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私がヒロインだけど、その役は譲ります~番外編~  作者: 増田みりん
Sweetquest~甘味は世界を救う~
5/5

第5話 そして三人は魔王と対面する



「これでよし、と」

「なんて卑怯な…」


 ギリッと悔しそうに呟く私の弟のソックリさんであるユートを見て、蓮見はフンと鼻で笑った。蓮見は性格が悪いと思う。

 弟に会えたと喜んだ私に捕まったユートは、そのまま蓮見と飛鳥によって束縛された。

 縄でぐるぐる巻きにし、手には魔法が使えないように特殊な腕輪を嵌めた。この世界を冒険している時に入ったダンジョンで偶然手に入れたアイテムだ。まさかこんなところで役に立つとは、世の中何が起こるかわからないものだ。


「卑怯?うっかり彼女に捕まる君がどう考えても悪いでしょ」

「…まあ、神楽木の動きは人の動きを超えていたような気もしたが…」

「それはどういう意味でしょう、飛鳥くん?」


 ギロリと飛鳥を睨むと飛鳥は爽やかな笑みを浮かべて「さて、どういう意味だろうな?」と惚けた。

 ……この野郎。いつか絶対痛い目に遭わせてやる…。


「魔王の部下を戦闘不能にしたことだし、早く魔王の元へ行こうか」

「いや待て。念には念を入れよう。…ここに、以前助けた旅人から貰ったチョコレートがある」


 飛鳥は懐から長方形のチョコレートを取り出した。

 それを見たユートは動揺したように目を見開き、焦り出す。なんとか縄を解こうと頑張っているが、頑丈に結んだのでそう簡単には解けない。


「聞いた話によると、魔族はお菓子が苦手らしい。特に、甘い物を食べると、立ちどころに戦闘不能に陥るのだとか」

「へえ」


 私が感心したように相槌を打つと、蓮見は呆れた目をして私を見つめた。その目は「君も聞いていただろ…」と告げていた。

 そんな目で見なくてもいいじゃないの。だって覚えていないんだもの、しょうがないじゃないか。


「ま、まさか…」


 ユートは怯えたように飛鳥を見つめる。そんなユートに飛鳥は優しい笑みを浮かべて、「すまない。君をこのままにしておくのはリスクが高すぎる。しばらく動けなくなってくれ」と言って、嫌がるユートの口元へチョコレートを運ぶ。

 蓮見が抵抗するユートを押さえ、飛鳥がひょい、とチョコレートをユートの口の中に運ぶと、ユートは絶叫を上げて気を失った。

 本当に魔族は甘い物が苦手らしい。なんて損な体質なんだろう。美味しいのに。


「さて。行こうか」


 なんでもない顔をして歩き出す飛鳥と蓮見。ちょっとお二人さん、薄情過ぎじゃありませんか?

