第37話 ラークの告白・中
13年前。ジパニックは、未だかつてない問題に直面していた。
「タイヨウ様! 反乱軍がそこまで来てます」
イオリが、元首の部屋へ飛び込む。
ジパニックでは、ケイト・ストラスという者が先導した反乱軍によって、反乱が起こっていた。反乱軍の目的は、元首の地位。反乱に参加している民衆は全体の2割であるものの、その力は絶大であった。反乱軍は人数が少ないながらも軍隊の守りを突破しつつ、城にまで迫っていた。
「イオリ。頼みがある。アスカを連れて、アリステルに逃げて欲しいんだ」
「アスカ様だけ、ですか?」
「私が国を離れるわけにはいかない。ヒバリは」
「俺は、残ります」
ヒバリが、アスカの手を引いて2人の前に現れる。イオリは、2人の前に膝をついて、ヒバリの頭に目を向ける。
「ヒバリ様。その頭は」
ヒバリの綺麗な灰色の髪は、アスカと同じ黒に染まっていた。目の色は違えど、並ぶと良く似ている。
「俺が、アスカの代わりになる。だから、イオリさん。アスカを守って。アスカは俺の、弟だから」
イオリは、一瞬の逡巡の後、頷く。反乱軍は、城の外に迫っており、迷っている時間はない。
「ヒバリ様。分かりました。でも、私はあなたも大切です。だから、これを預けます」
イオリは、2本の刀を外して、ヒバリの小さい手の上に置く。
「これって、イオリさんの」
「1本は、タイヨウ様を、国を守るために。もう1本は、あなたを守るために」
「ありがとう」
イオリは、立ち上がって、タイヨウの方に目を向ける。
「タイヨウ様。アスカ様は責任を持って守ります。でも、どうか希望は捨てないでください。もう一度、私たちが帰ってくる場所を」
「ああ。イオリ。アスカを頼む」
「はい」
タイヨウとイオリは、惜しむような顔で2人の子供を見た。
「アスカ。元気でな」
ヒバリが、アスカの頭を撫でる。
「なんで? 一緒に行かないの?」
アスカは、無邪気な瞳で、ヒバリの瞳を見つめる。ヒバリは瞳に悲しい感情を映しながらも、目をそらさない。
「俺は、行けないんだ。アスカを守るのが、俺の使命だから。イオリさん。アスカをお願い」
「分かりました」
イオリが、アスカを抱える。
「では、私たちは行きます。必ず、生きて下さい」
「待って! ねえ。一緒に行こうよ。ヒバリ!」
イオリとアスカは、部屋から出て行った。
「ヒバリ」
「はい。父上」
ヒバリは、タイヨウに返事をしながらも、その顔はまだ扉に向いたままだった。
「お前も、逃げなくて良かったのか」
「アスカの身代わりになる人がいないと、いずれアスカが逃げたことがばれます。その役が出来るのは、兄の俺しかいません。それに、俺はまだ諦めていませんよ」
ヒバリは、刀を一本取り、鞘から抜く。もう一本はタイヨウに渡す。
「全く、その良く回る頭と好戦的な性格は誰に似たんだかな」
タイヨウは、刀を鞘から抜く。
「間違いなく、父上です」
ヒバリは、嬉しそうに笑った。
13年前。ジパニックで起こった反乱のことは、アリステルにも届いていた。しかし、交流がほとんどなかったこともあり、詳しくはイニスも知らなかった。
「確か、内乱はすぐに終結したんじゃなかったか?」
「ええ。内乱は、ジパニック軍の勝利で終わりました。でも、国は疲弊していた。だから、アスカとイオリさんはアリステルに残し、復興のめどが立ったら呼び戻すことにしたんです」
イニスの問いに、ラークは淡々と答える。そこには、反乱が終わったことに対する嬉しさは、全く見受けられない。
「でも、すぐに呼び戻すべきだった。あんなことが起こるなら」
「10年前の、コールスへの侵攻だな」
「はい」
ラークは、唇を噛む。
反乱が終わってすぐにイオリとアスカを呼び戻していれば、イオリが死ぬことはなかったのだ。
「オーリウスの侵攻によって、イオリさんが亡くなったという情報は入ってきました。しかし、アスカがその後どうなったかについては、分からなかった」
ラークは、アスカを見る。
「そして、3年前。ある情報が、ヒバリの元に入ってきました」
ラークは、アスカを見つめたまま口を開いた。




