第52話 母の愛情
アスカは、ジパニックにいた頃のことを全く覚えていない。実の母親のことすら知らないのだ。
「父上。僕は、母上について知りたいです」
タイヨウは、アスカの心の内を読み取り、アスカの髪から手を放す。
「アスカの母親は、ユマ。それは、ヒバリから聞いたな?」
アスカは無言で首を縦に振る。
「ユマは14年前。2歳だったヒバリを守って死んだんだ」
「え?」
ヒバリの話しの中に、ユマのことはほとんど出てこなかった。アスカはそのことに最悪なことは想定していたが、タイヨウの言葉は全く予想外だった。
アスカの驚いた目が、ヒバリの方へ向く。しかし、アスカの目が捉えたのは、いつものヒバリではなかった。
「ど、どういうことですか! 父上。ユマ様が俺を守って亡くなったって。ユマ様は病気で亡くなったのではないのですか?」
「ヒバリ。黙っていて悪かった。だけど、今から話すことは真実だ」
タイヨウは、黒い瞳を静かに閉じた。
タイヨウの正妻ユマの子、アスカと愛人シャンリーの子、ヒバリは同じ日に生まれた。愛人だからと言ってシャンリーを邪険に扱うことはしなかったユマが、ヒバリも同様に愛するようになるのは必然だった。
「いい? アスカ、ヒバリ。あなたたちは元首タイヨウ様の子供だから、誰からも慕われる人になるのよ」
「はい。ユマ様」
「はい。ははうえ」
ユマは、笑顔でアスカとヒバリの頭を撫でる。
シャンリーは立場上、入城を制限されていた。そのため、城で育てるアスカとヒバリの世話は、ユマとイオリで行っていた。
城の中には、3人の暮らす部屋があり、ユマはそこでアスカとヒバリの世話をしていた。
「2人ともいい子ね」
「ユマ様。そろそろお時間ですが」
「イオリ君。もう少しいいじゃない」
「そんなこと言われましても」
アスカとヒバリは、幼いころからイオリに訓練を受けていた。それは、元首の子供として強く育ってほしいと思ったタイヨウの願いからだった。
「ユマ様。俺らはイオリさんと訓練してきますから。お休みになっててください。な、アスカ。イオリさんと行くよな」
「うん」
「分かったわ。2人とも、行ってらっしゃい」




