第79話_閑話_魔法幼女カエデちゃん
――それは、中学時代の夏のある日。
祐司も知らない。
観ることのなかった、もう一つの物語――。
――とある通り道。
「……ここ」
魔導書が教えてくれた。
この先に、濃い魔力反応がある。
周囲を警戒しながら、慎重に歩を進める。
「楓……何か変な気配がするぜ」
守護騎士レギが警戒を促した。
すると、隣を歩くシエルが冷静に口を開く。
「レギ。主と呼べと、何度言ったら分かる」
「む……」
少し不満そうなレギ。
魔法少女カエデ。
守護騎士レギ。
守護騎士シエル。
三人が進むその道。
そう。
――この場所は。
フィールド内の人物を幼児化させ、
肉体と魔力を制限する特殊空間。
『幼児化フィールド』
「……っ!」
気づいた時には、遅かった。
ぬるり、と。
スライム型魔法生物が、三人を取り囲んでいた。
三人を取り囲むように、じわじわと距離を詰めてきた。
魔導書が警告を発する。
だが――
「我ら守護騎士に、脆弱な空間魔法は効かない」
シエルが毅然と言い放つ。
レギも特に異常はなさそうだ。
ならば――私は。
「あっ……?」
違和感。
声が、幼い。
体が、小さい。
手も足も、すべて小さくなっていた。
その瞬間、理解した。
――魔法幼女。
「私は――」
一拍置いて。
小さな声で、ぽつりと呟く。
「魔法幼女カエデちゃん……」
守護騎士二人が、ぴたりと止まった。
そして。
「「か……かわいい……!!」」
(はわわわ……)
二人が同時に抱きついてきた。
「主……いえ、カエデちゃん。
どうちましたか?」
あの冷静なシエルまで暴走していた。
「シエル、やさしくだ……。
……やさしく触るのだ」
レギまで意味不明だった。
「のそ……のそ……」
「……のそ……のそ……」
スライムが近づいてくる。
だが――
クワッ。
シエルの目が見開いた。
ギロリ。
たった一睨み。
圧が――走る。
ストライカー級の魔力圧が、スライムに叩きつけられた。
「ぷるぷる……」
「……ぷるぷる……」
スライムたちは完全に硬直した。
動けない。
震えるだけ。
「カエデちゃん」
シエルが優しく微笑む。
「大丈夫でちゅよ」
「怖いスライムは、追い払ったからね――」
「ぷるぷる……」
「……ぷるぷる……」
震えるスライム。
「あ゛ぁ――」
完全に輩の絵面だった。
私は二人を押しのける。
「「あぁ~……」」
少し残念そうな二人。
小さくなった魔導書を持ち上げる。
「お願い――」
私は、お願いするだけ。
ひらり。
一枚のページが舞った。
ぺちん。
スライムに紙が張り付く。
――が、それだけだった。
「………」
「「か……っか……」」
数秒の沈黙。
「「かわいい!!」」
声が綺麗に重なった。
私は無言でスライムに近づく。
震えるスライム。
そっと持ち上げる。
そして。
握り潰そうとした――その時。
「ダメですよ、カエデちゃん」
シエルが慌てて取り上げた。
「これは危ないのです」
「そうだぞ」
レギも真顔で頷く。
「危ないのだ――」
意味不明だった。
「むぅ……」
頬を膨らませる。
「「はわわわ……」」
何故か二人が恍惚としていた。
慌てたシエルが、手に持っていたスライムを放り投げる。
べちょ。
潰れた。
「あ……」
その瞬間。
空間が揺らいだ。
幼児化フィールドが、光となって崩壊していく。
やがて、完全に消滅した。
そこに残ったのは――
元の姿に戻った、魔法少女カエデ。
「………」
「ごほん」
シエルが、わざとらしく咳払いした。
レギは鳴らない口笛を吹いている。
「二人とも……」
私は静かに告げた。
「今晩のご飯抜き……」
これは罰だ――。
ガーン。
目に見えて落ち込む二人。
「……これも……」
私は小さく呟く。
「スライムのせい……」
すると。
「「スライムのせいだ」」
二人の声が綺麗に重なった。
次の瞬間。
――魔力解放。
一帯の魔法生物を殲滅しかねない勢いで、二人は飛び出していった。
「ふふっ」
そんな二人が、少しだけ可笑しくて。
思わず、笑ってしまった。
作者( ゜Д゜):待望の魔法幼女カエデちゃん!
オコジョ:幼女!幼女!幼女!