 悠斗のソックリさんですよ?もっと優しくしようよ。


 私はせめてもと思い、ユートの頭の下に持っていたハンカチを敷いてあげた。

 本当は顔に被せようと思ったのだけど、縁起でもないのでやめておいた。いくら異世界とは言え、それはやっちゃいけないよね。



 私たちは城の中を進み、最上階へ辿り着いた。

 大きな扉がそびえ立つそこからは禍々しいオーラのようなものを感じる。

 ……気がした。うん、気がしただけ。魔力なんてない私にはそんなのわからないのだ。

 ただ蓮見と飛鳥は何か感じているようで、扉をじっと見つめて緊張した面持ちをしている。


「ここに、魔王がいる」

「そうみたいだな…」

「へえ」


 私が相槌を打つと、蓮見と飛鳥が生温い目を私に向けた。

 なんですか?魔力もちのあなたたちと違って私は魔力を持ち合わせていないんだから、そんなのわかるわけないでしょう。


 少し不貞腐れつつも、私は二人と顔を見合わせ、扉に手を当てた。

 ずっしりと重い扉。ギイ…と嫌な音を立てて扉が開いていく。

 そして、扉の先に待っていたのは。


「よくぞ、ここまで」


 そう言って、某落とし物パズルゲームのラスボスのような台詞を言ったその人物は、とても見覚えのある人物だった。


「お初にお目にかかる。僕の名はプレアデス。魔王プレアデスだ」


 にこりと微笑んで自己紹介をした魔王プレアデスに、私たちはぶるりと体を震わせた。

 そして俯く。


「おやおや。怯えさせてしまったかな?僕としては平和的な解決を望む。だから何もせずに帰って貰えるとありがたいんだけど」


 魔王の提案は私たちの耳には入ってこなかった。

 なぜなら、私たちは笑いを堪えるのに必死だったからだ。


「……くっ。まさか、こう来るとは…」

「ユートが出てきた時点で予想はしてたけど…」

「実際見ると破壊力が違いますわね…」

「どこからどう見ても昴がコスプレしているようにしか見えない…」


 とうとう堪えきれなくなった私たちは声をあげて笑い出す。

 突然笑い出した私たちに魔王は戸惑った様子で声を掛ける。


「……なんで笑っているの、君たち」

「ご、ごめんなさい…喋らないでくださいません?余計に笑えてきてしまって…」

「俺もうだめかもしれない…」

「諦めるな、蓮見…という俺も厳しいが…」

「………」


 魔王はとうとう黙り込んだ。

 少し立ってようやく笑いが収まった私たちは、魔王と正面から向き合う。


「とても面白いけれど、君を倒さないわけにはいかない。覚悟をしてくれ」

「手加減は不要だ」

「私たちが相手になりますわ!」

「……散々笑われたあとで、そんなこと言われてもなぁ…。まあ、いいや。いいだろう。僕が君たちの相手になろう。だが、簡単に勝てるとは思わないでほしい」


 にっと魔王が笑うと、魔王の体が宙に浮く。

 そして詠唱などなにもせずに魔法を繰り出していく。

 さすが魔王。チートだ。だがそれなら私たちだって!


 私は走り込み、魔王に斬りかかる。

 いや斬りかかろうと思ったんだけど、王子とそっくりさんを斬るのは躊躇う。

 躊躇をしてしまっているせいで、私の攻撃は魔王に掠りもしない。

 躊躇している場合じゃないってわかっているんだけど、知り合いと同じ顔の人を斬ることなんてできない。


 飛鳥のサポートもあり、私はまともに攻撃が出来ないながらも、なんとか魔王に食らいついていく。

 別に私が魔王に致命傷を与える必要はない。私は魔王の気を惹くだけでいい。魔王を倒すのは私の役目ではない。魔王を倒すのは、蓮見の役割だ。


「…お待たせ。これで君も終わりだ。究極の魔法―――『ケーキ』」


 蓮見が呪文を唱えると、魔王の頭上に大きなショートケーキが現れ、それを見た魔王が目を見開く。その瞬間、すごい勢いでケーキが魔王の上に落ちた。

 魔王よりも大きなケーキの下敷きになった魔王は悲鳴すらあげずにケーキの飲み込まれた。辺りには白い生クリームとケーキの残骸しか見えない。


 ……ところで、究極魔法がケーキってどういうことなんだろうか。

 いやもう、この世界色々ツッコミどころありすぎるよ…。

 でももうこの世界とはおさらばなはずだ。だって私たちは魔王を倒したのだから。


「やったのでしょうか…?」

「恐らくは…」

「やっと帰れるな…」


 ほっとした表情を見せる私たちに、いつかに聞いた女神様の声が降り注ぐ。


『…勇者たちよ……あなたたちのお蔭で魔王は倒されました…』

「じゃあ、私たち帰れるの?」


 私たちは顔を見合わせ喜んだ。

 ああ、やっと帰れる!帰って本物の悠斗をぎゅっと抱きしめたい!


『……しかしながら、魔王を倒してもこの世界の危機は去っていません…勇者たちよ…この世界の危機はまだ去っていないのです…』

「は…?」

「ということは…」

「まだ、帰れない…?」

『勇者たちよ…この世界の危機の原因を探り、それを解決してください…あなたたちだけが、頼りなのです…』

「は、話と違うわ、女神様…!」

『勇者たちよ…お願いです、この世界を救ってください…』

「だから話が違うって…」

『…………』

「無視か!」


 思わずつっこんだ私に、飛鳥と蓮見は同情した目を向けた。そして同時にため息をつく。

 ため息つきたいのは私も同じだってば!


「……どうするの」

「どうする、と言われてもな…」

「どうしましょう…」


 私たちが途方に暮れていると、「…話は聞いたよ」と声がした。

 声のした方を見ると、どうやら声はケーキの残骸の方から聞こえるようだ。

 ガバッとケーキの残骸の中から生クリームまみれになった魔王様が現れた。

 あれ?魔王様、倒されたんじゃ…?


