第29話 キルクの思惑
コージュが、突然弟のゼクスのことを見つめだしたという噂は、アスカの耳にも入っていた。実際に、その光景を目にしたこともある。
しかし、アスカもコールスに行くためには、早く訓練を終えたい。後は、第1戦闘部隊のコージュの訓練を合格するだけだ。
「ここが、第1戦闘部隊待機室」
アスカは、『第1戦闘部隊待機室』に来ていた。
コージュが、謎の行動を示しているとはいえ、訓練をお願いしないわけにもいかない。
「コージュさん。いるのかな?」
朝、コアの待機室でゼクスを見かけたとき、まだ周囲にコージュの姿はなかった。そのため、アスカは『第1戦闘部隊待機室』まで来たのだ。
「失礼します。アスカ・シノノメと申しますが」
アスカは、意を決して扉を開けた。
『第1戦闘部隊待機室』は、『第9戦闘部隊待機室』の隣にある。その部屋は、城の中で一番大きい。第1戦闘部隊は、毎年必ず新人が1人入ってくるため、他の戦闘部隊よりも人数が多く、そのために、城の中で一番大きい部屋を待機室としている。
「おや。君は、誰だ?」
『第1戦闘部隊待機室』の中には、キルクがいた。奥の椅子に座り、机には紙が積まれている。
「あの、第4戦闘部隊所属、アスカ・シノノメと申します。コージュさんに、訓練をしてもらおうと思って」
「ああ。イニスから聞いているよ。コアの新人が訓練に来るかもしれないって」
キルクは、笑顔で立ち上がり、扉の所にいるアスカに近づく。
「私は、キルク・ショークブルク。コージュとゼクスの父だ。2人が、いつもお世話になっているね」
「い、いえ。こちらこそ。ゼクスさんと、コージュさんのお父さん」
「私は、もう引退した身なんだが。君も知っているだろう。最近のコージュの行動。あれは、私のせいなんだが。それを許してもらうために、コージュの仕事を代わりにやっているんだ」
「はあ」
アスカは、分かったような、分からないような表情を浮かべる。ショークブルク家の事情を知らないアスカにとって、噂のコージュの奇行がキルクのせいだと言われても、ピンと来ないのかもしれない。
「何で、コージュさんはあんな行動を?」
「ゼクスとコージュの仲が悪いのは知っているだろう? 私はそれをもどかしく思っていてね。コージュに、ゼクスと仲良くならないと跡を継がせないと言ったんだ。おそらく、あいつなりに、ゼクスに近づこうと思っての行動なんだろうね」
「何というか。コージュさんて、不器用なんですね」
「君も、そう思うかい?」
キルクは、苦笑いを浮かべる。
仲良くしようと思ったなら、素直に話しかければいい。睨んでいるからと言って、嫌われているとは限らない。現に、ゼクスはコージュのことを嫌っているわけではない。しかし、嫌われていると思い込み話しかけることができないコージュに、事情を知る人たちは呆れるばかりだった。
「でも、何でコージュさんはゼクスさんと仲が悪いんですか。ゼクスさんも、嫌われていると言ってましたけど」
「本当のところ、よく分からないんだ。あ、そうだ。アスカ君。調べてくれないかな」
「え。僕がですか?」
アスカは、コージュの訓練をしにきただけなのだ。ショークブルク家の問題には、何も関係ない。
「多分、コージュとゼクスの仲が良くならない限り、コージュはあの行動を続ける。すると、コージュは仕事が出来ないから、おそらく、君の訓練も出来なくなるよ」
キルクは、間接的に、アスカを脅す。
「分かりました」
アスカは、頷くしかなかった。
キルクは、イニスとコージュの仕事を肩代わりする約束をしてから、毎日『第1戦闘部隊待機室』で仕事をしていた。そのため、第1戦闘部隊の隊員とは、かなり仲良くなっていた。
「失礼します。あ、キルクさん、お疲れ様です」
「おお、ラーク君。お帰り」
『第1戦闘部隊待機室』にラークが入ってくる。
「今日も、コージュさんはゼクスさんのストーカーと化していましたが」
「ああ、やっぱり?」
キルクは、コージュが目にかけているラークに、コージュの監視をするようにお願いしていた。キルクが見ることができたら良いのだが、仕事もあり、キルクがいてはコージュが余計頑なになる可能性もある。
「いつになったら、終わるんですかねえ」
「コージュがゼクスを嫌っている原因が分かれば、進展すると思うんだがな」
「ああ、アスカに頼んだんですよね。大丈夫かな、アスカ」
キルクは、ラークの答えに驚く。
アスカに、原因を探るように頼んだことは、ラークには言っていない。
「聞いている通り、情報収集が得意なんだな」
「だから、俺にコージュさんの監視を頼んだんでしょう?」
ラークは、例えコージュの傍にいることが出来なくても、情報を収集してコージュの様子を知ることが出来る。それが可能だから、笑う演出家と呼ばれているのだ。
「その通りだ」
キルクは、皮肉な笑みを浮かべた。




