第71話_深淵が潜む防衛・執行システム
――膨大な魔力の奔流が噴き上がる。
夜空へ。
都市全域へ。
「……艦長!!」
真っ先に反応したのはニコだった。
「えぇ……」
ミスティも窓の外を見つめる。
「視認できるほどの魔力……。
想像以上だわ」
その光景に、思わず息を呑む。
「あの辺りは……」
エリザが眉をひそめる。
「学校の近くではありませんの?」
アリスもすぐに気付いた。
知っている場所だ。
近い。
かなり近い。
「飛びます!」
アリスが即座に言った。
ミスティは短く頷く。
「頼んだわよ」
そして、静かに続けた。
「場合によっては――
衛星軌道上の時空航行戦艦を動かすわ」
その言葉の意味を、二人は理解していた。
――《次元断絶砲》。
都市の一部を隔離する最終手段。
それは、最悪を想定した宣告でもあった。
そんなことにはさせない。
自分たちの街は、自分たちが守る。
その決意を胸に――
アリスとエリザは夜空へ飛び立った。
――
――――
防衛・執行システムの復活。
それは本来、破壊のために作られた超巨大術式だった。
原作アニメでは、
楓と守護騎士たちが《宵闇の書》へ取り込まれる。
意識のほとんどない楓の心が投影され――
当時戦っていたキメラ型魔獣を模した巨大破壊システムが顕現する。
超巨大魔獣の顕現。
そして、精神世界での葛藤とは別に
現実世界では、大怪獣戦闘が繰り広げられる。
そういう物語だった。
だが――
現実は違う。
祐司の介入によって、
楓も、シエルも、レギも、
誰一人《宵闇の書》へ取り込まれていない。
意思なき防衛・執行システム。
暴走はしている。
だが――
意思を持たないシステムが、どう動くのか。
誰にも分からなかった。
祐司にさえ。
いや――
本当に意思は存在しないのか。
祐司自身も知らない。
――否。
忘れさせられている記憶。
――最初の超次元振動。
地球への最初の流入。
異界の魔力。
流れ込んだのは、ただの魔力ではない。
それは――■■■■■■の意思。
遥か彼方。
世界の壁の向こう。
異界に存在する“夜”の意思。
その断片が、
魔力の流れを通じて超巨大術式へと介入していた。
――静寂。
膨大な魔力の奔流とは裏腹に、
都市へ異様な静寂が訪れる。
急激に気温が下がった。
肌寒い。
いや――寒い。
背筋が凍るような感覚。
誰もが空を見上げる。
そして。
防衛・執行システムが発動していた――
【永劫の静寂】
原作には存在しない現象が発生した。
「……あれは?」
祐司が呟く。
魔力の奔流が晴れていく。
その先に現れたもの。
空に浮かぶ――
【漆黒の月】。
存在するはずのない月。
世界に映ってはならない黒い月。
そして次の瞬間。
東西南北。
都市を囲む四方から、
膨大な魔力反応が発生した。
四体の超巨大魔獣。
――顕現。
都市を包囲するように立つ巨影。
「この展開は――」
祐司が呟く。
「知らんぞ……」
原作にはない。
知識に存在しない。
完全な未知。
膨大な魔力の奔流の先に現れた絶望。
それは後に、
“夜”に関する事件として記録されることになる。
平穏な日常の裏側。
誰にも知られず、
異界の呪詛のような魔力が、
少しずつ世界へ滲み続けていた。
そして今。
《宵闇の書》の完成によって、
展開された超巨大術式。
異界の魔力。“夜”の意思の介入。
本来映るはずのない、
【漆黒の月】が満ちる。
世界を拒絶し、
全てを終わらせる破滅の魔法。
――【永劫の静寂】
東西南北。
四体の超巨大魔獣。
世界を包囲し、
すり潰していく絶望。
その始まり。
後世の文献――
《翠瞳の黙示録》には、こう記される。
『日輪の背後に黒き衣が隠れ、静かなる大地に届かぬ声が染み渡る。
水面に映らぬ月が満ちる時、禁じられた色の露が、四隅より湧き出でん』
――
――――
俺は家の外へ出た。
異様な空気。
【漆黒の月】。
そして、四体の超巨大魔獣。
その全てを見上げる。
想定外だ。
完全に。
「どうなってやがる……」
原作を思い返しても、
この規模の顕現は存在しない。
そして――
この静寂。
肌で分かる。
これはただの現象ではない。
魔法だ。
それも極めて質の悪い類の。
「……まずいな」
はっきりと知覚する。
そんな時だった。
「ゆ……黒の魔導士さん!」
聞き慣れた声。
振り向く。
「アリス! エリザ!」
急いで飛んできた二人。
だが――
少し様子がおかしい。
(アリスは、若干頬を膨らませている)
(エリザは、なぜかニマニマしている)
(何かあったのか……?)
――考える。
だが今は、それどころではない。
時間が惜しい。
俺は再び空を見上げた。
四体の超巨大魔獣。
そして漆黒の月。
――この場の戦力を計算する。
「……総動員するしかないか」
静かに呟く。
俺は覚悟を決めた。
解放状態からずっと発動し続けている。
『永久循環』。
放出した魔力は霧散しない。
円環を描き、
再び俺の元へ還ってくる。
魔力残量を気にする必要はない。
「一人一体だ」
四体の超巨大魔獣。
奇しくも、戦闘魔導士が四人いる――。
戦いは、これからだ。
オコジョ:三章の最後までに俺っちの活躍はあるんだろうな!?
作者( ゜Д゜):お…おう。あったかな……?




