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第101話_災厄の裏切り

――西部大森林樹海。


四対一の戦いは続いていた。


アルトリウスが振るう神剣。

その一閃から放たれた斬撃が、空中を駆け抜ける。


魔力ランクSSS。

王国十二守護騎士――第一位。


《神剣》の名に相応しい。

――圧倒的な魔力量。


黄金の魔力が迸る。


対する四人の魔導士は、

正面からぶつかることを避けていた。


――牽制。


――回避。


そして――

隙を見て、少しずつ《神剣》の魔力を削っていく。


イザベラが軽い口調で言う。


「団長ぉ~、厳しいんじゃない?」


「――《重力弾》」


無数の魔弾がアルトリウスへ殺到する。

挿絵(By みてみん)


だが――。

アルトリウスは神剣を振るった。


――斬る。

魔弾が次々と両断される。


そのまま踏み込み、反撃の斬撃を放つ。


しかし――。

間髪入れず、周囲に無数のビット型デバイスが展開した。


フィオナの《沈黙の領域》


魔法が――。戦場を覆う。


音が消える。

魔力の流れが鈍る。


術式そのものが、静かに崩されていく。


アルトリウスは魔術を使わない。


だが――。

完全に無意味というわけではなかった。


攻撃に。防御に。身体強化に。


戦闘に使用する魔力そのものが、

少しずつ阻害されていく。


時間が経つほどに、その影響は積み重なる。


長期戦になれば、確実に効いてくる。


「――無駄だ」


苦しさは見えない。


それどころか、

纏っていた魔力の出力を、一段階引き上げた。


――バシュッ!!


黄金の魔力が迸る。

膨大な魔力が全身を包み込んだ。


「……っ」

フィオナが僅かに目を見開く。


アルトリウスは、そのまま前へ出る。


接近する前に。

――横やりが入った。


大型籠手型デバイス。

《ブレイズ・アトラス》。


真紅の炎を纏った拳を放つ。


「ガハハハハ!」

グレンが笑った。


「これでも有効打が与えられないとはな!」


「化物だな――!」


グレンは一撃を放つと同時。

――すぐに離脱。


高火力の一撃だけを叩き込み、距離を取る。


それでも。

アルトリウスは崩れない。


「……私が行きましょう」


クロムウェルが右手を掲げた。


その瞬間――。

異質な魔力の波動が、樹海へ広がる。


森の奥。

大量の魔獣が動き出した。


――数千体の蟲型魔獣。


魔導士たちの戦闘が始まってからも、

一直線に樹海の外へ向かっていた魔獣群。


その一部が――。

クロムウェルの魔力に反応した。


「――来い」


《魔人》の命令。


数千体の蟲型魔獣が、一斉に進路を変える。


――ブゥゥゥゥゥン!!


黒い群れがアルトリウスへ殺到する。


一瞬にして、その姿が蟲の大群に覆われた。


――数千体。


それだけの数が集まれば、

――それ自体が脅威となる。


空が、視界一面が。

――黒に染まる。


「あらら~」

イザベラが笑う。


「さすがの団長も、

 この数は厳しいんじゃないかしらぁ?」


クロムウェルが、

自らの力を誇るように口を開く。


「私が願った力ですよ」


「魔獣を操る能力――」


「信仰が足りなかったのでしょうか」


僅かに苦笑する。


「私が嫌いな――

 蟲型しか操れませんが」


だが――。

言葉とは裏腹に、三人は油断していない。


相手は――《神剣》。


魔力の圧が、一瞬で変わった。


――キィィィン!!


黒い群れの中心から、黄金の光が漏れる。


次の瞬間。


「――ッ!」

黄金の魔力が爆発した。


可視化された魔力が、周囲を薙ぎ払う。


《ディバイン・カリバーン》が黄金の輝きを纏う。


一閃。


高威力の斬撃が、周囲へ放たれた。

挿絵(By みてみん)


「チッ!」

イザベラが思わず舌打ちする。


蟲の大群が――。

一瞬で切り裂かれていく。


そして。

瓦礫のように落下する魔獣の群れの中から――。


アルトリウスが歩み出た。


――無傷。


「……化物ねぇ」


イザベラが呟く。


次の瞬間。

アルトリウスの姿がぶれる。


"閃"。


目で追うことすらできない。


四本の斬撃が、ほぼ同時に放たれる。


「――ッ!」


グレンは魔法障壁を展開。


「ぐぅぅぅぅっ!」


斬撃が障壁を削る。


イザベラは即座に重力フィールドを前方へ展開した。


「――ッ!」


斬撃の軌道を、無理やり曲げる。


それでも――。


「速すぎる……!」


ギリギリの防御だった。


クロムウェルは――。

咄嗟に蟲型魔獣を前へ出した。


ギィィィ――。


魔獣の断末魔が響く。


そして――。


(――っ)


