第24話 三角の関係
アスカは、右利きである。しかし、刀を扱うときは、右でも左でも扱うことができる。それは、二刀流であるラークが剣術を教えたためである。どちらの手でも扱えるようにしておいた方が、剣術は格段に強くなるのだ。
「ふわぁ。良い天気だなあ」
今アスカは、オーリウスとの戦闘で両手を負傷している。治るまでは安静にしておくようにルドルフから言い渡されたアスカは、園庭に来ていた。
「あら。アスカ」
「アリス」
1人しかいなかった園庭に、アリスが入ってきた。
「お父様から聞いたわ。怪我したそうね。大丈夫?」
アリスは、アスカの隣に座りながら、包帯の巻かれた両手を心配そうに見る。
「うん。大丈夫。ありがとう」
アスカは手を動かしながら答える。
「そう。良かった。今日は、良い天気ね。アスカは、よくここに来るの?」
「ううん。今日は、安静にしてろって言われて暇になったから。アリスは?」
「私は、弟達の世話に疲れたら、よくここに来るの。それに、ここに来ればもう1人の友達に会えるから」
「友達?」
アリスには、アスカの他にも友達がいる。それは、アスカのように戦闘部隊の人間ではあるが、それでもアリスにとっては大事な友達だった。
「うん。ここが好きなんだって。よく、ここで遊ぶんだ」
「そう、なんだ」
アスカの頭に、ラークの姿がよぎる。
アスカにとって、友達と言えばラークだ。しかし、そのラークはアスカに何かを隠している。はぐらかされるのはいつものことだが、話してくれないという事実は、アスカを不安にさせていた。
「どうしたの?」
突然、黙りこくったアスカの顔を、アリスが覗き込む。
「いや、僕の友達のこと思い出して」
「ケンカでもしたの?」
「ケンカ、じゃないけど。僕に何か隠している気がするんだ。いつも笑ってはぐらかされて。僕には、何も教えてくれない。友達なのに、僕はあいつのこと何も知らない」
アスカは、腰に提げてある刀に触れる。
「なんか、アスカの友達って私の友達に似てるわね。私の友達もいつも笑ってばかりなのよ。大事な所ではぐらかすし」
アリスは、自分の友達を思い出してため息を吐く。しかし、すぐに笑顔になる。
「でも、そんな心配しなくても、大丈夫だと思うわ」
「え?」
「アスカの友達なら、隠している理由は多分、あなたを守るためなんじゃないかしら。友達なら、友達の悲しむことをするはずないもの」
ラークは、アスカの味方だと言った。笑ってはぐらかすことも多いが、ラークの言葉に嘘はない。それなら、アリスの言うとおり、はぐらかすのもアスカのためなのかもしれない。
「アリス。ありがとう。僕、そろそろ待機室戻らなきゃ。またね」
「バイバイ。アスカ」
アスカとアリスは、手を振り合って別れた。
「アスカの友達って、どんな人なのかしら」
1人園庭に残ったアリスは、空を見上げる。
「それにしても、今日はいい天気ね」
「そうだな」
呟いたアリスの声に、男性の声が返ってくる。
「ラーク」
「アリス。久しぶり」
園庭に、ラークが入ってくる。
アリスの言っていた園庭が好きな友達は、ラークのことだった。2人は、たまたま園庭で出会ったのだ。
「1人か?」
「さっきまで、友達がいたんだけど。待機室行かなきゃって行っちゃった」
「俺以外に、友達が出来たのか。良かったな」
ラークは、アリスの頭をなでる。
「ラーク、頭なでるの癖なの?」
「あ、ああ。俺より小さいやつ見るとつい、な」
ラークは、照れたように笑う。
「それより。今日もやるか?」
ラークは、刀を腰から外してベンチに置く。そして、手に持っていた2本の棒の1本をアリスに放り投げる。
「もちろんよ!」
アリスは、棒を余裕でキャッチする。
アリスは、ラークから剣術を習っていた。アスカと戦ったときのアリスの太刀筋は、ラークの教えの賜物だった。
アリスはイニスには、剣術を習っていることは内緒にしていた。王家の人間といえども王女であるアリスが剣術を習っていることは、歓迎されないことを分かっているのだ。アリスも、剣術を学んで兵士になろうとまでは思っていない。しかし、守られているだけでは、アリスの気が晴れないのだ。
「よし。んじゃ、来い!」
「うん!」
誰も来ない園庭に、棒の重なる音が響き渡った。




