第28話 すれ違う想い
「ゼクスさん」
「なんだ、アスカ?」
「あそこにいるのって、コージュさんですよね」
「ああ。やっぱり、お前にも見えるのか」
アスカとゼクスは、振っていた手を止める。
2人は、仕事もないこともあり、『訓練場』で訓練をしていた。
アスカは、第1戦闘部隊に行く前に、コージュについて聞いておこうと思い、ゼクスに訓練の同行を頼んだのだ。ゼクスはゼクスで、強くなることには余念がなく、『訓練場』で話しをしながら各々刀とナイフを振っていたのは合意の上だった。
しかし、そこに珍しい人物が姿を現した。
「なんで、コージュさん、入ってこないんですかね」
「オレのことが嫌いだからだろう」
2人がいる『訓練場』に姿を現したのは、コージュだった。しかし、中には入らず入り口のところでずっとゼクスを見つめている。
「でも、嫌いならどこか行けばいいのに、ずっとゼクスさんのこと見てますけど」
「もしかして、お父様が言っていたのってこのことなのか?」
結局、ゼクスは一日中コージュの視線を浴びることとなった。
キルクは、普段家で好きなことをして過ごしている。外出することは、ほとんどない。
「今日は、家で本を読む予定だったんだがなあ」
「すいませんね。急に呼び出して」
キルクは、今日、イニスに呼び出されて王室に来ていた。立場的にはイニスの方が上だが、キルクはイニスが戦闘部隊に入ったときにはすでに、第1戦闘部隊の隊長だった。そのため、イニスはキルクに対して敬語が抜けず、キルクもイニスが王様になったからと言って態度を変えるつもりがない。
「何の用だ?」
「コージュのことなんですが」
「お、何か変化あったのか?」
「やっぱり、キルクさんが何か仕掛けたんですね? ずっとゼクスに付きまとってますよ。しかも、話しかけるのではなく見つめるだけ」
イニスは、呆れたように首を振る。イニスの言葉を聞いたキルクは、大きな笑い声を上げた。
「そうきたか!」
「コージュに何を言ったんですか?」
「跡を継ぎたいなら、ゼクスと仲良くしろ、とな。あれでも、歩み寄っているつもりなんだろ」
イニスは、ため息を吐く。
「今さら、あの2人が仲良くするなんて、可能なんですか? 大体、何であの2人は仲が悪いんです?」
コージュとゼクスの仲の悪さは、城の中でも有名である。しかし、理由をちゃんと知っている者はあまりいない。
「コージュ曰く、弱い者には興味がない、らしい。でも、私の記憶が正しければ、ゼクスが生まれた頃は仲が良かったんだけどな」
「そりゃ、生まれた頃に、仲が良い悪いはないでしょう。とにかく、コージュを何とかしてくださいよ。あれじゃ、仕事になりません」
「それは、無理だ」
キルクは、はっきりと否定の意を示す。
「一応、家の問題だからな。コージュがやるはずの仕事は、私がやるから、もう少し待ってくれないか」
キルクは、戦闘部隊を引退した身ではあるが、年齢的にはジャンよりも下であり、まだまだ現役としてもやっていける年だ。それに、元々第1戦闘部隊隊長。出兵は無理にせよ、他の仕事をコージュの代わりにやることくらいは可能だった。
「分かりました。もう少し、様子を見てみます」
キルクの頼みに、イニスは承諾の意を示した。
「コージュ。お前、何してんの?」
「セッカ」
セッカは、たまたま見かけたコージュに話しかけた。コージュは、廊下の陰からゼクスを見つめているところだった。
「お前、最近おかしいって噂だぞ」
セッカは、ニヤニヤしながら言う。その顔は、友人を心配しているという顔ではない。
普段は冷静沈着で厳しいと言われるコージュの最近の奇行に関する噂は、ほとんどの者の耳に入っている。しかし、コージュのことを心配するものはあまりいない。どこか人間味のないコージュの奇行を、面白がっている者が多いのだ。
「お父様がな。ゼクスと仲良くしなければ、跡を継がせない、と」
「ああ。ついにキルクさんも実力行使に出たか」
セッカは、コージュとは養成学校からの付き合いである。お互いの家を行き来することもあり、キルクとも、個人的な関係を持っていた。
「だが、今さらどうすればいいのか」
普段は、強気なコージュはが珍しく弱音を吐く。それは、セッカを驚かすのに充分だった。
「まあ、確かに今さらだよな。でも、興味のないように振舞っているのは、あのことがあったからだろ? ばらせばいいじゃないか。全て」
「いや、それはちょっとな」
「なら、普通に話しかければいいじゃないか」
「しかし、ゼクスは俺に会うたびにいつも睨んでくる。嫌われているのだろう。どうやって、仲良くすればいいんだ?」
コージュのあまりの不器用さに、セッカは深いため息を吐いた。