「僕も君たちの力になろう。この世界の危機なんだろう?僕の安眠が妨げられるのなんて許されない。是非僕も協力させてくれ」

「はあ…?」


 私たち、ついさっきまであなたを倒そうとしていたんですけど?

 そんな人たちに協力させてほしいなんて言えるか?なにか裏があるんじゃないの?


「このまま放って置いたら世界が危ないんだろう?ならば僕にとっても他人事ではない。それに、僕の愛しい彼女を少しでも危険から遠ざけたいし…」

「愛しい彼女…?」


 私たちが揃って首を傾げた時、奥の部屋と続くらしい小さな扉が開いた。

 そこから現れたのは、またしても見覚えのある人物だった。


「スバル様…」

「ミク。危ないから出て来てはだめだと言っただろう?」

「だって…スバル様が心配だったのですもの…」

「本当に君は…なんて愛しいのだろう」

「スバル様」

「ミク」


 現れたのは美咲様のソックリさんだった。きっとあのアサヒ陛下の妹君に違いない。

 いやそれよりもなによりも。


 ……なんだこの甘い空間。

 なに、この二人こっちの世界では良い感じなの?眼福だな…じゃなくて!


「あの~、ミク姫様でいらっしゃいますか?アサヒ陛下の妹姫であられる…」

「ええ、わたくしがミクですけれど、あなた方は?」

「私たちはえっとその…勇者です!」


 胸を張って答えた私に、「自分で言うの、それ?」と蓮見がつっこむ。

 だけど気にしない。気にしたら負けなのだ。


「まあ、勇者様でしたの」

「はい。旅の途中であなたの国にお邪魔した時、アサヒ陛下と知り合いました。陛下はミク姫様のことをとても心配しておいででした」

「お兄様が…」

「私たちが送りますので、帰りましょう」

「…でも、わたくしは…」


 戸惑ったように瞳を揺らすミク姫様はとっても可愛らしい。お姫様みたい。

 ってお姫様だったな、この世界では。


「僕も一緒に行こう。君のお兄さんにも会いたいと思っていたし」

「スバル様…ええ。わたくし、帰ります。どうかわたくしを送ってください」

「お任せください。……というわけで、蓮見様、よろしくお願いします」

「……はぁ、そう来ると思ったよ。もうCPほとんどないんだけど…」

「大丈夫です」

「なんで言い切れるわけ?」

「蓮見様なら意地と気合と根性でなんとかできるはずです」

「……なにその信用。そんな信頼要らないんだけど」

「まあ、そう言うな。この場を収めるためにも頼む、蓮見」

「……はぁ。仕方ないか」


 自分の近くに寄るように、と蓮見が告げ、その通りにすると蓮見は呪文を唱える。

 一度行った事のある街へいく魔法『たまご』である。

 なんでこの世界の魔法って食べ物の名前なんだろう…女神様は食い意地でも張っているんだろうか。



 かくして、ミク姫様は無事にアサヒ陛下の元へ戻り、ミク姫様を攫う際に魔王様が部下を倒してしまったので、アサヒ陛下の国は元に戻っていた。

 アサヒ陛下はミク姫様と魔王様の関係に複雑そうな顔をしながらも、この国を襲ったのは魔王様の指示ではないことを知ると渋々ながら二人の仲を認めた。


 うんうん、めでたしめでたしだね!

 ―――そんなわけあるか!


 私たちはまたしても旅に出ている。この世界が危機に瀕している真の原因を探るためだ。

 元の世界に戻るまで、めでたしめでたし、とはいかない。

 さっさと原因究明してちゃちゃっと解決して元の世界に帰りたい。


 しかし、この旅には新たに二人仲間が加わった。

 魔王様とその部下であるユートだ。魔王様は自分の安らかなる安眠のために、ユートは魔王様に命じられて仕方なく、「この仕事辞めたい…」と小さく呟きながら一緒に旅をしている。

 この二人が旅に加わったことにより、ぐんと戦力がアップした。もはや無敵なのではと思うほど最強パーティーである。

 このメンバーならば、どんな強敵でも勝てる気がする。



 私たちの異世界生活は、まだ続く。

 無事に異世界に私たちが戻れるのはいつになるのか。

 それは女神様のみぞ知ることである。

 

 早くおうちに帰りた~い!




これにていったん、番外編は完結とさせて頂きます。

気が向いた時にこの話の続きとか、童話パロの話とか、まだちょこちょこと更新はしていきたいな~と思っておりますがいつになるかわからないので、完結にします。

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