第57話 レオの告白
14年前。
第4戦闘部隊隊長、イニス・アリステルと副隊長、ルドルフ・ヴェルヘンは、揃って王室に呼び出されていた。
「バーサーカー計画?」
国王、ルーン・アリステルから発された言葉を、ルドルフは首をかしげて繰り返す。
「ああ。昨日第5戦闘部隊が摘発した施設で行われていた計画らしい」
ルーンは資料の束をイニスに渡す。資料を読み始めるイニスの表情がだんだん険しくなっていくのを見て、ルドルフは我慢出来ずに飛び跳ねながら資料を覗いた。
「隊長! 俺にも見せてくださいよ」
「あ、ああ。悪い。ほら」
イニスはルドルフに紙の束を渡す。
「父上。これは本当ですか?」
「本当だ。身寄りのない孤児をさらい戦闘訓練をしていた。それだけでなく、どうやら生体実験をしていた跡も見つかっているらしい」
「ルーン様。その孤児たちは…」
被害者が挙げられているページを見ていたルドルフは、思わず口を挟む。自分と同じ年くらいの子どもたちの写真を見て、ルドルフの瞳は怒りで震えていた。
「生存確認されたのは1人。入ってきなさい」
ルーンが自分の後ろの扉を向く。2人がその方向を向いたのと同時に、扉が開いて1人の少年が入ってきた。
白い服に身を包むその少年は、直立不動のまま佇んでいる。
「レオ・イリアス。10歳。施設の最奥でうずくまっているのをセッカが見つけたらしいのだが…」
ルーンの紹介を受ける少年の瞳には、くすんだ青色が広がり、目の前にいるイニスとルドルフは映していない。
「ルドルフ、分かるか」
「ええ。ヤバいほどの殺気ですね。こんなの10歳のガキが出すものではないでしょう」
ルドルフは腰に下げた銃に軽く手を当てながらも、口元は笑みを浮かべている。
「それをお前が言うのか。案外、お前と気が合うのかもしれないな」
「隊長。そんなこと言うなら、俺がいってもいいですか?」
ルドルフはイニスの答えを聞かずに、銃から手を放して前進した。レオの前に来たところで、笑みを深める。
「俺は、ルドルフ・ヴェルヘン。第4戦闘部隊の副隊長だ。よろしく」
ルドルフが差し出した手に、レオは見向きもしない。
「お前みたいなガキが、副隊長? 国の軍も大したことねえな」
レオから初めて発された声は子どもらしい高い声だったにもかかわらず、その言葉は敵意を含んでいた。
「てめえにガキって言われる筋合いはねえんだけどなぁ」
いまだ手を差し出したまま笑みを浮かべているルドルフの額に青筋が浮かぶ。
「ルドルフ。キレるなよ」
「でも隊長。コアの副隊長がこんなガキになめられるわけにはいかないでしょう」
「はっ。そっちの方がガキだろ。こんな挑発だけでキレそうになるなんて」
「は? てめえは挑発せずともキレてるだろうが。年上に対してそんな態度でこの先やっていけると思うなよ」
「知るかよ。教えてもらわなかったんだから」
施設では、戦闘を教え込み、子どもたちのすべての感情を抑え込んできた。それを普通だと教え込まれてきた。
ルドルフは資料に書いてあった内容を思い出して、嫌悪をあらわにする。
天才と呼ばれ、周りに避けられてきたルドルフであっても、コージュやセッカがいたから、普通の感情を学ぶことが出来たのだ。
「てめえの育ってきた環境なんて知るかよ! これからは俺が、お前が教えてきてもらったものとは真逆のものを教えてやる。お前の育ってきた世界が、どれだけ狭いものだったかを教えてやる」
「真逆のもの?」
レオの表情が初めて、疑問の色を浮かべた。
「ああ、そうだよ! お前の周りに敵しかいなかったって言うなら、俺は、俺たちコアは、お前の仲間になる。お前に向けられてきた敵意や殺意は、絶対に向けない!」
「はぁ。ルドルフ、勝手に決めるな」
いつの間にか2人の少年の傍に来ていたイニスが、ルドルフの頭を軽く小突く。
「でも、隊長! コアは…」
「やらないとは言ってないだろ。分かってる。それがコアの信念だ。ただ、お前が決めるんじゃない。決めるのは、レオだ」
イニスとルドルフが見つめた先には、困惑の表情を浮かべたレオがいた。
今まで向けられてきたものだったら、簡単にいなすことが出来た。無表情を通すことが出来た。しかし、今、レオは初めて選択を迫られているのだ。
「聞いてたか? レオ・イリアス。私は、イニス・アリステル。第4戦闘部隊、コアの隊長だ。コアはお前を受け入れる。後は、お前次第だ」
「お、俺は…」
レオの目線がさまよう。
「お前が決めていいんだよ。お前が決めなきゃいけないんだよ」
ルドルフは笑みを引っ込めたものの、言い聞かすような優しい口調で言った。
「だって、俺は…。せ、戦闘機械だって!」
「あ!」
レオは目についたイニスの剣を引き抜き、剣先を2人に向ける。
その震える瞳には、イニスとルドルフの姿がしっかりと映っていた。
「だから、ガキだって言ったんだ」
ルドルフは、剣先を軽くつかんで、自らの指から血を出す。その手で、レオの手に触れた。
「お前は、人間だ。だって、俺と同じ血が流れているだろ。暖かい手を持っているだろ」
「な、何で。お前、血が。怒っていたんじゃ…」
「仲間になるって言っただろ。仲間なら、どんな処からでもお前を助け出す」
「あ…。えっと…」
レオが剣を手から離し、ルドルフの手を掴む。レオの顔にはすでに後悔の想いが浮かんでいたが、言葉が出てこない。
「レオ。仲間を傷つけた時は、ごめんなさい、だ」
「ご、ごめん。ごめんなさい。ルドルフ…!」
レオは初めて、自分の瞳から涙が流れることを知った。




