第31話_舞台は夏の林間学校
――8月上旬。
夏休み中に行われる林間学校。
俺たちは今、バスに揺られながら、
奥多摩の山間にある施設へと向かっていた。
「祐司、外を見て下さいまし。
大自然の中で魚のつかみ取り、キャンプファイヤーですわ」
エリザが、しおりを片手に目を輝かせている。
一方――
「……っ……ゆう君……」
か細い声。
顔色も悪い。
完全にバス酔いだ。
アリスはぐったりと座席に身を預け、俺に助けを求めていた。
バスの最後尾。
三人並んで座れるこの場所で、
両隣に華を抱える形になっている。
(アニメお決まりの最後尾の構図……)
(劇場版でもそうだったな)
そんなことを考えているうちに、バスは目的地へと到着した。
「もう着くぞ、アリス!大丈夫だ。
無事、生還したぞ」
「……うぅ……」
少し間を置いて――
「ゆうじのバカ……」
放っておいた時間が長かったせいか、完全に拗ねている。
だが、それもどこか愛らしい。
バスを降りると、そこには広がる大自然。
澄んだ空気、木々の匂い、遠くで流れる水音。
今日から四日間。
中学生になって初めての林間学校が始まる。
――だが。
俺は知っている。
本番は、明日からだ。
この林間学校は、
劇場版『魔法少女アリス』の舞台でもある。
すでに、導入エピソードは始まっている。
「……行こう」
俺は二人に声をかける。
やることは多い。
林間学校も楽しみたいし、
アリスやエリザとの、ただの学生としての時間も大切だ。
――そして。
この林間学校には、他校の生徒も参加している。
劇場版では、ここで――
第三期ヒロインである、
一条楓――《魔法少女カエデ》が、
サプライズで登場していた。
その名前を思い浮かべた瞬間、
胸の奥が、わずかに高鳴った。
(見逃せないな)
魔法少女オタクとしての血が、静かに騒ぎ出す。
彼女が古代魔導デバイスを手に入れる時期。
原作では明確には描かれていないが、
タイミング的には、もう手に入れている可能性は高い。
そして――
彼女が背負う、複雑な事情。
それを思い出しながら、俺は歩き出す。
「祐司、早く行きますわよ。
運動着に着替えて、渓流釣り体験と飯盒炊き体験ですわ」
エリザが予定表を見ながら、急かしてくる。
「ああ、今行く」
――今は。
この時間を楽しもう。
そう思いながら、俺は二人の後を追った。
――魔法世界シルヴァリス・エリュシオン。
魔導大都市エリュシオン。
「王女がいなくなった……ですと」
モノクルをかけた執事が、低く呟いた。
整えられた執事服。
その立ち姿からは、一切の隙が感じられない。
「は、はい……目を離した隙に……」
王女付きのメイドが、怯えながら報告する。
「……あの王女は」
わずかに、間を置く。
「我が国唯一――
いえ、この世界でもただ一人、単独で“星渡り”が可能な魔導士です」
その言葉の重みが、部屋の空気を張り詰めさせる。
「ど、どうしましょう……」
「私の方で、十二守護騎士に連絡しておきます」
執事は即答した。
「少なくとも二名は、王女捜索に回してもらうつもりです」
「は、はい……お願いします、ベルガ様……」
魔導王国筆頭執事――ベルガ。
静かに目を細める。
そして、心の中で告げた。
――私の目が黒いうちは。
王女の“自由”など、
決して許しはしない。
オコジョ:そんなことより、俺っちの活躍は?
作者( ゜Д゜):えぇ?




