第22話 役割
東の村スタンは、周りを森に囲まれた、小さな集落である。林業を生業とし、50人程が暮らしている。
「アスカ! シュタインさん。セル」
スタンに到着したアスカ達は、ルドルフ、レオと合流した。
「レオ。状況は?」
セルがレオに問う。
シュタインは40歳、セルは30歳であり、ルドルフ、レオよりも年上である。しかし、セルはレオと同期であり、親しい友達だった。
「まだそこまで侵攻はされていません。民衆もほとんど無事です。まだゼクスとニーナが来てないので、隊長は前線で敵を殲滅して来て下さい。アスカは、ところで、一緒に来たのは、訓練だったからですか?」
「そうだ。もう終わったけどな。隊長。オレたちはいつも通りですか?」
「うむ。そうだな。レオ、頼みがあるのだが」
シュタインは、渋い顔で切り出す。
「アスカを貸してくれないか。今日は、民衆を守る方に就かせたい」
「そう、ですね」
レオは、あまり驚いていない表情で頷く。一緒に来たこともあり、シュタインの申し出を予期していたのかもしれない。
「今日は、まだ城に残っていたリュンさんも来てますし。あ、ゼクスとニーナも来ましたね。大丈夫です。アスカ。あなたは今日は第3戦闘部隊の方を手伝って下さい」
「分かりました」
アスカは、神妙な顔で頷いた。
リュンは、あまり城にいないこともあり、戦地に赴くことはほとんどない。しかし、今日は城を出る前にオーリウスの侵攻が起こり、いくら仕事があっても戦地に来ざるを得なかった。
「はあ。何で、仕事を増やすかなあ」
リュンは愚痴をこぼしながらも、向かってくる敵を剣で倒していく。
「忙しいのも分かるが。たまには身体を動かさないと鈍るだろう」
ルドルフがリュンの愚痴に苦笑する。
「だから、いつも動いているんだって。各地に行かなきゃいけないんだから」
リュンはルドルフより年上だが、入隊したのはルドルフより遅い。その奇妙な関係から、敬語が面倒くさかった2人は、どちらもタメ語で話そうと決めているのだった。
「まあ、そう言うなって。戦慄の学者の力を見せてくれよ」
リュンは、戦争史に興味があることや地理や考古学に詳しいため、各地の調査をする第6戦闘部隊を任せられているが、戦闘の能力も高い。そのことから、戦慄の学者という二つ名が付いていた。
「その二つ名も好きじゃないんだけどなあ」
敵を倒しながらも、リュンの愚痴が途切れることはなかった。
第3戦闘部隊は、戦地に赴く際、大きいテントを持っていく。それを村の端に設営し、民衆を収納しておくのだ。とはいえ、そこにも敵が来ないわけではない。第3戦闘部隊は、民衆を狙ってきたオーリウスの兵士から民衆を守るために戦う。そのため第3戦闘部隊は、オーリウスの兵士を倒すことが目標ではなく、退けることが最優先とされる。
「いいか。アスカ。敵が来ても倒そうとするんじゃない。攻撃をいなし、退けるんだ。間違っても、赤き制裁になるなよ」
赤き制裁になってしまえば、敵を倒すことができる。しかし、赤き制裁になると敵味方の区別がつかなくなる。守るべき民衆に害を及ぼす可能性があるのだ。
「は、はい」
「来たぞ」
オーリウスの兵士が5人走ってくるのを、アスカとシュタインは目で捉える。
「行くぞ。アスカ」
「はい」
アスカは、刀を抜いて構える。
1人のオーリウスの兵士が、ナイフをほおってくる。アスカは、刀で跳ね返した。シュタインは、トンファーを取り出し、オーリウスの兵士に向かって走る。シュタインの行動を見て、4人の兵士が剣を抜く。
「アスカ! ナイフのやつは頼んだぞ」
なおもナイフを投げてくる兵士を、アスカは見据える。
飛び出したシュタインは、4人の兵士の方に向かう。
「たった1人で、何が出来るっていうんだよ」
オーリウスの兵士は、嘲笑うかのように剣を振るう。シュタインは、その剣を片方のトンファーで受け止め、もう片方で柄を殴る。
「なっ」
殴られた剣は、兵士の手を離れ空を飛ぶ。シュタインはそのまま残りの兵士の剣を握る手を狙ってトンファーを振るう。空に描く2つのトンファーは、残りの兵士の剣を吹き飛ばした。
攻撃する手段を失った兵士達は、呆然とシュタインを見つめる。
「1人でも、出来ることはあるんだよ。俺がいる限り、民衆には指一本触れさせん」
シュタインは1対多数の戦闘の方が得意だ。それは、相手を傷付けなくても、戦意を喪失させる術を知っているからだった。
シュタインは、アスカの方を向く。飛んでくるナイフを刀で跳ね返していたアスカは、怪我をしていないながらも満身創痍の様子だ。
「あっ」
アスカが跳ね返し損なったナイフが、テントの方に向かう。
「やばい!」
アスカは刀を放り投げ、テントに向かうナイフに手を伸ばす。
「アスカ!」
ナイフを投げてくる兵士を気絶させたシュタインは、アスカに叫ぶ。しかし、アスカの耳にはシュタインの声は入っていない。意識は、目の前のナイフのみに向いていた。
「届け」
アスカの手が、ナイフに触れ、そのまま叩き落した。アスカの手が、真っ赤に染まる。
「あっ。あっ」
ナイフは、地に落ちている。しかし、アスカの黒い瞳には真っ赤な血が浮かんでいる。
「アスカ! お前は、どうして戦闘部隊に入ったんだ! 敵を殺すためだけじゃないだろ」
「どうして? 僕は」
アスカの瞳が、手の血から逸れ、正面を向く。
「あなたたちは、コア」
アスカの黒い瞳が閉じられ、アスカはその場に倒れた。




