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第70話_書の完成

――アリス視点


会議の途中。


「一人で行動する」

そう言い残し、黒の魔導士《天輪》は部屋を後にした。


「黒の御方……行ってしまいましたわ」

エリザちゃんが、閉ざされた扉を見つめながら呟く。


その視線は、しばらく動かない。


私はそんな横顔を見て、ふと思った。


(エリザちゃんって……)


(黒の魔導士が祐司だって……)


(気付いてない……よね?)


思い返してみても、そんな様子はなかった。


私は少し身を寄せる。

「……エリザちゃん」


「?」


祐司は昔から正体を隠している。

だから周囲に聞こえないよう、小声で耳打ちした。

挿絵(By みてみん)


「たぶんなんだけどね……」


「黒の魔導士って――」


そして私は、自分の推測を伝える。


確証はない。

本人から聞いたわけでもない。


それでも、私の中ではほぼ答えが出ていた。


話を聞いた瞬間。


エリザちゃんの目が大きく見開かれる。


「……えっ」

口をぱくぱくと開閉し、言葉が出てこない。


かなり衝撃だったらしい。


正体は知らなかったんだね。

私は少しだけ満足する。


親友であり、ライバルでもあるエリザちゃん。


でも、これで対等だ。

そんな気がした。


――――


「対策を考えましょう」


しばらく絶句していたミスティさんが、気を取り直すように口を開いた。


今後どう動くか。

それが問題だった。


《宵闇の書》の完成阻止。


それが最優先事項である。


「色々話は聞いたけど……」

私も状況を整理する。


守護騎士、魔法少女カエデの居場所は不明。


こちらから打てる手はほとんどない。


《宵闇の書》の解放まで、あとどれほど魔力が必要なのか。


それすら分からない。


どうしても後手に回る。


そして――。

話し合いの末に出た結論は一つだった。


状況注視。


ニコ・ラズパレードさんが探索魔法で周辺の魔力反応を監視。


私とエリザちゃんは、いつでも出撃できるよう待機。


それしかなかった。


(祐司……)

ふと彼のことを考える。


一体どうするつもりなのだろう。


――いや。

分かっている。


彼のことだ。


魔法少女カエデを。

きっと助けに行ったのだ。


黒の魔導士《天輪》は、いつだって助けてくれた。


私たちが苦しい時も。

危ない時も。

必ず手を差し伸べてくれた。


だから今回もきっと――。


チクリ。

胸の奥が少しだけ痛んだ。


「……むぅ」

気付けば頬を膨らませていた。

挿絵(By みてみん)


「アリス?」

エリザちゃんが首を傾げる。


「ほっぺを膨らませて、どうしましたの?」


「な、なんでもないよ!」


慌てて顔を逸らす。


自分でも理由はよく分からなかった。



――――

――


楓の家周辺。


黒の魔導士《天輪》――俺は家の前に降り立った。


周囲には守護騎士たちが展開した隠蔽魔法。


だが、その内側では膨大な魔力が荒れ狂っていた。


「……魔力暴走」

俺は静かに呟く。


日本支部襲撃。

ミスティやオコジョ。

多くの局員たちから魔力を奪ったはずだ。


だが――。

「まだ足りないな」


《宵闇の書》は、まだ未完成。


中途半端な解放状態。

それが最悪だった。


書は完成しない――。

――だが暴走は続く。


楓だけが苦しみ続ける。

そんな状態――。


俺は家の中へ踏み込んだ。


部屋には楓。

そして、その傍らにはシエルとレギ。


二人とも疲弊しきっていた。


「なぜだ……」

シエルが苦しげに呟く。


「まだ足りないのか……」

レギも悔しそうに拳を握る。


「なら……私の魔力を――」

シエルが《宵闇の書》へ手を伸ばした。

挿絵(By みてみん)


その瞬間。


「やめておけ」

静かな声が部屋に響く。


「「っ!?」」

二人が同時に振り向く。


「「お前は!!」」

ようやく俺の存在に気付いたらしい。


だが俺は構わず続ける。

「魔力を与えても暴走するだけだ」


「下手をすれば、お前たちごと取り込まれる」


原作で起きた悲劇。


書の完成。

防衛・執行システムの暴走。

そして、楓と守護騎士たちは、システムに取り込まれる。

その後の精神世界での葛藤。


俺はその未来を知っている。


「楓を救いたいなら――」


左手に魔力が集まり、《天輪》を形成する。


カチリ――。

世界の歯車が噛み合うような音。


「俺に任せろ」


「何だと――!」


瞬間。

シエルとレギが動いた。


「奥義――《蒼刃一閃アズール・ブリッツ》!」

蒼い斬撃。


「奥義――《巨震崩壊デトネーション・ストライク》!」

赤黒い破壊の奔流。


二つの奥義が同時に襲い掛かる。


だが――。

カチリ。

再び音が響いた。


「第二解放――」

翠の魔力が世界を満たす。


「【多重加速マルチ・アクセル】」


思考。

魔力。

現象。

すべてが引き延ばされる。


世界が遅くなる。


そして――。

轟音。

爆発。

煙。


「……やったか」

シエルの声だけが聞こえた。


その煙の中から――。

翠の瞳が静かに輝く。


「……無傷」

レギが息を呑む。


守護騎士二人の奥義。


至近距離からの同時攻撃。


それでも。

黒の魔導士は立っていた。


無傷のまま。


「くっ……」

シエルが膝をつく。


限界だった。


日本支部襲撃。

施設破壊。

ミスティとの戦闘。


度重なる奥義の使用。


魔力はほぼ尽きている。


俺は静かに楓へ歩み寄った。

そして手をかざす。


「《天輪》よ――」

翠の魔力が渦を巻く。


「彼女の肉体を保護し、《宵闇の書》を解放しろ」


《宵闇の書》が反応する。

俺の魔力を吸い上げながら。


原作は極力変えない。

防衛・執行システムも復活させる。


だが――。

楓は守る。


翠の魔力が楓を包み込む。

「楓……」


彼女の苦しむ姿は見たくない。

だから。


精神世界での苦悩も。

待ち受ける悲劇も。


今回は無視する。


俺は静かに告げた。

「これで――書は完成だ」


瞬間――。

轟――――!!


膨大な魔力の奔流が噴き上がる。


隠蔽魔法を突き破り。


夜空へ。


都市全域へ。


世界へ。


今、その封印が解かれた。


それは――。

古代魔導書《宵闇の書》の。

防衛・執行システムの発動。


破壊のための超巨大術式――。


絶望が顕現する。

オコジョ:おいおい、復活させて大丈夫なのか、

作者( ゜Д゜):防衛・執行システムも復活……それは悲劇の始まりだ

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