第58話 嘘と真実
「…というわけです。ニーナの言ったことも、あながち間違いではないですね」
「副隊長を見つけたのがセッカさんで、副隊長をコアに入れたのが隊長と王様?」
「まあ端的に言うとそうだな。こいつは、俺にも牙を向いたからなあ」
セッカが口の端を吊り上げてレオを見る。レオは居心地の悪そうな表情をした。
「ちゃんと謝ったでしょう」
「謝ればいいってもんじゃねえだろ。大体、今ニーナにも剣を向けてたじゃねえか。それについての弁明は?」
「…。すいませんでした。ニーナ」
素直に謝ったレオを、ニーナは無表情に見つめる。
「いいよ。私も変なこと聞いた。それより,セッカさん」
「・・・! ああ、そうだった。悪いな。レオ、ちょっと来てくれ。タイヨウ様がアリステルの警備方針を聞かせて欲しいらしい。お前も、警備体系決めるとき一枚噛んでんだろ」
「分かりました。ニーナ。アスカが戻ってきたら、午後の当番を忘れないようにと言ってください」
頷いたニーナを見て、レオは満足そうに部屋から出て行った。
部屋から出た2人は、城へと足を進める。
「おい。お前、何で嘘を吐いたんだ?」
「何のことですか?」
「とぼけるなよ。俺が、お前とルドルフのなれ初めを知らないわけないだろ」
レオは横目でセッカを見るが、どうやら引く気はないらしい。セッカの見透かすような目を見て、レオは観念した。
「わざわざ現隊長と現副隊長の醜い争いを聞かせなくてもいいと判断したので。あながち、間違ってもいませんし」
「俺はそこが重要だと思ってたけどなあ?」
セッカがニヤニヤしながら見つめる先には、そっぽを向いたレオがいる。
「・・・。セッカさんなら、部下に言うんですか? 自分はイニス様を心酔しているって」
「ハハッ。つまり、お前とルドルフはイニス様親衛隊ってことだろ?」
レオがニーナに語った内容に誤りがあるわけではない。しかし、その後の話がある。
レオがルドルフに謝った後、本当に心を許したのは隊長だったイニスだけだった。
当時、コアにはイニスとルドルフ。そしてまだ入隊してなかったもののイニスが引き取ったレオも行動を共にしていた。レオがイニスにばかり心を向けるのを見て一番面白くないのは、まだ子どもと言える年齢でレオのために血まで流したルドルフだった。
「ガキどもがイニス様をめぐって色んなことで競争してんだ。目に留まらないわけないだろ。あの頃隊にいた奴らはみんな知ってると思うぞ」
「そういう風に言われるから嫌なんですよ」
レオは苦い顔をした。
まだまだお互い子どもと言える年齢。そして、程度の差はあれ、プライドが高い上に、対人関係を円滑に保つスキルを学ぶことが少なかった2人だ。
「俺はルドルフのあんな姿初めて見たから、嬉しかったけどな」
周りを年上に囲まれてきたルドルフにとって、レオは初めての後輩で、一番年齢が近い相手だ。
「まあ、隊長は色んな意味で天才でしたけどね」
レオは当時を思い出すようにため息を吐いた。
競走した内容は多岐に及び、そこには早食いまで組み込まれていた。
「あいつは天才だよ。でも、お前には真剣に勝たなきゃいけないって思ったんだろ。年上としてな」
「ええ。それがあったから、私はちゃんと人を信じ、敬うことを学んだんですよ」
レオの顔に柔らかな笑みが灯る。
「・・・っと。着いたな」
「失礼します」
レオとセッカはノックをして元首の部屋を開けた。
「副隊長。セッカさん」
部屋の中には、まだアスカがいた。
「タイヨウ様。警備方針についてお話があると・・・」
セッカはタイヨウに近づきながらアスカの方をちらりと見る。アスカは聡明にもその意図を感じ取った。
「あ、俺出ていきますね」
「アスカ。また来なさい」
「はい! 父上。ヒバリもまた!」
「ああ」
アスカが出て行った後を見ながら、ヒバリはセッカに言葉を放った。
「俺は、いてもいいですかね?」
「それは、俺に聞いているのか?」
セッカはタイヨウの方を見る。
ヒバリの所在を決めるのはセッカの仕事ではないことを示唆していた。
「ヒバリ。お前はいい加減休んできなさい」
「はーい」
ヒバリは若干ふてくされた返事を返して、部屋から出て行った。
「いいんですか、タイヨウ様」
ヒバリの様子からして、この場にいたかったのは明白だ。それは全員が分かっていた。
「あいつは人を信じることが苦手だ。すべて自分で知りたがる。その能力があるから好きなようにさせていたが・・・」
笑う演出家と呼ばれるほどの情報収集能力も。自ら力を持って四聖将になったのも。全ては人に頼らないため。
「今はアスカもいる。そろそろあいつも人と共に在る強さというものを知らなければいけない」
初めて見た父親らしいタイヨウに、レオとセッカは何を言っていいか分からなかった。
「さて、セッカ。レオも。来てもらって悪いな。始めようか」




