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第60話_聖女来訪

――時空管理局・日本支部。


週末。

俺はいつものように、アルバイトとして受付業務をしていた。


だが――。

今日は、局内の空気が明らかに違った。


慌ただしい。

普段は落ち着いている管理局員たちまで、どこか緊張している。


理由は単純だった。


「――聖王教会所属、《聖女》クラリス様が到着されます!」

館内放送が響く。


支部全体が軽い緊張状態だった。


魔法世界シルヴァリス・エリュシオンの超重要人物。


本物の“聖女”。

そして――。


翠の瞳。

未来視の力を持つ少女。


“時の番人”。

そんな存在が、日本支部へ視察に来るのだから当然である。


支部の管理局員は総出で対応に追われていた。

そんな日だったが――。


「……今日の受付、俺一人だと……?」


俺は現実を見て呟いた。


視線の先。

受付カウンター裏。


俺の上司が椅子の上で白目を剥いていた。


「おい」

反応なし。


「おーい」

反応なし。


どうやら本当に気絶しているらしい。


原因は腹痛と極度の緊張。

情けない。


いや、気持ちは分かるけど。

その時。


「あなたが一人で対応しなさい」

後ろから声が飛んできた。


振り向く。

ミスティ艦長だった。


「聞いてないんですけど……」


「今言ったわ」


「横暴だ……」


だが、艦長は取り合わない。

俺は小さくため息を吐いた。


――俺は別の意味でも不安だった。


聖女クラリス。

原作でも超重要人物だ。


だが。

(聖女がこの時期に地球へ来るイベントなんて……あったか?)


記憶を探る。


――ない。

少なくとも、俺の知る原作には存在しない。


もちろん。

アニメで描かれていない日常や出来事は沢山ある。


――だが。

聖女来訪。


こんな大きなイベントが完全に語られていないのは妙だ。


(……何か原作と違うことが起きてる?)


そんな不安を抱えながら。

俺は受付準備を進めた。



――予定時刻。


自動ドアが静かに開く。


ふわり――。

一人の少女が姿を現した。


静かな微笑み。

純白と金を基調とした聖装。


長い金髪。

そして――。


透き通るような翠の瞳。


――聖女クラリス。


その瞬間。

局内の空気が変わった。


「本日は、お招きありがとうございます」

柔らかな声。


周囲の局員たちが一斉に背筋を伸ばす。


――眩しい。

――神々しい。

存在そのものが聖属性みたいな少女だった。


だが――。

「……?」

クラリスの視線が止まる。


受付。

正確には。


俺と。

視線が合った。


「…………」


じっ。

見られる。


嫌な予感しかしない。


(……気づいたか)


クラリスの翠瞳が僅かに揺れる。


翠――。

俺と同じ時間系統の魔法資質。


もちろん魔力は隠蔽している。


だが――。

同質の巨大な魔力同士。


微かに共鳴した。

本当に微細な反応。


――クラリスは何も言わなかった。


ただ。

「受付をお願いしますね」


自然な笑顔で近づいてくる。

挿絵(By みてみん)


「……はい」

そして。


――近い。

――やたら近い。


「お名前を聞いても?」


「……内藤祐司です」


「祐司さん」

名前を呼ばれた。


しかも微笑み付き。

――本当に近い。


その様子を。

少し離れた場所から見ている二人がいた。


「……エリザちゃん」


「なんですの、アリス」


「あれ、近くない?」


「近いですわね」


空気がピリついた。


ちなみに周囲の局員たちは。


(聖女様だ……)

(尊い……)

(浄化されそう……)

などと思っていたのだが。


俺だけは冷や汗を流していた。


クラリスが微笑む。

「祐司さんは、こちらで働いているのですか?」


「受付担当ですね」


「そうなのですね」

にこり。


柔らかな笑顔。

だが。


何故だろう。

探られている気しかしない。


しかも距離が近い。


その様子を見て。


「……むぅ」

アリスが頬を膨らませた。


「なんですの、あの距離感……」

エリザもジト目になる。


そして二人とも。

無意識にこちらへ寄ってきた。


クラリスが首を傾げる。

「そちらのお二人は、お知り合いですか?」


「はい!そうです!」

アリス即答。


「えぇ、かなり親しいですわ」

エリザも続く。


なぜか牽制が始まった。

挿絵(By みてみん)


「……?」

クラリスは不思議そうに小首を傾げる。


――天然だった。


俺は頭を抱えたくなった。


(なんだこの状況……)

その時。


「ぶっ――」

変な声が聞こえた。


振り向く。

そこには。

復活した中年上司。


でっぷりとした体格。

額に汗。

――そして。


「あ……あ……」

口をあんぐり開けて固まっていた。


視線の先には。


聖女。

アリス。

エリザ。


美少女三人に囲まれる俺。


「ゆ、祐司ぃぃ……」

震える指。


「なんでそんな状況になってんだぁぁぁぁぁっ!?」

魂の叫びだった。

局内の男性陣が一斉に頷く。


分かる。

その気持ちは非常によく分かる。


だが。

「祐司さん」

クラリスが微笑んだ。


「後で少し、お話できますか?」


「…………」

空気が変わる。


アリスが笑顔になる。

「へぇ……?」


エリザも笑顔になる。

「ほぉ……?」


笑っている。

――だが怖い。


非常に怖い。


俺は悟った。

――今日のバイト。


無事には終わらない。


その後。

俺はクラリスたちを局長室へ案内することになった。


なぜか俺も同行だった。


――なぜだ。

受付だけの担当ではなかったのか。


俺は歩きながら思う。

脳内では何故か。


♪ドナドナドーナー


♪ドーナードーナー


そんな音楽が流れていた。

連行される子牛の気分だった。

作者( ゜Д゜):ドナドナドーナー♪

オコジョ:ドーナードーナー♪


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