第48話_艦長は止められない
――住宅街
「暑いわね」
「艦長、地球では夏っすよ」
夏半ばを過ぎ――
夏休みも終わりに近づく頃。
青を基調とした時空管理局の制服を着こなし、
二人の人物が住宅街を歩いていた。
照り返すアスファルト。
遠くで鳴く蝉の声。
地球の夏景色の中で、
二人はどこか浮いて見える。
「待ち合わせは喫茶店だったわね」
「はいっす。
そこでオコジョと、例の彼女……
アリスさんと会う予定っす」
隣を歩く女性――
ニコ・ラズパレードが端末を確認しながら答える。
「そう……」
ミスティ・オーレリア艦長は、小さく目を細めた。
「彼女……
応えてくれるかしら」
「Sランク越えの資質っすからね。
ぜひ勧誘は成功させたいところっす」
将来有望な魔導士の勧誘。
それは時空管理局において、
佐官級以上に与えられる特権の一つ。
特に“星属性”。
極めて希少な資質。
管理局としても、
見過ごせる存在ではない。
ふと。
艦長が、空を見上げた。
「艦長?」
「……なんでもないわ」
だが、その視線は鋭い。
目的地まで続く住宅街の上空――
そこには微かに、
魔力の歪みが残っていた。
隠蔽されている。
だが、完全ではない。
(……誰かが張った痕跡)
一瞬だけ、
艦長の瞳が細くなる。
だが、それ以上は追わなかった。
今は――
優先事項が違う。
二人は、そのまま歩き続けた。
――祐司宅
「ミスティ・オーレリア艦長……
時空管理局本局提督(少将)。
時空航行戦艦艦長」
思い出しながら呟く。
「年齢は二十代後半……
魔導師ランクは総合AA。
艦船リンク時の広域制御はSクラス級……」
「ニコ・ラズパレード。
時空航行戦艦主任オペレーター兼、索敵通信士」
「年齢は二十歳前後。
ランクは総合B……
後方支援・通信特化型……」
目を閉じる。
「……やはり来たか」
原作通り。
だが――
時期が早い。
本来なら、
アリスへの正式接触は、まだまだ先で
高校卒業後の、
管理局士官ルートへ繋がっていく。
それが原作の流れだった。
「だが……
今はまだ、中学生時代だ」
俺は小さく息を吐く。
アリスが何を選ぶのか。
管理局か。
地球に残るのか。
あるいは――別の道か。
「……まあ」
立ち上がる。
「どんな選択でも、
俺は応援するだけだ」
なら。
その瞬間は、
ちゃんと見届けなければならない。
「……行くか」
魔法少女オタクの行動原理は、
いつだってシンプルだった。
――
――時空管理局本局・将官室
部屋へ入ってきた若い局員が敬礼する。
「第97管理外世界より、
特級魔法犯罪者の護送任務が完了しました」
「ご苦労」
机に向かっていた将官が書類を閉じる。
「……あぁ、その者だが」
わずかに視線を上げた。
「博士が面会を希望している」
「拘置したばかりですが……」
局員の表情が曇る。
「どうも博士が、
”魔法因子”と……
現場から回収された“特殊な魔結晶”について、
興味を示していてな」
「はぁ……」
嫌そうな顔。
「相手は特級魔法犯罪者ですよ」
「……君」
将官は疲れたように額を押さえる。
「博士曰く――
“技術に犯罪などという概念はない”
……だったか」
「…………」
沈黙。
「……分かりました。
面会許可を申請しておきます」
局員は諦めたように敬礼した。
――
――特級拘置区画
重厚な通路。
白衣を着た男が、
局員の案内で歩いていた。
「この先が拘置所です」
局員が警告する。
「相手は危険人物です。
不用意な会話は避けてください」
「君ぃ~」
男はへらりと笑う。
「技術にぃ~
犯罪なんて概念はないよぉ~」
細い目の奥。
そこだけが、
異様に鋭かった。
「あるのはぁ~
辿り着くべき“真理”だけだ」
(『禁忌』とは、
理解できない現象への恐怖に過ぎない)
(私は……
その先を見たいだけなんだ)
狂気。
理知。
探究心。
その全てが、
歪に混ざり合っている。
局員は思わず一歩引いた。
そして――
重い扉が開く。
狂人と、
狂人。
原作通りなら、
ここから物語は加速する。
だが。
現場から回収された、
“本来存在しないはずの強化魔結晶”。
その違いが、
未来をどう変えるのか。
まだ誰も知らない。
オコジョ:教授!収監されたんだね…。
作者( ゜Д゜):”最悪の夜”への伏線ですね。
オコジョ:作者は「夜」ってワードで惑わせにきてるな…。




