第32話_他学校の生徒を覗くは止められない
――夕方。林間学校周辺。
森の中を、一匹のオコジョが疾走していた。
この夏は、本来――
休暇をまとめて消化する予定だった。
……はずだった。
「なのに……あいつ……」
小さく舌打ちする。
祐司が言ったのだ。
――林間学校に着いてこい、と。
「一体、平和な学校行事に何があるって言うんだ……」
木々の間をすり抜けながら、周囲の気配を探る。
この辺りに、魔力の溜まりはない。
異常もない。歪みもない。
至って平和な場所だ。
オコジョは、影へと滑り込む。
管理局のエリート観察官。
戦闘員ではないが、隠密と解析・分析においては一級。
その感覚が告げている。
――問題なし。
「……やはり、何もないな」
そう結論づけた、その時だった。
『ピー、ピー』
管理局用の緊急通信デバイスが鳴る。
「ん?」
本国からの緊急メッセージ。
ウィンドウを開いた瞬間――
空気が、震えた。
魔力の高まり。
次の瞬間――
周囲が、爆ぜた。
――祐司サイド。
夕方まで、時間の許す限り釣りを楽しんでいた。
掴み取りでも、釣りでもいい。
自由な渓流釣り。
だが、その裏で。
(――)
魔力視、解放。
視界が拡張される。
(いた。楓だ)
一条楓。
第三期ヒロイン。
両親を事故で失い、孤独の中で生きる少女。
骨董店で古代魔導書――デバイスと出会う。
彼女の物語は、重い。
(……)
胸の奥が、少しだけ締め付けられる。
(うぅ……泣けてくる……)
視線は外せない。
(これ、ずっと見てられるな……)
――結果。
俺は釣りをしながら、一時間以上。
彼女を見続けていた。
(これだけは……止められない)
完全に、趣味である。
……。
………。
――夕方。
「鮎が釣れたぞ」
手にした成果を掲げる。
「飯盒も、もうすぐ炊けますわ」
エリザが火加減を見つめながら答える。
「今日はカレーと、鮎の塩焼きだね」
アリスが楽しそうに言った。
沈みかける夕日。
漂う炊煙。
賑やかな声。
(幸せな日常だ……)
その空気を、噛みしめる。
(俺は――平和を噛みしめていた)
林間学校、一日目。
静かに日が沈んでいく。
――???サイド。
薄暗い森の中。
影に溶けるように、二つの気配。
「今の……感じたか」
「ああ……凄まじい隠蔽能力だ」
低い声が応じる。
「だが……」
「我ら古代魔導騎士の感覚は誤魔化せん」
静かな断言。
「主を覗き見る魔導士がいるとはな」
空気が、わずかに張り詰める。
「この世界は温いと感じていたが……」
「認識を改める必要があるな」
ゆっくりと、魔力が巡る。
「我ら守護騎士――主のために」
「封印から復活したばかりだが……」
「魔力の回復を急ぐぞ」
影は、完全に闇へと溶けた。
止められない。
覗きも、運命も。
オコジョ:えぇ…俺っちの出番……
作者( ゜Д゜):推しヒロイン登場の方が大事だ
オコジョ:作者はハヤテ推し……と…




