第46話 アスカの帰郷
ジパニックの城の3階には、元首の部屋と会議室のみが存在する。その2つの部屋を繋ぐ通路は吹き抜けになっており、そこからジパニックの街を見渡すことができる。
「すごい」
部屋を飛び出したアスカは、その絶景に立ち止った。
通路からは街を囲む山まで見渡すことができ、広大な景色が広がっている。
「アスカ。追いついて良かった」
「ゼクスさん」
アスカを追いかけてきたゼクスは、アスカの隣で立ち止り、同じようにジパニックの街を見渡す。ジパニックに初めて訪れるゼクスにとって、その光景を見るのは初めてだった。
「すごいな。これが、ジパニックか」
街では、多くの人が動き回り、楽しい雰囲気を醸し出している。一方、山は静かに街を見守っている。その絶妙なコントラストは、城から見ると絶景だった。
「アスカ。どうして、逃げたんだ?」
「それは」
アスカは、景色から目を離さない。
「怖かったんです。タイヨウ様を父親だと認めてしまうことで、お父さんを、イオリさんを否定してしまうんじゃないかって。僕にとってのお父さんは、やっぱりイオリさんだから」
たとえ、本当の父ではなくても、アスカを育て、最後まで守ってくれたのは、イオリだ。タイヨウを父親として受け入れることは、イオリを父親ではないと認めてしまうことになる。それが、アスカにとっては嫌だったのだ。
「オレは、ラッキーだと思うぞ」
「え?」
「だって、父親が2人もいるってことだろ?」
ゼクスは、顔に笑みを浮かべる。アスカは、ポカンと口を開ける。
「タイヨウ様を父親として受け入れたからといって、イオリさんを否定することにはならないさ。お前が、イオリさんとの思い出を忘れなければな」
アスカの考えの前提にあったのは、父親は1人という考えだ。その常識を、ゼクスは易々と覆した。
「ゼクスさんて、ふふっ。ははっ。あははは」
「え、どうした、アスカ」
アスカが突然笑い出す。
「いえ。いろいろ悩んでいた僕がバカみたいでした」
アスカは、目尻の水滴を拭う。
ゼクスは、あまり考えずに直感で行動する。考えなしだと、レオに怒られることも多いが、それはゼクスの長所でもあった。
「ゼクスさん。ありがとうございます」
アスカは、笑うのを止めてゼクスに頭を下げる。
「なんかよく分からんけど、戻るか?」
「はい」
アスカとゼクスは、元首の部屋の方へ足を向けた。
四聖将は、イニス達のように何度もジパニックに来ている者にとっても初めて見る存在である。その四聖将が目の前にいることは、彼らを驚かせるのに十分だった。
「あれ、四聖将って、4人いるんじゃないのか?」
いち早く正気を取り戻したのは、セッカだった。
四聖将と名のつく限り、4人いるだろうし、噂でも、4人いるとなっていたはずだ。
「ええ。4人ですよ。残りの1人は、カムイ・トキ。今、オーリウスに潜入しています」
「オーリウスに!」
「それだけ、こっちも本気だということだ。イニス殿。分かっていただけたか?」
「ええ」
イニスは、額に冷や汗を浮かべる。
他国に潜入するということは、容易いことではない。特にオーリウスは今戦争中なのだ。そう簡単に他国の者は入れないし、情報を盗めるわけがない。でも、それができるだけの人材がジパニックにはいるということだった。
「首脳会談は、いつも通り3日後。部屋を用意しているから、ご自由に使ってくれ」
「いつも、ありがとうございます」
首脳会談まで3日後。イニス達は日取りを確認し、部屋へ向かおうとした。
その時、扉が音をたてて開いた。全員の意識が扉へと向く。
「アスカ。ゼクス」
そこに立っていたのは、アスカとゼクスだった。
アスカは無言で部屋に入り、タイヨウの前に立つ。
「アスカ?」
タイヨウは、一度拒否されているため、容易にアスカに近づくことができないでいた。また拒否されることが怖いのだ。
アスカはタイヨウを見る。アスカとタイヨウのよく似た黒い瞳が交錯する。
「ちち、うえ」
アスカのか細い声は、しっかりとタイヨウの耳に届いた。
「アスカ!」
タイヨウは、嬉しそうな、安心した表情を浮かべる。
「お帰り、アスカ」
タイヨウは、アスカの黒い髪を、慈しむように撫でた。その仕草は、ヒバリにやるものと一緒だった。
「ただいま。父上」
アスカは、照れながらも、実の父親からの愛情表現をしっかりと受け止めた。




