第44話 心境
四聖将は、4人によって構成されており、1人1人がある能力に長けている。
「あれ? そういえば、カムイは?」
ヒバリが周りを見渡す。現在、ヒバリの周りにはアサヒとカンナしかいない。
四聖将は一緒に行動することが常であるが、1人だけ例外がいた。
「カムイは、オーリウスで隠密の任務についている」
カムイ・トキ。四聖将の1人であり、隠密の能力に秀でている。そのため、スパイとして他国に潜入していることが多い。
「オーリウスで? 危険じゃないか」
「だから、カムイが行ったんだ。ヒバリがアリステルで仕入れたカルラの情報をもとに、俺らも動いている。カルラが関わっている以上、オーリウスのことはもはやアリステルだけの問題ではないからな」
3人は、一様に悔やんだ表情をする。
「これから大変になるわよ。ヒバリ、腕は落ちてないでしょうね」
カンナは、暗い空気を払拭するように言った。その手は、腰に提げてある刀に触れている。
ジパニックの軍隊が使う主な武器は刀である。そのため、他国に侍がいる国だと噂されていた。
「当たり前だろ」
ヒバリも、刀に手をかける。2人は、刀を抜こうと力を入れた。しかし、その瞬間、2人の脳に強い言葉が浮かんだ。
『止めろ』
2人の動きが突然止まる。2人の目はアサヒを見ていた。
アサヒは、一言も発していない。
「アサヒ。力使わないでよ」
カンナとヒバリは、刀から手を放す。
「お前らが、こんな時に戦おうとするからだろ」
アサヒは、純血のジパニック人であり、タイヨウの家系の血も組み込まれている。そのため、片方の力を受け継いでいた。
ジパニック人の中に、タイヨウの家系の血が入っている人間は多い。しかし、全員が力を受け継ぐわけではなく、片方の力だけでも、受け継ぐ者は少ない。そして、片方の力を受け継いだ者のほとんどは、ヒバリやニーナのような心を読む能力の方だった。
対して、アサヒは想いを伝える能力の方を受け継いでいた。加えて、その能力は特異なものだった。
アサヒの能力は、想いを伝え、言うことを聞かせる能力である。力の有効期限は一瞬にしか過ぎず、複雑な命令はできない。しかし、アサヒはその力を駆使して、軍隊長にまで登りつめた。
「ヒバリ。カンナ。今年は、問題が山積みだ。頼むぞ」
アサヒの真剣な目が、ヒバリとカンナを捉える。そこには、先ほどのふざけた雰囲気はなく、ジパニックの四聖将然とした2人がいた。
アリステルとジパニックが面している国境には、山が連なっている。アリステル側は、その山を越えていかなければいけない。そして、その山を越えると、タイヨウのいる城が見えてくる。
「アスカ。大丈夫か」
ラークは、ジパニック領に入ったところで、偵察に出かけた。今、トラックは、最後の山を越えていた。
「ゼクスさん」
トラックの窓から外を見ていたアスカに、ゼクスが話しかけた。
アスカは、ジパニックが近づくにつれて増す不安な気持ちを隠そうと、他の者とは離れたところに座っていた。しかし、そのことにはゼクスを含む全員が気づいていた。
「不安か?」
「はい」
ゼクスが、アスカの隣に座る。アスカは、自分の気持ちを隠さずに話した。それは、ゼクスに対する信頼の表れでもあった。
「アスカ。ラークの言ったとおり、お前はジパニックの人間なのかもしれない。でも、オレたちの仲間でもあるんだ。忘れるな。オレたちは何があっても、お前の味方だ」
「ゼクスさん」
アスカには、人の心を読む力はない。だから、ゼクスが言っていることが、本当なのかどうかを見抜くことはできない。
「ありがとうございます」
アスカは、信じる方を選んだ。心なんて読めなくても、人を信じることができる。それが、アスカの強みだった。
「見えてきたぞ。ジパニックだ」
車内に、ルドルフの声が響く。全員が、窓の外に映る城に目を向けた。




