第53話 ユマの想い
タイヨウの黒い瞳がヒバリの灰色の瞳と合う。
「ユマはアスカもヒバリのことも愛していた。だから、多くの時間を共に過ごしていたんだ」
「その時に、何かあったのですか?」
ヒバリはタイヨウから目を離さない。
「ヒバリとアスカが同い年ということもあり、優秀なヒバリを後継者とするべきだという声もあった。だけど、俺は血筋を重視して、アスカを後継者に選んだ。それで、一旦は落ち着いたんだが」
「俺の力を怖がる者が出てきたということですか?」
タイヨウは、しかめた顔でうなずく。
「どういうこと?」
「正統後継者ではない俺が力を持ちすぎたら、アスカを脅かす存在になるかもしれないということだよ。そんなこと、あるわけないのに」
全てを悟ったヒバリは、表情を歪ませた。
ヒバリは、幼いころから優秀だった。イオリが剣術を教えた結果でもあるが、潜在能力もずば抜けていたのだ。2歳の頃にはすでに刀を自在に操っていた。
「ヒバリ。訓練が嫌ならやめてもいいのよ」
ユマは、幼いころから2人に訓練をさせることには反対だった。
特に、ヒバリは正統後継者ではない。ジパニックに縛られる必要はないのだ。
「俺の役目は、アスカを守ることです。そのためには、力が必要ですから」
「シャンリーに似て、頭のいい子ね。でもね、ヒバリ。あなた自身の人生も大切にしないとだめよ。自分を犠牲にすることは、必ずしも相手のためになるとは限らないの」
「どういうことです?」
ヒバリの灰色の瞳が揺れる。
「まだ、早かったかしらね」
ユマは、苦笑いを浮かべる。
「ふん。何が、ヒバリ様だ」
部屋の中に、男性の声が響く。
「誰!」
ユマはヒバリを腕の中に引き寄せる。
2人の前に、灰色の戦闘服に身を包んだ男性が現れる。
「オレは、お前なんか認めない。アスカ様を脅かすくらいなら、ここで死んだ方がいい」
男性は、腰に提げた刀を抜き、振りかぶる。
「ヒバリ!」
ヒバリの上に、ユマが覆いかぶさった。
ヒバリの目の前に、真っ赤な景色が広がる。
「ユマ様! ユマ様!」
「ヒバリ様! 大丈夫ですか? お前、何して」
部屋の中に入ってきたイオリは、倒れているユマと血に塗れた刀を持つ男性を視界にとらえる。
「ちっ」
男性は、イオリに刀を振りかぶる。しかし、イオリは簡単に男性を拘束した。
「イオリさん! ユマ様が。俺のせいで、ユマ様が」
「ヒバリ。泣かないで」
ユマの震えた手がヒバリの顔を撫でる。
「ユマ様。ごめんなさい。俺が、弱いから。ごめんなさい」
「いいのよ。あなたが無事で良かった。ヒバリ。アスカをよろしくね。幸せになるのよ」
ヒバリの顔から、ユマの手が崩れ落ちた。




