第78話_閑話_二巡先の世界
連休明け。
明日から学校が始まる
――そんな夜だった。
「……俺は、寝ていたよな」
目を開ける。
薄暗い空間。
夢……か?
そう判断するには、妙に意識が鮮明だった。
視界を確認する。
黒の魔導服。
今の姿は、黒の魔導士――《天輪》。
しかも、この空間には妙な魔力が満ちていた。
(なんだ、このフィールド……)
特殊な魔法結界。
外界から切り離された、閉鎖空間。
室内は暗い。
ポツンと灯りがひとつだけ落ちている。
その灯りが照らしていたもの。
それは――
「……麻雀台?」
全自動卓だった。
転生前、友人たちと打ったことがある。
少しだけ懐かしさを覚えた。
卓の前には椅子が三つ。
まるで座れと言わんばかりだ。
俺が静かに席につくと――
正面の椅子から、黒い影が浮かび上がった。
輪郭が徐々に鮮明になる。
現れたのは。
黄色と白の毛並み。
先端だけ黒い尻尾。
「くくくっ……
待っていたぜ……祐司」
オコジョだった。
不敵に笑っている。
ざわ……ざわ……
……ざわ……ざわ……
(なんだこの空間は……)
(おかしな場所に呼ばれたな……)
脱出方法を考える。
だが、目の前の状況から察するに――
答えはほぼ一つ。
(麻雀で勝て、ってことだろうな)
空席はあと一つ。
つまり――三人麻雀。
その時だった。
「あら……?」
澄んだ声が聞こえた。
振り向く。
そこにいたのは、翠の瞳を持つ少女。
俺と同じ色の瞳。
聖王教会所属、《聖女》クラリス。
「よく分かりませんが……
妙な空間に呼ばれたみたいですね」
俺は静かに頷く。
「たぶん、麻雀だ」
「あらあら……」
クラリスは頬に手を当て、困ったように微笑んだ。
オコジョがニヤリと笑う。
「くくくっ……始めるぞ」
ざわ……ざわ……
……ざわ……ざわ……
全自動卓が動き出す。
牌が回る音が響いた。
二人と一匹の前に、牌が並ぶ。
こうして――
三人麻雀が始まった。
――
――――
「くくくっ……牌が鳴いてるぜ」
オコジョが意味不明なことを言いながら牌を引く。
そして不要牌を切った。
「西だ……」
(何故、宣言するんだ……)
無駄にうるさい。
俺は軽く呆れながら自分の番を進める。
配牌は悪くないが。
決して良いとは言えない。
無言で一枚切る。
次はクラリス。
彼女は真剣な顔で牌を見つめていた。
「えっと……これを引いてから
……これを切る、ですか?」
(ヤバい)
(聖女ちゃん、ルール知らないっぽい)
……まあ、そうだろう。
魔法世界シルヴァリス・エリュシオンに麻雀があるとは思えない。
ざわ……ざわ……
……ざわ……ざわ……
――数巡後。
オコジョが笑った。
「くくくっ……ぬるりときたぜ」
その瞬間。
オコジョの手が、薄く黒く光った。
影魔法。
俺の目には、はっきり視えた。
ダンッ!!
