第61話_合同作戦
――辺境惑星近郊・宇宙空間。
漆黒の宙域。
その深部に――。
三隻の時空航行戦艦が静かに潜んでいた。
隠密潜水モード《サイレント・ダイブ》。
次元の狭間へ半ば沈み込み、観測すら困難な特殊航行状態。
合同作戦開始の時を待ちながら、艦隊は静かに漂っていた。
――エリュシオン魔導王国戦艦 《アルカディア》
艦内ブリーフィングルーム。
大型モニターには辺境惑星の立体地図が表示されている。
その前で、大柄な男が腕を組んでいた。
身の丈ほどもある長銃型デバイス《ディスタンス・ジャッジメント》を背負う巨漢の騎士。
彼はニヤリと笑った。
「制限無しで暴れていいのか?」
確認するような口調。
その問いに答えたのは――。
妖艶な魔女風の女性だった。
長い黒銀髪。
成熟した美貌。
「えぇ。
今回は特例よぉ」
艶やかな声が響く。
「魔力制限は解除ぉ。
好きなだけ暴れていいそうよぉ」
その言葉に。
ガイの口元が大きく吊り上がった。
「そいつはいい」
魔力ランクSS。総合SS+。
王国十二守護騎士第四位。《超狙撃》ガイ。
王国最強の称号である
十二守護騎士。
莫大な特権と権限を持つ存在。
だが同時に――。
王国は彼らに厳しい制約も課していた。
あまりにも強すぎるが故の魔力制限。
都市部で全力を出せば、一撃で地形が変わる者さえいる。
だからこそ普段は出力を抑えられている。
しかし今回は違う。
制限解除。
全力戦闘許可。
戦闘狂のガイにとって、これ以上ない朗報だった。
その時。
自動ドアが開いた。
入ってきたのは若い少女。
蒼銀色の髪。
氷のような蒼い瞳。
「お嬢も来たか」
ガイが声を掛ける。
セレナは眉をひそめた。
「……相変わらず暑苦しいわね、ガイ」
「知ってるか?」
ガイが豪快に笑う。
「最近話題の地球じゃあな。
お嬢みたいなのをツンデレって言うらしい」
一拍置き。
「デレは無さそうだがな! ワハハ!」
豪快な笑い声。
次の瞬間――。
空気が凍った。
白い結晶が周囲に現れる。
魔力が可視化された現象。
セレナの瞳が冷たく細められる。
「……凍らすわよ、ガイ」
魔力ランクSS+。総合SS+。
王国十二守護騎士第三位。《蒼氷》セレナ。
その一言だけで周囲の温度が数度下がった。
「おー怖い怖い」
まったく反省していないガイ。
そんな二人を見て。
イザベラがため息を吐いた。
「作戦前に暴れないでねぇ」
妙齢の魔女は苦笑する。
魔力ランクSS+。総合SS+。
王国十二守護騎士第二位。《重力の魔女》イザベラ。
巨大な鎌型デバイス《グラビティ・ヘカテー》を携え、
彼女の魔法は、
疑似ブラックホールすら生成する最上級魔導士。
そして――。
室内の後方には、さらに二人。
静かに資料へ目を通す少女。
魔力ランクS+。総合SS。
王国十二守護騎士第七位。《静寂》フィオナ。
そして。
柔らかな雰囲気を纏う治癒術師。
魔力ランクS+。総合S。
王国十二守護騎士第十二位。《慈愛》エルゼ。
今回の後方支援担当である。
魔法世界において。
強さとは魔力量だけでは決まらない。
技術。
経験。
相性。
戦術。
あらゆる要素が存在する。
しかし――。
純粋な魔力量が多いことは。
それだけで圧倒的な強さに繋がる。
魔力ランクS以上。ストライカー級の基準。
SSなら英雄級の国家戦力。
SSSに至れば伝説。
十二守護騎士とは。
そんな化物達の集まりだった。
三組織合同作戦開始まで。
残りわずか。
参加組織は三つ。
エリュシオン魔導王国。
聖王教会。
時空管理局。
それぞれが精鋭を投入している。
前線戦力はAランクからSランク級。
後方支援部隊にもBランク、Cランクの熟練魔導士。
総数およそ百名。
辺境惑星へ送り込む戦力としては異常。
過剰戦力。
だが――。
それほどまでに。
この作戦は危険視されていた。
辺境惑星で蠢く"夜"の気配。
"組織"の暗躍…は、まだ証拠を掴めていない。
『強欲の夜帳』
まだ表世界に出ていない組織……。
しかし、それは、"夜"を信仰する、
遥か昔から裏で動いてた組織……。
最古より続く魔導王国は、その兆候を追っていた。
――だからこそ。
全力で叩く。
それが今回の方針だった。
――時空航行戦艦 《ジ・ウラノス》
艦橋。
静寂が支配する指揮室。
そこに立つ男。
時空管理局の提督。
総指揮官である男が静かに口を開いた。
「アムリタ――」
「はい」
返事と共に。
空間が揺らぐ。
誰もいなかった場所に。
一人の仮面の男が現れた。
まるで最初からそこに存在していたかのように。
自然に。
音もなく。
提督は振り返る。
「分かっているな」
低い声。
「管理局の秘匿戦力として連れてきた意味を」
「はい」
感情のない返答。
提督はゆっくりと言った。
「削れ」
空気が重くなる。
「■■■■■■様の世界に」
「我々の世界に」
「相応しくないものを」
沈黙。
男は静かに頭を下げた。
魔力ランクSSS。
時空管理局秘匿魔導士。
《虚無》アムリタ。
その存在は、ごく一部の上層部しか知らない。
管理局最大の隠し札だった。
誰が敵で。
誰が味方なのか。
まだ誰にも分からない。
王国が警戒する裏切り者。
管理局内部に潜む闇。
聖女の預言。
そして――。"夜"。
それぞれの思惑が交錯する中。
辺境惑星を巡る戦いは始まろうとしていた。
後に歴史書へ記される大事件。
数多の英雄と裏切り者を生み出す戦い。
――『永劫の帳事件』。
その幕が、
静かに上がろうとしていた。
オコジョ:登場人物が多いぜぇ
作者( ゜Д゜):永劫の帳事件は本編四章のメイン話ですね。
オコジョ:つまり、今は覚えなく良いと!!




