第23話_鏡合わせの絶望
研究所の最深部。
重厚な隔離壁が、アリスの放った衝撃波によって粉砕された。
爆煙の向こうに現れたのは――
無数の管に繋がれた巨大な培養槽。
そして、その中心で力なく漂う、一人の女性の姿だった。
「……お母様……!」
エリザの悲痛な叫びが、冷気に満ちた室内へと響き渡る。
そこにいたのは、
記憶の中の優しい微笑みを失い、
青白い肌で、ただ生命維持装置に繋がれている――
小早川ハラオウン。
かつて次元の狭間からこの世界に漂着し、
愛した男にその稀有な「魔法因子」を狙われ、
魂の抜け殻にされた犠牲者。
「ようやく来たか、エリザ。
……そして、お友達のアリスよ」
培養槽の陰から、一人の男がゆっくりと姿を現す。
エリザの父親。
そして、この惨劇の首謀者。
だが、その姿はすでに「人間」の域を逸脱していた。
体表には、俺がばら撒いた強化魔結晶が過剰に癒着し、
どす黒い結晶体が皮膚を突き破って脈動している。
背後には、
ハラオウンから抽出した魔力と、
魔結晶のエネルギーを強引に結合させた巨大な魔導回路。
それは、まるで心臓の鼓動のように、不気味な音を刻んでいた。
「お父様……!
なぜ……なぜお母様に、こんな酷いことを……!」
「酷い? 違うな、エリザ。これは“進化”に必要なことだ」
男は恍惚とした表情で両手を広げる。
「魔法という非科学的な力に、
我ら人類の知性を融合させたのだ」
「……見ていろ。
この結晶があれば、私は神にも等しい力を――ッ!」
咆哮と同時に、
室内の魔力濃度が異常な跳ね上がりを見せた。
本来の原作では、
せいぜい強力な魔導師程度のボスだったはずだ。
だが今、目の前にいるのは――
過剰なエネルギーに精神を焼かれ、
ただ破壊を撒き散らす「魔力の怪物」。
「……来ますわ」
エリザが即座に反応し、
男が放った魔法弾へ向けて防壁を展開する。
「アリス、下がってください!
わたくしの盾では、これ以上は……っ!」
次の瞬間。
展開された魔力防壁が、ガラスのように砕け散った。
「ハハハ! 見ろ、この力を!」
小早川教授だったものが、狂気の笑みを浮かべる。
「ハラオウンの因子と、
お前が集めた結晶が――
私を神へと押し上げたのだ!」
その背中から、
ひび割れた皮膚を突き破り、
禍々しい紫色の結晶の翼が生え揃う。
強化魔結晶を過剰摂取した副作用。
本来なら、過剰な魔力供給によって
魔力制御もできず自滅する存在となるはずだった。
しかし、“神に進化する”ことを願った結果か…
今の彼は――
「無限に近い燃料」を積んだ、暴走特急だ。
「お父様……もうやめてください……!
お母様も、こんなこと望んでいませんわ!」
「黙れ!」
男が怒鳴り、右腕を振りかざす。
「出来損ないが、私に指図するな!」
凝縮された漆黒の魔力弾が、エリザへと放たれた。
「エリザちゃん、危ない!
……《ディバイン・シールド》!」
アリスの防御魔法が展開される。
…耐えるアリス
だが、連続で放たれる魔力弾の衝撃に耐えきれず、
二人は後方の壁へと叩きつけられた。
「……あ、あう……」
「アリス……しっかり……!」
膝をつき、肩で息をする二人。
絶望的な実力差。
そして背後には、
生命維持装置に繋がれた母・ハラオウン。
次の攻撃が来る。
――もう、反応できない。
俺は舌打ちし、
二人の前へ魔力障壁を展開した。
「アリス! エリザ! 下がれ!」
……想定外だ。
あのアホ親父、魔結晶を食いすぎて、
狂って自我が溶けかかってやがる。
「……さて」
俺は前へ出る。
「これ以上、
彼女たちに泥を啜らせるわけにはいかないな」
「あなたは……助けに来てくれた(ですわ)?」
アリスとエリザが、俺の存在に気付く。
「誰だ、貴様は!」
小早川教授が、歪んだ顔で叫ぶ。
「――さっきから、うるさいんだよ」
俺の声が、爆音に満ちた室内へと冷たく響く。
「“神”だの、“進化”だの」
強化魔結晶に侵食され、
醜く膨れ上がったその姿を一瞥する。
「……滑稽だ」
――同時刻、衛星軌道上。
「艦長!
研究所最深部で、魔力の熱暴走を確認!
数値が振り切れました!」
ジ・アースのブリッジに、
赤色の警告灯が明滅する。
「……これ以上の放置は、
この星の地殻にまで影響するわね」
艦長は冷ややかに告げる。
「観察官の『待て』は、もう限界よ」
最終兵器のロックが解除された。
「全エネルギーを主砲へ。
ターゲット、極東地区・研究所周辺一キロ」
「――次元断絶砲、充填開始」
「……了解っす」
オペレーターが低く応じる。
「……これで、
要救助者ごと、全部消えるっすね」
沈黙するブリッジに、
その言葉だけが重く沈んだ。
作者( ゜Д゜):次回予告! 狂人(過剰魔力暴走の男)VS 狂人(魔法少女に狂った男)
オコジョ:なんだ!その狂気の構図は!嘘だよな?




