第43話 ラークとヒバリ
ジパニックの元首の城は、3階建ての構造になっている。タイヨウがいつもいる元首の部屋は、3階の端にあり、その反対側には広い会議室が存在する。
「きれいになったか? カンナ」
「アサヒ」
その会議室では、タイヨウとイニスの首脳会談が行われる予定だ。それに合わせ、タイヨウは軍隊に会議室の掃除を頼んでいた。
会議室の掃除をしているのは、全部で10人。9人が灰色の戦闘服に身を包み、残りの1人は、黒色の戦闘服に身を包んだ女性だった。
「見ての通り。これでいいでしょ」
「ああ、十分だ。ありがとう、カンナ」
アサヒは、綺麗になった会議室を見渡す。
カンナ・マンジ。黒い長髪に色素の薄い瞳。黒い戦闘服に身を包む、四聖将の1人である。純血のジパニック人ではなく、祖父母の代にカーランの血が混じっていた。四聖将の唯一の女性であり、他の女性隊員からの憧れの的である。
「アリステルの方々はいつ来るって?」
「報告によると、もうすぐだそうだ。さっき、タイヨウ様にも伝えてきた」
「タイヨウ様は、どんな様子?」
カンナは、声を潜める。
アスカとヒバリ、そしてタイヨウの関係は、四聖将と一部の隊員にのみ伝えられていた。アスカが帰ってくることを知っているカンナは、タイヨウのことが心配なのだ。
「かなり頭を悩ませておられる。ヒバリがアスカ様にすべてを話しているとはいえ、アスカ様がタイヨウ様のことを覚えていないのには変わりないからな。加えて、オーリウスの侵攻の件もイニス様と話さなければいけない」
「そうね。問題だらけよねえ」
カンナとアサヒは、同時にため息を吐く。
他国と交流のないジパニックに、他国の人間が来るだけでも、一大イベントなのだ。軍隊は、総動員で警備を行う。それに加えて、今回はタイヨウの後継者であるアスカがジパニックに来る。それは、軍隊の精神的な負担になっていた。
「ヒバリが帰ってくるから、戦力的には大丈夫かもしれないが」
「ヒバリも関係者だものね」
ジパニック軍にとって、ヒバリは大きな戦力になりうる。しかし、ヒバリもアスカの問題の関係者であり、身軽に動ける立場ではない。
「アサヒ様! カンナ様! ヒバリ様が」
会議室に、シュンが走りこんでくる。
「ヒバリ様が、帰ってきました!」
シュンの焦った声は、2人の耳に入り込んだ。
ラークは、2歳の時からイオリを驚かせるほどの強さを持っていた。そして、8歳の時には、すでに軍隊に入隊していた。
「ヒバリ!」
「アサヒ。カンナ。久しぶり」
城の入り口にいたヒバリに、アサヒとカンナが走って近づく。
「お前。アリステルの他の方々はどうした? なんで、1人なんだ?」
シュンからの報告を受けた際、アサヒとカンナは、遂にアリステルの一行が到着したと思った。しかし、実際にいたのはラーク1人であり、アリステルのトラックはどこにも見当たらなかった。
「みなさんも、もうすぐ着くと思うよ。でも、父上が警備の見直しの要請をしただろ? それで警備を引き締めることになって、警備担当のセッカさんが、ジパニックに近づいたら1人が先行して異常がないか確かめるって計画立てていたから、俺が先に来させてもらったんだ。この辺の地理にも詳しいしな」
タイヨウは、アリステルに警備の見直しを要請していた。そのため、セッカはジャンとレオに知恵を借りたのだ。そして、ジパニックに近づく際に、1人が先行して周囲を確かめることに決めた。ラークは、それに志願したのだった。
「父上は、部屋?」
「ああ。行くか?」
「うん」
ラーク、アサヒ、カンナは、連れ立って元首の部屋まで行った。
「父上。ただいま帰りました」
ラークが一歩前に出て、タイヨウに向かって跪く。
「お帰り。ラーク」
タイヨウは、ラークと呼んだ。その意図を、ラークは分かっていた。
「イニス様ももうすぐ到着されると思います。そこで、俺の立場なんですが」
ラークは、アリステルにとってはラーク、ジパニックにとってはヒバリであり、どちらの人間でもある。ラークが先行してジパニックに来たのは、周囲の異常を確かめるためでもあるが、自身の立場を先にはっきりさせておくためでもあった。
「俺が首脳会談に参加した目的は、アスカの精神面での手助けと、会議を円滑に進める助言だと、イニス様より伺っております。だから、俺がどちらの人間として会議に参加するかは、父上に任せると」
イニスにとって、すべてを知っているラークがいれば、会議は円滑に進む。ただ、それはジパニックの人間として会議に参加しようが、アスカがアリステル側にいる限り変わらない。ラークはアスカのいる方の味方だと公言しており、アスカの不利になるようなことをするわけがないからだ。
ラークは、タイヨウの息子でもあるため、タイヨウに判断を任せたのは、イニスの優しさだった。
「分かった。ちょっとこっちまで来なさい」
ラークは、タイヨウの元に寄る。タイヨウは、ラークの灰色の髪の毛をそっと撫でた。
「大きくなったな。ヒバリ。お帰り」
「父上。ただいま帰りました」
タイヨウが本当の名前で呼ぶということは、3年前に与えた任務を解くということ。ヒバリは、恥ずかしそうな顔をしながらも、嬉しそうな声で応えた。
「失礼します! アリステルのイニス様がご到着されました!」
灰色の戦闘服に身を包んだ男性が部屋に入ってくる。部屋の中に緊張が走る。
「父上。俺は、今この時よりジパニックのヒバリに戻ります」
「ああ。アサヒ。ヒバリ。カンナ。四聖将として、頼むぞ」
「はい!」
3人の声が、部屋に響き渡った。




