第102話_領域魔法シンギュラリティ・ヴェール
――西部防衛拠点。
「第一防衛線――。突破されました」
「――戦線を下げます」
「第二防衛線の魔導部隊に命令を――」
「戻ってきた部隊には休息を。
魔力回復を急がせろ――」
樹海から出てくる。
――黒い塊。
蟲型魔獣の大群。
その迎撃指揮を――。
十二守護騎士《迅速》カイは行っていた。
「数が多すぎます!」
若い局員が、悲鳴のように声を上げる。
防衛拠点の魔導士たちが全力で魔法を放っても――。
次から次へと。
樹海から出てくる蟲型魔獣。
黒い塊が――。
濁流のように押し寄せる。
「くっ――」
魔導王国、第十位の守護騎士。
だが、カイは広範囲殲滅魔法を撃てなかった。
単体の戦闘能力の高さを買われての――。
若くして十二守護騎士への抜擢。
「魔獣の圧が強すぎます。
防衛部隊の攻撃では、千体削れたら良い方でしょう」
「拠点の防御障壁――。
残存魔力では、もって数分です」
――非常にまずい状況だ。
「やはり、厳しいか――」
魔導王国への伝令は別の魔導士に任せ。
拠点に残る選択をしたカイであったが――。
戦況は苦しい。
自分一人であったなら。
魔獣の大群の中でも、生き残れる自信はある。
それだけの強さは――。
自覚している。
だが――。
広範囲殲滅魔法がない自分では。
魔獣の大群を屠った後に残るのは――。
壊滅した西部防衛拠点だろう。
自分以外は――。
生き残るのは難しい。
周囲を見渡す。
「俺も――迎撃に出る」
「おぉ!」
「あの神童アルトリウスに並ぶ、
戦闘の天才と言われたカイさんなら――!」
希望の声が上がる。
カイは局員の言葉に苦笑する。
しかし――。
自分の予想は言わなかった。
拠点にいる魔導士たちの生存率は――。
――ゼロに等しい。
冷静な頭では、理解している。
「魔導士たちは出し惜しみせず。
一匹でも多く魔獣を倒せ――」
「少しでも圧を減らすんだ。
防御障壁が破られれば――」
「一瞬で壊滅するぞ」
最後の指示を出す。
(――すまない。)
心の中で謝る。
目算で五千体の蟲型魔獣。
団長が大分削ってくれたのだろう――。
だけど――。
後ろにいる“仲間”を。
防衛拠点の魔導士たちを守れる自信は――。
なかった。
「――エイト・スロットル」
カイの視界が変わる。
世界の動きが――遅くなる。
魔力が全身を駆け巡る――。
壱速。
弐速。
――参速。
一瞬で十体の魔獣を屠る。
双短剣型デバイス。
《ライトニング・ストライカー》を、くるりと回し――。
逆手に持つ。
肆速――。
伍速――。
――速度を上げる。
移動しては。
魔獣を屠る。
樹海から広がる――。
黒い塊。
蟲型魔獣は、一直線に防衛拠点へ群がっていく。
手当たり次第に、魔獣を屠る。
「ちっ――」
三十秒で――二百体ほど。
大群の圧が強い場所へ移動しているため、ペースが上がらない。
――やはり。
無理なのか――。
カイは思い出していた。
学生時代。
恩師の言葉。
『魔法の至る頂きとはのぅ――。
自己の発現に至り。
現象の発現に至り。
世界の発現に至るのだ』
『カイ君。君は自分の魔法を掴んでる――。
つまりのぅ、自己の発現は出来ているのだ』
『ほほほっ。
もっと上を目指せるのじゃ』
恩師――。
学院長の言葉。
そして。
至る頂きは――。
前の戦闘で、俺は見た。
"領域魔法"こそが――。
世界の発現。
なら――。
現象の発現とは。
今まで――。
ランクだけを見ていた。
Sランク。
ストライカー級になり。
十二守護騎士に抜擢され。
――浮かれていた。
戦闘の天才と言われて。
――浮かれていた。
(――そうだな。)
純粋な魔法の研鑽を――。
怠っていたのかもしれない。
だから――。
ここで開花する。
陸速。
漆速。
――捌速。
限界速度。
《エイト・スロットル》。
最大出力。
魔獣を屠る。
斬撃。
斬撃。
斬撃。
――砕ける魔獣。
一分で――。
計千体。
蟲型魔獣を屠った。
だが――。
今のカイでは。
限界速度を何分も維持することはできない。
もう千体倒せれば良い方だろう。
その後は――。
殲滅速度が落ちる。
それでも。
無心で戦う。
《迅速》カイ。
西部防衛拠点の戦況は――。
――厳しい。
――――
――
西部大森林樹海上空。
――ドゴォォォッ!!
グレンの《ゼロレンジファイト》。
一撃離脱。
その直後――。
周囲の蟲型魔獣が群がる。
クロムウェルの異質な魔力波動が――。
千体の蟲型魔獣を指揮する。
アルトリウスが神剣を振るう。
一閃。
黄金の魔力が輝く。
――キィィィン!!
魔獣の断末魔が響く。
「私も直接戦う必要がありそうですね」
《魔人》クロムウェルが前へ出る。
アルトリウスは、ちらりと前方を見る。
少し離れた場所にいる女性。
――《魔女》イザベラ。
彼女の魔力が――。
跳ね上がる。
周囲に紫色の魔力が漂う。
詠唱が始まる――。
『――理を歪め。
世界を欺け』
『我が意思が紡ぐは――。
光すら逃れ得ぬ、重力の境界』
クロムウェルが肉薄する。
「肉弾戦闘は得意ではないのですがね。」
魔力を纏った――肉体。
アルトリウスは振り払う。
「ぐぅ――」
「化物ですね……」
魔法を止めなければ――。
そう判断し、動こうとした瞬間。
「やらせるかよ!」
グレンの猛攻――。
「グレン!」
アルトリウスの前に立ちはだかる。
「ぐおぉぉぉ――!」
――キィィィン!!
一閃。
まともに一撃を受け。
グレンは空中から落下する。
そして――。
ついに。
《烈火》グレンが脱落する。
残り――。二人。
その間も。
イザベラの詠唱は続く。
『遍く時空を歪曲し。
無限の底へ、万象を誘え』
『現れよ――。
全てを呑み込む、絶対の特異点』
(五小節の詠唱――)
(――まずいな)
アルトリウスは覚悟を決める。
『――One minute until final sequence.』
《ディバイン・カリバーン》から、無機質な声が響く。
次元断絶――アスカロン。
発動まで――。
残り、一分。
だが――。
その前に。
“厄災”が発動する。
『歪め。崩壊せよ――。
因果をも圧し潰す、果てなき重圧――』
「領域魔法――
《シンギュラリティ・ヴェール》!!」
――世界が消えた。
――宇宙が生まれ。
――惑星が生まれ。
時空が歪む。
その中心に――。
――“特異点”。
イザベラが創造した世界。
――重力を支配した世界。
“厄災”と恐れられた――。
領域魔法――。
――《シンギュラリティ・ヴェール》が。
発動してしまった。
オコジョ:カイ君の英雄への道!。学院長……意味深な伏線だな。
作者( ゜Д゜):学院編は五章になりますね。アリスやユウジが暴れます!




