第35話_王女の一日は止められない
「……結局、一睡もできなかった……」
布団の上に座り込み、深く息を吐く。
(まさか、王女とエリザがあんなに寝相が悪いとは……)
昨夜の光景が脳裏に蘇る。
狭い寝室。左右から押し寄せる圧力。逃げ場はなかった。
(……眠い……)
こめかみを押さえる。
転生して魔法が使えても……今は中学生の身体だ
夜通しの隠密魔法。
加えて、三人に囲まれた状態での精神的消耗。
回復する暇もなかった。
「先生に言って、今日の班行動は休ませてもらおう……」
ベッドへと倒れ込みながら呟く。
(劇場版でも、午後から……騎士たちと追いかけっこだからな)
目を閉じる。
「午前中くらい寝てても、シナリオには問題あるまい……」
自分に言い聞かせるように呟き、布団を引き寄せた。
「……おやすみ……」
――意識が、落ちる。
――アリス視点。
「今日は一日、班行動だけど……」
朝の空気の中、アリスが振り返る。
「アリス、私達の班は、今日はハイキングでしたわね」
エリザが落ち着いた口調で応じる。
「うん、エリザちゃん。周辺のコースを回って、スタンプを集めるんだよ」
説明するアリスの横で、小さな影が身を乗り出す。
「ほぅほぅ……このサインを集めるのじゃな」
レーゼ王女は、興味深そうに頷いた。
「わらわに任せるのじゃ」
当然のように宣言する。
「レーゼ王女……レーゼちゃんは、戻らなくていいの? えーと、魔法世界に……」
アリスは、昨日聞けなかったことを口にした。
王女は少し顎を上げ、胸を張る。
「シルヴァリス・エリュシオンのじゃ。城は窮屈なのじゃ。当分は遊ぶのじゃ」
あっけらかんとした言い方だった。
「いいのかな~……」
アリスが小さく首を傾げる。
「アリス、本人が言っているのですから、良いではありませんか?」
エリザは静かに言い切った。
「う~ん。親とか心配しないのかなって……」
「そうは……そうですわね」
わずかに言葉を濁すエリザ。
その空気を断ち切るように、王女が手を振る。
「アリス、エリザ、いくのじゃ。はいきんぐ……なのじゃ」
三人は歩き出す。
山道へと続く、穏やかな朝の道。
束の間の、平和な時間だった。
……。
………。
「昼は、途中に名物の団子があるそうですわ」
エリザが事前に調べていた情報を口にする。
「じゃあ、お昼はそこだね」
「のじゃ!」
軽やかな声が弾む。
三人の足取りは、どこまでも軽かった。
――ベルガサイド。
「ベルガ様、昼はそこの団子が美味しいと評判の店がいいのでは?」
女性騎士が淡々と提案する。
「団子だぁ……肉はねーのか」
大柄な騎士が不満げに肩をすくめた。
「二人とも、王女は近いはずです。気は抜かないでください」
静かな声が、場の空気を引き締める。
昼時。
ハイキングコースの中腹にある、小さな団子屋。
そこに――ひときわ騒がしい一団……いや、一人がいた。
「モチモチの団子なのじゃ! うまいのじゃ!」
頬いっぱいに団子を詰め込みながら、声を上げる小さな少女。
……王女である。
「「「………」」」
騎士たちは、言葉を失った。
王女はふと、こちらに気づく。
「のじゃ……?」
きょとん、と首を傾げた。
――王女の一日は、止められない。
オコジョ:俺っちの活躍は?約束しただろぉ?
作者( ゜Д゜):え?…寝相POVの方が大事だ!




