優先ですわ」
エリザちゃんも頷いた。
<管理局情報>
魔力ランクAA+。総合S(カートリッジ不使用)。
時空管理局日本支部所属。
《紅王権》魔法少女エリザ。
「そうだね」
私も同意する。
<管理局情報>
魔力ランクAA+。総合S(カートリッジ不使用)。
時空管理局日本支部所属。
《星双》魔法少女アリス。
ミスティが、全員を見渡した。
「訓練は無理だから――」
嫌な予感がした。
「あなたたち」
――静寂。
「魔法や魔法生物について、勉強しなさい」
――沈黙。
空気が凍った。
勉強できない組代表。
――アリス、エリザ。
優等生組代表。
――カエデ。
奇しくも、反応は綺麗に分かれるのだった。
作者( ゜Д゜):現時点の主人公たちのランクを書いてみました
オコジョ:一人、測定不能がいるぞ。総合書いてないし……。
作者( ゜Д゜):奴は例外だ!……。




