第32話 直接対決
ゼクスは、短気な性格であると自分でも自覚していた。すぐ熱くなるし、思っていることを顔に出してしまう。戦闘中も、楽しくなると笑い声が出てしまう。
しかし、コージュのことに関しては我慢しているつもりだった。どれだけ無視されても、興味を示されなくても、追いつこうと必死に努力した。会うたびに、認めてもらおうとした。だが、16年間、コージュはゼクスに全く興味を示そうとしなかった。
「ああ、もう! いい加減、我慢の限界だ」
こっちから向かっていっても、全く振り向いてくれない相手が、今は何も言わずに見てくる。何を考えているのかさっぱり分からないコージュに、ゼクスはついに限界を迎えた。
「兄貴!」
『訓練場』の入り口から訓練している自分を見つめる影に向かって、ゼクスは叫ぶ。
「兄貴、勝負だ!」
コージュは、身を翻して逃げようとする。しかし、ゼクスはそれを許さなかった。
「逃げるな!」
ゼクスは、コージュに詰め寄って腕を掴む。
「ゼ、ゼクス」
コージュは、16年ぶりに触れ合った弟の手に、戸惑いを見せる。ゼクスは、コージュのことを気にせずに、『訓練場』の真ん中まで連れて行く。
「兄貴。オレが勝ったらちゃんとオレのことを認めろ! もう無視するな」
ゼクスは、ただコージュに認めてほしいだけ。ちゃんと見てほしいだけ。兄の気持ちなんて、知るよしもなかった。
「だが、俺は」
ゼクスが、コージュに向かってナイフを投げる。コージュは思わずナイフを出して跳ね返す。
「逃げるな。兄貴。オレをちゃんと見ろ!」
ゼクスは、コージュに間合いを詰めてナイフを振る。コージュは、自分のナイフでゼクスの攻撃を受け止める。
「ゼクス。お前こんなに」
コージュは、全ての攻撃を跳ね返しているが、ゼクスは、コージュに反撃の隙間を与えない。
「オレは、あんたに近づくために頑張ってきたんだ。兄貴に認めてもらうために」
「くっ」
ゼクスから繰り出される攻撃に、コージュは思わずナイフを振るう。ゼクスは、コージュと間合いを取る。
「本気になってきたみたいだな」
「あ、ああ」
コージュは、ゼクスの知らなかった強さに驚きの表情を隠せない。
「だが、まだまだこんなもんじゃないぞ!」
ゼクスは、身体からナイフを取り出し、コージュに投げていく。それは、16年前にコージュがルドルフに繰り出していた攻撃に似ていた。
「くっ」
コージュは、間一髪で飛んでくるナイフを叩き落す。
「どうしたんだよ、兄貴。こんなもんじゃないだろ!」
「くそっ」
コージュは、ナイフを10個両手に取り出し、ゼクスに向かって投げる。
「あっ」
10個のナイフは、別々の軌道を描きながらも、ゼクスに吸い込まれていく。
コージュは、無愛想で冷静だなんて言われているが、その認識には大きな過ちがある。コージュは、無愛想で冷静のように見せているだけなのだ。本当は、ゼクスと同じような、短気な人間だった。そして、それは戦闘でのみ発現される。
「あっ」
コージュは、ゼクスに向かってナイフを投げた後に、やってしまったことに気付いた。16年前にもゼクスを襲ったそのナイフは、今もゼクスに向かっていく。
しかし、ゼクスは16年前のように、幼い男の子のままではなかった。
「さすが、兄貴」
ゼクスは、不敵に笑い、10個のナイフを取り出す。それを、向かってくるナイフに投げた。
ナイフは、大きな音を立てて『訓練場』の床の上に落ちる。
「ゼクス。お前、その技」
「これを教えてもらっているのが、兄貴だけだと思ったか? オレも、キルク・ショークブルクの息子なんだ!」
ゼクスは、コージュに向かってナイフを投げる。コージュは、それを左手で握りしめた。コージュの左手から血が流れる。
「兄貴?」
「俺の負けだ。ゼクス。認めるよ。悪かったな」
コージュは、ナイフを放り投げ、『訓練場』から出て行った。