フィオナだけが、避けきれなかった。


(ひっ……)


声無き悲鳴――。

斬撃が直撃する。


その身体が――。

森へ落ちていった。


「フィオナぁ!」

イザベラが叫ぶ。


だが――。

クロムウェルは冷静だった。


「彼女は――」


落下したフィオナを見下ろす。


「しばらく戻れないでしょう」


三人の魔導士が、再びアルトリウスを見据える。


アルトリウスは神剣を構えたまま――。


静かに口を開いた。


「……一つ、教えてくれ」


「――何故、裏切った?」


沈黙。

アルトリウスの視線が、グレンへ向く。


「グレンは――家族のためだと聞いた」


「君たちも、そうなのか?」


確認したかった。


斬るために。


覚悟を決めるために。


騎士には――理由が必要だった。


イザベラが口を開く。


「《魔女》になる理由ぃ~?」


「そんなのぉ――」


彼女は肩をすくめた。


「個人的な“願い”のためよぉ」


「それだけ」


「私も、フィオナも――そうよぉ」


「――そうか」


アルトリウスは目を伏せる。


「残念だ」


何か――。


仕方のない理由があって欲しかった。


仲間だった頃の記憶を、否定しなくて済む理由が。


だが――。

なかった。


だから。

騎士として――。


全員を斬る。


それは覚悟であり。


――誓いでもあった。


『――Two minutes until final sequence.』


《ディバイン・カリバーン》から、無機質な声が響く。


残り――二分。


アルトリウスは空を見上げる。


黒く歪んだ異界。


そこにいる――。"何か"。


クロムウェルも空を見上げた。


そして――。

「いけませんね」


静かに言った。

「あの攻撃を――」


「ワルプルギス様へ放たれてはいけない」


イザベラが頷く。

「えぇ」


グレンも構える。

「承知した」


イザベラが一歩下がった。

「牽制をお願いするわぁ」


グレンが前へ出る。

「――行くぞ!」


――ドゴォォォッ!!


爆炎が渦を巻いた。


《ブレイズ・アトラス》へ魔力が集束する。


真紅の炎が咆哮した。


「――ゼロレンジファイト!」


一瞬。

グレンが消える。


次の瞬間には――。

アルトリウスの目の前。


「――ッ!」


炎を纏った拳が振り抜かれる。


同時に。

周囲を蟲型魔獣が包囲した。


先ほどの斬撃で大幅に数を減らしたとはいえ――。


まだ千体ほど。

クロムウェルの指揮によって、再び集結していく。


そして――。

一歩後方へ下がったイザベラの表情から、

――いつもの軽さが消える。


「……さぁ」


魔力が膨れ上がる。


「そろそろ――」


空気が震えた。


「本気でいきましょうかぁ」


詠唱が始まる。


魔導王国――。

元、十二守護騎士。


――第二位。


その魔法は――。

"厄災"と恐れられた領域魔法。


彼女が生み出す世界が――。


今、顕現する。


最上位の戦いは――。

止まらない。



――――

――


魔導王国仮設本部。


「ぐぇぇぇぇ……!」


ロップの悲鳴が響く。


『マ、マズイ……!』


ネネの腕が、強くロップを抱き締めていた。

挿絵(By みてみん)


――ピシッ。

空間に亀裂が走る。


「……!」

その場にいた全員が息を呑む。


「――まずいのじゃ」

レーゼが呟く。


――ピシィィ……。


高い音が響く。


亀裂が、さらに広がった。

そして――。


空間そのものが歪む。


「――骨が折れましたよ」


声がした。


「ですが――」


歪んだ空間から、男が姿を現す。


「鬼ごっこは――終わりです」


仮面の奥。

その口元が――。


笑っている。


ロザリア。ナタリー。レーゼ。

そして――ネネ。


四人の魔導士が、同時にその男を見る。


魔力ランクSSS。

時空管理局――秘匿魔導士。


《虚無》アムリタ。


――絶望的な戦いが、再び始まる。


オコジョ:魔獣使いを願い、蟲使いにビルドされるとは――。

作者( ゜Д゜):願いは――。決して信じるなかれ。それはあざ笑う者。

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