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第72話_永劫の静寂(エターナル・カーム)

街では、あらゆる「音」が死に絶えようとしていた。


夜であっても、人の声があった。

車の走る音があった。


街は常に何かしらの音で満たされている。


だが――

その夜は違った。


空を見上げれば、そこには月がない。


――否。


正しくは、

月があるべき場所に、

光を極限まで吸い込んだような、


底の見えない漆黒の球体が浮かんでいた。


――水面に映らぬ月。


《漆黒の月》が満ちたのだ。


――不意に。

高層ビルの窓を叩いていた風の音が止まった。


走る車のロードノイズが消えた。


繁華街のネオンが放つ微かな駆動音さえも。


まるで世界そのものから削除されたかのように途絶えた。


――《永劫の静寂(エターナル・カーム)》。


異変は静かに。

しかし確実に広がっていく。


アスファルトに、

ぽつり。ぽつりと。


また一滴、

禍々しい紫黒色の露が落ちる。


まるで空に浮かぶ黒き月が流す涙。


その露が触れた瞬間。


ガードレールが――。


街路樹が――。


街を歩いていた人々の足元が――。


音もなく灰白色へと染まっていく。


それは破壊ではない。


――停止。


熱が奪われる。

生命の駆動音が失われる。


すべてが静かに凍りついていく。

挿絵(By みてみん)


叫ぼうとしても声は出ない。


喉は震えず。

空気は揺れず。

声は世界へ届く前に消滅する。


ただ静寂だけが、都市のすべてを塗り潰していく。


逃げる術もない。

助けを呼ぶこともできない。


数百万の命が静かな死へと引きずり込まれていく。


都市そのものが巨大な墓標へと変貌しつつあった。


だが――。

絶望はまだ始まりに過ぎない。


完全な静寂の中。


都市の四隅――。


東西南北の地平線が音もなく歪んだ。


囲む四方の空間が、巨大な刃で裂かれたかのように爆ぜる。


いや。

爆ぜる音すら存在しない。


ただ空間の裂け目から、

天を衝くほどの漆黒の質量が這い出してくる。


――顕現。


四体の超巨大魔獣。


それは山そのものが意思を持ったかのような異形の巨躯だった。


巨体には、無数の呪わしい眼孔。

静まり返った都市を見下ろしている。


魔獣たちがゆっくりと立ち上がる。


その身体から、さらに濃密な静寂の魔力が溢れ出した。


目に見える奔流となって都市へ流れ込んでいく。


――退路は断たれた。


四体の超巨大魔獣。

それは都市を《永劫の静寂》の檻へ閉じ込めるための巨大な楔。


音のない世界で。

漆黒の巨獣たちがゆっくりと蹂躙の歩みを進め始める。


世界の終わりを告げるように――。



――楓視点


目を覚ます。

自宅のベッドの上だった。


視界に入ったのは、すぐ傍にいた二人の姿。


シエル。

そしてレギ。


二人とも心配そうな顔をしていた。


朧げな記憶が浮かぶ。


苦しみの中で見た過去――。


私は思い出していた。


お父さん。

お母さん。


交通事故の日。


私を庇って亡くなった二人のことを。


そして。

悲しみに沈んでいた日々。


そんなある日。

骨董店で見つけた古い魔導書。


《宵闇の書》。


封印された守護騎士を解放したこと。


二人との出会い。

新しい家族ができた日のことを。


私はゆっくりと口を開く。


「シエル……レギ……」


「「楓っ!!」」

二人の声が重なった。

名前で呼ばれるのが、どこか懐かしく感じる。


私は伝えなければならなかった。


《宵闇の書》が見せてくれた。


二人の行動を。


二人の想いを。


「もう――いいんだよ」


お父さんとお母さんを思い出すと、今でも涙が出る。


だけど――。

私はもう独りじゃない。


優しくて強い姉のようなシエル。


真っ直ぐで、時々不器用な妹みたいなレギ。


二人がいる。


「もう――いいんだよ」


私は二人を抱きしめる。

挿絵(By みてみん)


もう一度。

同じ言葉を伝えた。


やがて落ち着きを取り戻した頃。


私は窓の外を見上げた。


空に浮かぶ《漆黒の月》。


《宵闇の書》はすでに解放されている。


防衛・執行システムも起動してしまった。


「……止めないと」


あれは存在してはいけないものだ。


本能が警鐘を鳴らしている。


危険だ、と。


「もう大丈夫なのか」

聞き覚えのある声。


振り返ると、そこには三人の姿があった。

挿絵(By みてみん)


黒の魔導士《天輪》。


そして。

銀色と紅色の魔法少女。


アリスとエリザ。


「時間がない。端的に言う」


《天輪》は真っ直ぐこちらを見る。


「魔力枯渇は気にしなくていい」


「俺が供給する」


静かな声。

だが絶対的な確信があった。


「アリス、エリザ、シエル、レギ」


「四人で四方の超巨大魔獣を撃退してほしい」


そして。

私へ視線を向ける。


「戦闘指揮はカエデ。君に頼みたい」


「このメンバーで都市消滅の危機に立ち向かう。」


言葉に嘘はなかった。


私は《宵闇の書》へ意識を向ける。


防衛・執行システムは、起動と同時に切り離されていた。


《宵闇の書》から命令は届かない。


制御不能。


暴走状態。


妙な違和感はある。

この状況。


何か別の――、意思の介入。


《宵闇の書》が伝えてくる。

まるで怒っているかのように。


この状況そのものへ。


私は静かに目を閉じた。


そして頷く。

「分かった」


守護騎士たちを見る。


アリスを見る。


エリザを見る。


皆が頷いた。


ならばやることは一つだ。


都市を守る。

あの異常を止める。


「行くぞ――」

黒の魔導士《天輪》の声が響く。


それを合図に。

魔導士たちは夜空へと飛び立った。

作者( ゜Д゜):画像生成AIって妥協が大事だよね。

オコジョ:俺は知ってるぞ、一時期、オコジョを意図的に太らせてただろ……

作者( ゜Д゜):ギクッ!



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