第51話_聞いているのか?
――春。
二年半という歳月の中で、世界は確かに変わり始めていた。
日本は水面下で魔法世界圏への編入を進めた。
一般社会には、まだ公表されていない。
だが、日本政府と時空管理局との交流は既に本格化していた。
その中心にいるのが――ミスティ・オーレリア提督。
彼女をトップとして、時空管理局日本支部が設立。
「おい、祐司。聞いているのか?
俺が若い頃はなぁ……」
目の前で、でっぷりとした中年男性が唾を飛ばしながら語っている。
窓の外では桜が揺れていた。
春の日差し。
穏やかな風景。
俺はぼんやりと外を眺める。
こうして時間が過ぎるのを待つのも、嫌いではない。
「最近の若い奴は本当に話を聞かんなぁ……」
明日は高校の入学式。
アリス。
エリザ。
そして――カエデ。
原作アニメ三期の主要メンバーたち。
みんなと同じ学校に通えると思うと、少しだけ楽しみだった。
「……聞いているのか祐司ぃぃ!」
怒鳴り声と共に唾が飛ぶ。
「…………」
このデブのおっさん――いや、失礼。
一応、俺の上司だ。
ここは時空管理局日本支部。
俺のバイト先でもある。
アリスとエリザは、既に管理局の戦闘部隊へ所属している。
次世代エース候補。
そう呼ばれ始めているらしい。
順調に……、いや、大分早いが
原作と同じ未来へ向かって歩んでいた。
……俺?
俺は受付事務のアルバイトだ。
戦闘員ですらない。
「オコジョ先輩の紹介だからって、気を抜くなよ……」
そう。
一応、オコジョ先輩のコネという形で入っている。
表向きは、ただの一般バイト。
「彼は、あの時空航行戦艦所属の御方だからな……。
俺たちとは住む世界が違うんだ……」
「へぇー」
「おい祐司! 聞いてるのか!?」
「聞いてます聞いてます」
今日も平和だった。
ぼんやり窓の外を眺める俺と、
やたら声の大きい上司。
そんな、いつもの時空管理局日本支部。
――
――――
受付事務は、基本的に暇だ。
そもそも一般人が来る場所ではない。
この時間帯に顔を出す人物など、だいたい決まっている。
「あ、祐司!」
「バイトとは熱心ですわね」
受付へやって来たのは、アリスとエリザだった。
「二人とも今日も訓練か?」
「うん。管理局の設備で教導訓練だよ」
アリスはいつもの落ち着いた声で答える。
「祐司は?」
「俺はいつも通り。のんびり受付事務だ」
「……そう」
なぜかアリスが少しだけ意味深な視線を向けてくる。
………。
彼女は何か気付いている気がする。
だが、決定的なことはまだ何も言われていない。
つまり、セーフだ。
たぶん。
きっと。
二人はそのまま訓練エリアへ向かっていく。
その背中を見送りながら、俺は小さく息を吐いた。
――黒の魔導士《天輪》。
その正体が、まだバレていないことを祈りながら。
「……祐司ぃぃ。今の二人……」
「ん?」
隣で上司が震えていた。
「管理局で“次期エース”と噂されている、
アリスさんと、エリザさんではないか……!」
「へぇ」
「へぇじゃない!
雲の上の御方だぞ!?
言葉遣いに気を付けろ、祐司!」
「…………」
このおっさんの中で、管理局ってどういう組織なんだろう。
オコジョ:オコジョ先輩!良い響きだ
作者( ゜Д゜):主人公のモブポジションからお届けします。




