第21話 悔しさ
トンファーは、元々スタリアで創られた武器である。スタリアは、アリステルと貿易の交流があり、トンファーもその対象としてアリステルに輸入されているため、トンファーを扱う兵士は多い。
しかし、シュタインの扱うトンファーは、通常の物とは少し違っていた。
通常、トンファーには殺傷力はない。鉄で出来た丸い棒を自在に動かすことで、主に打撃に特化した武器である。対して、シュタインのトンファーは、コンデルが作った特別製である。表面の部分が尖がった刃物のようになっている。言わば、鉄の三角形の棒の形をしているのだ。
そのおかげで、相手の攻撃を叩き落とすことはもちろん、殺傷力も相当のものである。
「ほらほら。こんなもんか?」
シュタインは、アスカの切り込みを全て防御している。攻めて行っているのはアスカなのに、シュタインの方が余裕に満ちた顔をしていた。
「くそ。何で、当たらないんだ」
アスカは、実技の成績は悪かったが、一応養成学校を卒業した兵士だ。戦闘の基礎は習っているし、反撃をしてこない相手にかすりもしないなんて経験はない。
しかし、シュタインはアスカの攻撃をいなし、かわしている。それだけ、シュタインの守りの能力が高いということだった。
「これじゃ、コアは務まらないぞ」
シュタインは、アスカの刀をかわしながらも、挑発の言葉を繰り出す。
「そんなこと、言われても」
アスカは、シュタインの挑発に動揺しながら、必死に刀を振るう。しかし、その刀はトンファーに阻まれる。
「いいか。アスカ。民衆を守るのが俺たちの役目なら、敵を倒すのがお前の役目だ。それが、コアだ。いざというとき、イニス様を守れるくらいの強さを持っている。だから」
シュタインは、アスカの刀を吹き飛ばす。アスカは、その反動で尻もちをつく。
「だから、コアと呼ばれるんだ。そのお前が、俺に一撃も当てられないようでどうする」
アスカは、無言で刀を取った。
「お、まだやる気になったか?」
「う、うわあああ」
アスカは、目をつぶって自分の左腕を柄で叩く。包帯を巻いていた部分に血が滲んでくる。
「アスカ?」
突然のアスカの奇行に、シュタインとセルは驚きを隠せない。
アスカは、震えながらも自分の左腕から流れる血を目に焼き付けた。そして、再度立ち上がる。
「うわあああああ」
アスカは、叫びながらシュタインに刀を振るう。
「お前、この力は」
先程とは格段に違うアスカの力に、シュタインは自分を守ることに必死になる。
「くっ。やばい」
アスカが、シュタインの右手に柄を当て、トンファーを吹き飛ばした。それでもなお、アスカは戦闘を止めようとしない。
「あああああああ」
「隊長!」
アスカの真上から振るわれた刀を、セルが剣で受け止めた。
「隊長。アスカを止めますよ。訓練は終わりです。いいですか?」
「あ、ああ」
セルは受け止めた剣で刀を跳ね返し、そのまま剣の腹でアスカの頭を殴りつけた。
アスカは、重力に従って床に倒れる。
「なんだ。この力は」
「噂で、聞きました。コアの新人は、自分の血を見ると戦闘機械のようになると。二つ名は、赤き制裁」
セルの茫然とした声が、『第3戦闘部隊待機室』に響き渡った。
アスカは、赤き制裁の間に起こったことは、全て記憶に残っている。どれだけ自分が化け物のような強さを持っているかも。周りに怖がられていることも。全て知っていた。
それゆえ、赤き制裁の能力を使うことを恐れていた。しかし、シュタインに挑発された時、アスカの頭に浮かんだのは、セッカの言葉だった。
「ん?」
「アスカ。目覚めたか」
アスカの顔を、シュタインとセルが覗き込む。アスカが、目を覚ましたのは、『休憩室』の中だった。
「あ、僕。すいません」
血を見た後のことを思い出し、アスカは罪悪感を抱く。
「気にすんな。俺も挑発しすぎた」
「アスカ。頭は痛くないか?」
「あ、はい。大丈夫です」
アスカは、コアに入りたくて兵士になった。だからこそ、シュタインに挑発された時、アスカの胸を占めた想いは、悔しさだった。その悔しさが、アスカを赤き制裁にしたのだった。
「すいません。僕、まだトラウマを克服できてないのに。悔しくて。勝ちたくて」
「その悔しさが、大事なんだ」
シュタインは、アスカの手の上に証を置く。
「その悔しさを持っているなら、お前はまだ強くなれる。トラウマを克服できる」
「はい。ありがとうございます」
アスカは、手の中の証を握りしめた。
『ウゥゥゥーーーー。東の村スタンをオーリウスが侵攻を開始。空いている部隊は至急応援へ』
スピーカの声が鳴り響く。
「アスカ。行けるな?」
「はい!」
アスカ、シュタイン、セルは急いで『第3戦闘部隊待機室』を出て行った。




