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第68話_脱出せよ

――時は少し遡る。


有栖川家。

祝日の昼下がり。


廊下を歩いていたオコジョは、ふと部屋の中を覗き込んだ。


そこには――。

ソファに張り付きながら、だらけきった姿のアリスがいた。


パジャマ姿。

片手にはポテトチップス。

視線はテレビへ固定。


完全に休日モードである。


「……やれやれ」

オコジョは小さくため息を吐いた。


最近は色々あった。


日々の訓練。

魔法生物討伐。


守護騎士との戦闘。

聖女クラリスとの邂逅。


年頃の少女には負担も大きかったはずだ。


(少し疲れているのだろうな)


再びソファへ沈み込むアリスを見る。


今日はこのまま一日動かない気がする。


「……そっとしておくか」


自分ものんびり過ごそう。


そう考え、休日計画を練っていた


――そんな時だった。


『ピー、ピー』

管理局用の緊急通信デバイスが鳴る。


「ん?」

オコジョは即座にウィンドウを展開した。


表示された内容を見て――表情が変わる。


『時空管理局日本支部 緊急警報』


『施設強襲』


『侵入者確認』


『戦闘発生』


「……!」


緊急招集。

日本支部近辺の管理局員へ一斉送信された警報だった。


何かが起きている。

しかも相当まずい。


オコジョは、部屋にいるアリスの元に向かう。


ソファに沈んでいた……。


使い物にならなそう……。


だが――。


「アリス!」


「ほぇ……?」

焦点の合っていない瞳。


数秒かけて意識が戻る。


「あ、オコジョさん?」


「大変だ!」


オコジョは状況を簡潔に説明した。


時空管理局日本支部襲撃。


戦闘発生。


現在進行形の緊急事態。


アリスの表情が一変する。


先ほどまでの緩み切った空気が消えた。


「エリザちゃんに連絡する」

立ち上がる。


「現場へ向かうよ」


「うん」

オコジョは頷いた。


「アリス、僕は先に行くね」


――影が揺れる。


次の瞬間。

オコジョの姿は消えた。


もう事件は始まっている。

一刻を争う。



――――

――


時空管理局日本支部。


崩壊した施設内部。

瓦礫の間を縫うようにオコジョが走る。

挿絵(By みてみん)


ミスティ。

ニコ。


二人は救出した。


だが――。

まだ終わっていない。


(どうする?)

思考を巡らせる。


飛行魔法では駄目だ。

影移動が使えなくなる。

追いつかれる。


エレベータは破壊されていた。

ならば――。


(――非常階段)

即断。


影へ潜る。移動、次の瞬間、影外へ出る。

再び影へ潜る。


その繰り返しで階段を駆け下りる。


瓦礫を越え、移動する。


急げ。


地上にはアリス達が到着するはずだ。


彼女達が来れば戦況は変わる。


急げ――。


その瞬間だった。


――ドォォォォォォォォン!!


轟音。

建物全体が激しく揺れた。


近い。

あまりにも近い。


上階の天井が砕ける。

階段が吹き飛ぶ。


瓦礫の中から現れた人影。


守護騎士シエル。


蒼い瞳が真っ直ぐこちらを見ていた。


「逃がしはしない」


「くそぉ……」

オコジョは思わず呻く。


(戦うか?)


(無理だ。)


(勝てない。)


自分は総合Bランク。

相手は守護騎士。


まともな戦闘にならない。


だが――。

このまま捕まるわけにもいかない。


一瞬で思考する。


切り札――。影移動の高等術式。


二点間の影を魔力で繋ぎ、移動する魔法。

距離が離れすぎていると無理だが……。


都市内くらいの距離は繋げられる。


しかし、

魔法の発動……、その後、

自分が潜る――。


(無理だ。)

(守護騎士が、そんな時間を与えるとは思えない。)


自分が逃げる時間はない。


なら――。


自分ではなく。

二人を飛ばす。


(移動先は――)


登録済みの影。


アリス。

そして――。


オコジョは一人の少年を思い浮かべた。


翠の瞳。

黒の魔導士。


「……祐司」

小さく呟く。


「――頼んだぞ」

影が揺れる。


魔法陣は展開されない。

ただ静かに影だけが歪む。


高等魔法術式。

《潜影極転》(シャドウ・リンク)。


――発動。


その瞬間。

シエルが動いた。


「一閃」

蒼い斬撃。


オコジョは防御に回すリソースも全てを魔法発動につぎ込む。


――移動完了。


その直後。

衝撃が身体を貫いた。


「きゅ~……」

意識が途切れる。


――倒れ込むオコジョ。


そして――。黒い紙片が現れる。

《宵闇の書》のページ。


生き物のように蠢きながら魔力を喰らう。

挿絵(By みてみん)


完全ではないが、AAランク。

そして、Bランク。


十分な収穫があった。


「潮時だな」


シエルの魔力感知には、

支部に近づく強い魔力を知覚する。


――星銀の魔法少女


――紅雷の魔法少女


二人が、向かってきているのだろう。


静かに目を閉じた。

(レギも多くの魔力を集めているはずだ。)


守護騎士の願い。

――主の救済。


苦しむ少女の顔が脳裏に浮かぶ。


――楓。


私は、もう止まれない。

止まるつもりもない。


シエルは静かに呟いた。


「私は――」

そして前を向く。


「止めることは――しない」


その声は誰にも届かない。

ただ崩壊した日本支部の静寂へと溶けていった。

オコジョ:やられてるじゃないか!

作者( ゜Д゜):どう考えても、君じゃ無理でしょ!

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