第25話_星双と雷光王冠
――研究所
壊れた外壁から、朝の光が差し込んでいた。
夜は終わり、空は白み始めている。
星銀の光と、紅色の雷。
二つの輝きが、崩壊した研究所を照らしていた。
「な、なんだ……その姿は……!
私こそが神だ! 私こそが……ッ!」
醜く肥大化した小早川教授が、怨嗟の声とともに魔弾を放つ。
だが、覚醒した二人にとって、それは――
止まって見えるほどに緩慢な一撃だった。
「エリザちゃん、行こう!」
「はい、アリス!
一気に決めますわよ!」
「私が……神だ……!」
三人の魔力が衝突し、再び高まる。
壁は完全に崩れ落ち、研究所の外の景色が露わになる。
「……お父様、さようなら。
この罪は、わたくしたちが背負いますわ!」
エリザの背後に浮かぶ《雷光王冠》が、
周囲の大気から電気を吸い上げる。
眩いほどの紅い放電が走り、
中距離射撃銃へと進化した『アストラペ』の銃身が限界まで赤熱した。
収束する雷鳴が、
空間そのものを焼き切るような音を立てる。
エリザの瞳に魔力が集まり、紅く輝く。
「すべてが……見えますわ」
「――『スカーレット・スナイプ』!!」
放たれたのは、紅蓮の雷光。
光速狙撃雷撃。
音を置き去りにして、教授の肥大化した巨体を逃れられぬ“雷の檻”へと縫い止めた。
「ぐ、ああぁっ!?
身体が……再生が、追いつかん……!」
「これで……終わりだよ!」
アリスが、槍型の杖を天に掲げる。
「――響け、果てなき星の歌!」
《星環》…星銀の粒子が、アリスの周囲を回る。
杖の先端へと集束し、
一点の極光へと圧縮されていった。
彼女の背後に浮かび上がるのは、
星を模した魔法陣。
「――『星界穿』!!」
星銀の奔流が、槍身に螺旋状に絡みつく。
……牙突。
それは、一瞬だった。
アリスと教授が交差した、その瞬間。
研究所を覆っていた禍々しい闇は消し飛び、
夜明けの空さえ白く塗り潰すほどの爆炎が吹き上がった。
魔力集束突撃攻撃。
速すぎる一撃に、ただ交差しただけのように見える。
――だが、違う。
「馬鹿な……私が、この世界の神になるはずが……
ぐ、あああああああ!!」
断末魔とともに、
教授の肉体に食い込んでいた強化魔結晶が、
根源から砕け散った。
過剰なリソースは、
二人の純粋な一撃によって強制的にパージされ、
光の粒子となって霧散していく。
爆風が収まり、静寂が戻る。
瓦礫の山となった研究所の中心。
そこには、魔力を失い、
ただの「老いた男」となった小早川教授が倒れていた。
そのすぐ傍ら。
魔力の繭に守られ、穏やかな寝息を立てる女性――
小早川ハラオウンの姿があった。
「……お母様……っ!」
エリザが駆け寄り、その手を握りしめる。
「……ん……エリザ……?」
微かに開かれる瞳。
数年ぶりに呼ばれたその名に、
エリザの目から大粒の涙が零れ落ちた。
「……終わったんだね、エリザちゃん」
アリスが二人の傍らに寄り添い、優しく微笑む。
俺は、その光景を、
崩れた天井の縁から無言で見下ろしていた。
「……一件落着、だな」
俺はデバイスを収め、
自身の存在を消す隠密魔法を展開する。
時空管理局も、ヒロインたちも、
いずれ俺という「イレギュラー」を追うだろう。
だが――
魔法少女が、正しく物語の主人公になれれば、それでいい。
それが、世界の「物語」の正しい歴史。
俺が救世主になる必要はない。
――時空航行戦艦内部
主砲の照準は解除され、
ブリッジではクルーたちが呆然とモニターを見つめていた。
「艦長、数値……正常値に戻りました」
「どこも異常は見当たらないっす。
あと、艦長の彼氏も見当たらないっす」
「おまえ……」
女性艦長は、深く椅子に座り込む。
「結果的に……上手くいったわ。
“結果”だけど」
「そうっすね」
「地球出身の魔導士三人……
計測データ、化け物じみてるっす」
「帰還して報告よ。
“魔法のない管理外世界”なんて言っていられないわね」
「魔力溢れによって……
“地球”は、脅威度を引き上げる必要があるわ」
後に「最悪の夜」と呼ばれる事象。
何をもって最悪とするかは、立場によって異なる。
魔法世界シルヴァリス・エリュシオン(Silvaris Elysion)が誇る、
時空航行戦艦を単独で止めた魔導士が現れた夜だからか。
小早川教授が研究していた
『魔法因子を抜き取る研究』が、
後の新たな悲劇を生む夜だったからか。
物語は、
新たなステージへと進む。
作者( ゜Д゜):魔法因子の研究…後の人造強化魔導士への…
オコジョ:お前が言うんかい!




