第76話_事件の終わり
――総合病院
二つ並んだベッドの上では、
男たちによる妙に熱い会話が繰り広げられていた。
一人は、祐司の上司である、でっぷりとした中年男性。
そして、もう一人……いや、一匹はオコジョである。
「オコジョ先輩。
魔力回復には――甘い食べ物ですよ」
でっぷりとした中年男性は、そう言いながら大量のケーキを口に放り込む。
「そうなのか」
オコジョも負けじと、ケーキを口へ放り込んだ。
――言わなくてもいいが。
――医学的根拠は何もない。
甘い物で魔力回復が早まるというのは……迷信。
いや、ただのホラ話である。
そんな時、病室のドアが開いた。
「お見舞いでーす」
私服姿の祐司が、フルーツ盛り合わせを持って入ってくる。
「祐司かぁ!
俺ぇ、しくじっちまってよ」
上司が、聞いてもいない話を語り始める。
「相棒の《トワイライト・ジャスティス》がな~
火を噴いたがぁ~」
――言わなくてもいいが。
――彼の警備用デバイスに、そんな名前はない。
上司は腹の贅肉を叩きながら続ける。
「ピンク髪の少女がな~
ギリギリ負けちまってよぉ~」
などと嘯いた。
また、聞いてもいないのに、オコジョも追従する。
「うん。うん。
分かるぜぇ~」
「俺っちも、ストライカー級との死闘……。
祐司にも、活躍を見せたかったぜぇ……」
人はなぜ、大げさな嘘をつくのか。
――見栄なのか。
隣の病室にまで届きそうな大声で、自慢話を始める二人。
――言わなくてもいいが。
――そんな事実はない。
そんな時だった。
病室のドアが、再び開く。
入ってきた二人の人物。
「「見舞いだ」」
短いピンク髪、小柄な少女。
守護騎士レギ。
薄い青色のポニーテール、長身の女性。
守護騎士シエル。
だらだら――
――だらだらだら。
一人と一匹の背中に、冷や汗が流れる。
トラウマなのだろう……
そんな音が聞こえた気がした。
「すまなかったな」
シエルが静かに頭を下げる。
「おっさんも、ごめんな」
レギも素直に謝罪した。
守護騎士の二人は、
今回の事件で被害を受けた者たち全員に、謝罪して回っていた。
事件の終わりは、色々あったが――
(まぁ……)
(原作通り……?)
(上手くまとまったな……)
言葉を失う、
おっさんとオコジョを遠目に見ながら、
祐司はそんなことを思うのだった。
宵闇事件――。
守護騎士による時空管理局・日本支部襲撃は、
魔法犯罪として正式に検挙される事件となった。
一方で、
防衛・執行システムの暴走については――
証拠不十分。
その扱いとなった。
《天輪》の証言だけでは、決定的証拠にはならない。
事実関係は不明。
当時、楓宅で何が起きたのか。
それも不明のままだった。
アリスもエリザも、「見ていない」としか語らなかった。
そして何より――
魔力暴走の被害者とされた、
魔法少女カエデ本人による減刑の直訴。
さらに、
三人が時空管理局への入隊を条件に提示したことで――
最終的に、
お咎めなしとなった。
超法規的措置。
ミスティ提督は、日本支部配下に、
新たに三人のストライカー級戦力を迎え入れたことになる。
今頃きっと――
局長室でほくそ笑んでいるだろう。
そんな光景が、容易に目に浮かんだ。
色々あったが――
5月の大型連休は、こうして終わりを迎えた。
そして、今日は連休最終日。
――
――――
病院の屋上にて。
祐司は魔力視を解放する。
アリスの様子を探る。
「……!!?」
パジャマ姿。
ソファに張り付き、
そのまま寝ている。
(大分……
疲れが溜まってたのだろう……)
(仕方ないな)
ぽろり、と。
肩から服がはだけた。
祐司はそっと魔力視を解除する。
「気を取り直して、
エリザの様子だな」
再び魔力視を展開。
「………」
(……寝ているが……)
(お嬢様がしていい姿じゃない)
祐司は額を押さえた。
即座に魔力視を解除。
「最後は――楓だな」
ここまで来ると、オチは予想できる。
だが――
止めるつもりはない。
――魔法少女を見守ること。
それは、祐司の人生そのものなのだから。
再び魔力視を展開する。
「………」
(良かった)
(普通に寝てるだけか)
安堵した、その瞬間。
(ん?)
楓の目が、ふっと開いた。
そして――
起き上がり、
静かにこちらを見つめた。
そっと。
肩口に手を添えて――
僅かに服をずらした。
『お礼……』
声は聞こえない。
だが、口の動きだけで伝わる。
「………」
祐司は無言で魔力視を解除した。
あの子たちの教育は、一体どうなっているのやら。
「まぁ……。
平和が一番だな」
そう呟きながら、
祐司は、この何気ない日常を
しみじみと噛み締めるのだった。
オコジョ:太ってる……太ってる…ぞ…
作者( ゜Д゜):オコジョを合法的に太らせてみますた