牌を強打し、オコジョが叫ぶ。
「ツモ!」
「親の満貫……6000オールや……!」
(……)
三人麻雀特有の
ツモ損なしルールか。
色々言いたいことはある。
牌の強打もうざい。
だが、それ以上に。
(見逃せないな)
今、確実に魔法を使った。
――影魔法。
牌のすり替え。
(イカサマか)
影を使って、ツモる牌を入れ替えた。
やりやがったな。
(……少し本気を出すか)
俺は静かに口を開いた。
「――聖女クラリス」
真剣な目で見つめる。
「本気で行くぞ――」
クラリスの雰囲気が変わった。
ぽわぽわした空気が、一瞬で消える。
「――そうですね」
翠の瞳が静かに光る。
俺はデバイスを呼ぶ。
「テトラ」
低い機械音声が響く。
《Incorrigible, Master.》
魔力が巡る。
空気が歪む。
同時に。
クラリスからも翠の魔力が溢れ出した。
ゴゴゴゴゴ……
二人の圧が一気に上がる。
本番はここからだ。
(オコジョが影魔法でイカサマをすれば……)
(奴の手番で、ツモ上がりが確定する)
だが――
オコジョの手番。
再び手が黒く光った。
――影魔法。
牌がすり替わる。
そしてツモる――
その瞬間。
(ここだ)
第二解放――
【多重加速】
カチリ。
世界が沈んだ。
時間が多層化する。
牌が落ちる速度が遅くなる。
オコジョの指先。
影魔法の流れ。
卓上の全てが視える。
(もらった)
オコジョが掴む牌を、俺はすり替える。
――時間が戻る。
「くくくっ……」
オコジョが笑う。
だが、次の瞬間。
「……何っ!?」
顔色が変わった。
「どういうことだ……!」
思っていた牌ではない。
当然だ。
俺がすり替えた。
「御託はいい」
「さっさと切れ」
ざわ……ざわ……
……ざわ……ざわ……
緊張が走る。
オコジョは舌打ちしながらツモ切りした。
番が回る。
この局で俺がやることは一つ。
オコジョを止めること。
攻撃役は――
クラリスだ。
翠の瞳が輝く。
「視えます」
静かな声。
「二巡先の未来」
二巡後。
クラリスはテンパイ。
オコジョの番。
掴む牌は――西。
俺が仕込んだ牌。
クラリスの当たり牌だ。
オコジョが引く。
「なっ……何故だっ……!」
焦り。
混乱。
牌が手から零れる。
クラリスが静かに口を開いた。
「オコジョさん――」
「その牌です」
「ロン……と言うのですね」
静かに牌を倒す。
東・南・北。
三種の風牌が刻子。
雀頭は西。
オコジョが絶叫する。
「小四喜……っだと!?」
役満。
32000点、親への直撃。
「親が移るな」
俺は静かに言った。
畳みかける。
次は――俺の親番。
全自動卓が回る。
翠の瞳が鈍く光る。
カチリ。
世界の歯車が噛み合う音がした。
配牌。
ツモ。
――完成していた。
――すべてが終わる。
『天和』
俺は静かに牌を倒す。
「24000オールだ」
オコジョの顔が引きつった。
「……天和……!?」
「牌を混ぜ、配られた時点で……
勝負は決していたというのか……!」
俺は冷たく告げた。
「……箱割れだ」
ぐにゃああぁぁぁぁぁ……
オコジョの視界が歪む。
世界が崩れる。
最終持ち点。
オコジョ:-9,000点(35,000 + 12,000 - 32,000 - 24000)
聖女:37,000点(35,000 - 6,000 + 32,000 - 24000)
天輪:77,000点(35,000 - 6,000 + 48,000)
ざわ……ざわ……
……ざわ……ざわ……
俺は立ち上がった。
空間の端へ向かう。
そして、無言で手を突っ込む。
何かを掴んだ。
引きずり出す。
そこにいたのは――
一匹のスライム。
ぷるぷる震えている。
「ざわ……ざわ……」
そう。
この謎のざわざわ演出。
原因はこいつだった。
無言で握る。
ぷちっ。
――潰す。
すると、スライムが最後に喋った。
『わずか三局――』
『麻雀の神の気まぐれに翻弄された三人の修羅』
『伝説の一戦――』
『その幕引きは、あまりにも残酷で――』
――ぷちっ。
完全に潰した。
沈黙。
静寂。
長い夜が明けた。
それぞれの胸に、消えない烙印を刻み込んだ――
……たぶん。
「あの」
クラリスが小さく手を挙げた。
「麻雀、楽しかったですね」
にこりと笑う。
「またやりましょう」
オコジョが絶叫した。
「もう嫌だぁぁぁぁぁ!!」
作者( ゜Д゜):ノリと勢いで書いたぜ
オコジョ:えぇ……。
作者( ゜Д゜):四章でオコジョ出てくるのココだけだから……。
オコジョ:うそだろ……。




