第73話_閉じた世界
俺は夜空へ
浮かび上がる。
眼下には、
静まり返った都市。
見上げた空は、
――満天の星。
(都市の灯かりが――
消えつつあるからな)
(星が綺麗だな――)
ふと、そんな感想が浮かぶ。
苦笑する。
(――状況は最悪だ。)
中央に浮かぶ、
――《漆黒の月》。
異様な光景。
それでも――。
少しだけ夜空を眺め、
――ほんの僅かな現実逃避。
原作には存在しなかった事象。
――都市全体を覆う静寂。
そして――
四体の超巨大魔獣。
「――完全な未知だな。」
(アリス、エリザ、シエル、レギは四方へ向かった)
(カエデは街の中心)
(そして俺は――)
自然と笑みが零れた。
俺は主人公じゃない。
この物語の主人公はアリスたち、
――魔法少女だ。
ならば、
魔法少女の物語は――。
「ハッピーエンドであるべきだろう。」
だから――。
俺は俺の役目を果たす。
皆が全力で戦える舞台を整える。
そのために――。
俺は《漆黒の月》を睨みつけた。
「テトラ――!!」
強く呼びかける。
『《Acknowledged, My Master.》(マスター命令を受領)』
低い機械音声。
同時に。
体内を巡っていた膨大な魔力が解放される。
カチリ
世界の歯車が噛み合う音。
『最終解放――』
カチリ。
――カチリ。
連続して響く音。
『【天輪・円環世界】』
膨大な魔力を喰らいながら。
それは発動する。
――閉じた世界。
その片鱗。
夜空に巨大な魔法陣が展開された。
都市全域を覆うほど巨大な円環。
――《天輪》の象徴。
四体の超巨大魔獣
そして都市そのものを。
円環世界の内部へと取り込む。
俺だけが扱える領域。
時間事象に干渉する閉鎖空間。
もちろん万能じゃない。
強い抵抗を持つ存在の時間を操ることは難しい。
――だが。
建物。
魔力抵抗を持たない存在。
あるいは同意した仲間たち。
そうした対象なら影響化における
――守ることができる。
だから――。
俺は左手を掲げた。
「円環世界よ――」
「すべての人を、物を、守護せよ」
円環が回転する。
停止世界――が生まれる。
都市全体を覆う透明な膜が完成した。
建物。
道路。
一般市民。
すべてが保護対象となる。
《永劫の静寂》の影響を受けないように。
これから始まる超規模戦闘で破壊されないように。
世界そのものを隔離する。
――閉じた世界。
――《クロノ・オルビス》。
俺は、さらに魔力を収束させる。
翠の瞳が鈍く輝く。
その時だった。
「っ……!」
ズキッ――。
鋭い痛みが脳を貫いた。
視界が一瞬揺れる。
(……またか)
――頭痛。
記憶の奥底を引っ掻くような痛み。
だが――。
今は止まれない。
(構うものか)
思考を切らすな。
(代償など払えばいい)
――再び魔力を練り上げる。
二度目の《天輪》。
そして――。
「――受け取れ!」
俺の魔力が――、
五つの翠の光となって、
――夜空を駆けた。
流星のように――。
現地で戦う五人へ。
アリス。
エリザ。
シエル。
レギ。
そしてカエデへ。
膨大な魔力が一直線に飛翔する。
俺の翠の魔力を。
仲間へ託す。
――カエデ視点
片目を隠すダークパープルの髪。
蒼紫の瞳。
黒と濃紫を基調とした長いコート型の魔導服。
魔法少女カエデ。
その周囲では紫黒の魔力が静かに揺らめいていた。
傍らには一冊の魔導書。
――《宵闇の書》。
ページがひとりでに捲られる。
まるで意思を持つように。
私は街の中心に立っていた。
(破壊を止めたい。)
(皆が戦いやすいようにしたい。)
だから。
戦術制御魔導師として。
(盤面を整える。)
その時。
空から翠の光が降り注いだ。
《天輪》の魔力。
膨大で――。
優しくて――。
どこまでも澄んだ魔力。
私は思わず目を細めた。
(不思議な人)
最初に会った時もそう思った。
そして――。
思い出す。
魔力暴走で苦しんでいた時。
彼が助けてくれたことを――。
《宵闇の書》が見せてくれた記録。
(そういえば……)
(まだお礼を言えてないな……)
少しだけ口元が緩む。
だが今は戦いだ。
受け取った翠の魔力を循環させる。
身体の中で爆発的に増幅される魔力。
戦術制御魔導師。
その本領を発揮する。
私は静かに目を閉じた。
「奥義――」
《宵闇の書》が完全に開かれる。
――無数のページが浮遊する。
「《宵闇の晩餐》」
紫黒の魔力が都市全域へ広がった。
まるで闇そのものが広がるように。
私の感覚が戦場全体へ拡張される。
東。
西。
南。
北。
四つの戦場。
仲間たちの位置。
魔獣の動き。
魔力の流れ。
すべてが見える。
宵闇の書のページが空へ舞い上がった。
まるで黒い蝶の群れのように。
私は静かに呟く。
「皆を援護して」
お願い――。
それだけ。
《宵闇の書》は最初から意思を持っていた。
だから――、私は命令しない。
ただ――、お願いする。
すると。
ページたちは嬉しそうに舞った。
まるで返事をするように。
戦場へ向かって飛び立っていく。
そして私は目を開く。
四方で戦う仲間たちを見据えながら。
静かに息を吐いた。
「みんな――無事でいて」
その願いを胸に。
戦場全体を支えるための魔法を展開し続けるのだった。
作者( ゜Д゜):最終解放の設定が少し出てきましたね。
オコジョ:閉じた世界、時間事象に干渉する空間……まさか……
作者( ゜Д゜):領域展開!!、オコジョよ、すべて忘れるのだ!




