第19話 懐かしいしぐさ
アスカが『第6戦闘部隊待機室』を出た頃には、もう日は暮れかけていた。
「次は、第3戦闘部隊の隊長か。もう、明日の方がいいかな」
アスカは、茜色に染まる窓を見つめる。
「アスカ」
前方から名前を呼ばれ、アスカは顔を本来あるべき位置へと戻す。
「ラーク」
前から来たラークは、アスカの前で立ち止まる。
「何してんだ?」
「リュンさんの証貰えたけど、第3戦闘部隊は明日かなって外見てたんだ」
「そうか。第6戦闘部隊も合格したか。良かったな。どんな訓練だった?」
「コールスで見つかった手紙を解読するものだったんだ。ジパニックのヒバリっていう者と、コールスの何者かの手紙」
「手紙?」
ラークの顔が驚きの表情に変わる。
「それ。解読できたのか?」
「いや。昔に滅びた国の言葉かもしれないって推測が立っただけ。また時間が出来た時に調べるって」
「そうか」
ラークは、ホッとして息を吐く。
「ところで、ラークは何してたの?」
「俺は、訓練してたんだ」
途中、セッカやジャンに出会ったり、用事を思い出したりしたものの、結局ラークは一日中訓練をしていた。
「ラーク。今でも強いのに。まだ強くなるの?」
「俺は、まだ強くない。お前を守れなかったからな」
ラークの視線がアスカの左腕に注がれる。そこにはまだ包帯が巻かれていた。
「そんな。僕も兵士だよ。自分の身は自分で守る。だから、ラークも自分を守ってよ。その刀で」
「お前。その言葉」
ラークの目が、大きく開かれる。
「え、何?」
「いや。何でもない」
ラークはかぶりを振り、アスカから目を離す。
「俺の2本の刀は、今はお前を守るために存在する。それが、俺の使命だから」
「何で、そこまで僕を守ろうとするの? 家族でもないのに」
ラークは、一瞬傷ついた表情を浮かべる。しかし、すぐにいつもの笑顔に戻った。
アスカは、ラークの表情の変化に気づかない。
「いつか、話すよ」
ラークは、自分よりも少し背が低いアスカの頭を撫でて、去って行った。
アスカは、ただ戸惑うのみだった。
アスカは、寝るのが嫌いだ。それは、コールスの出来事を悪夢として見ることが多いからだ。そのため、寮に戻っても、中々寝ようとはしない。
しかし、今日は違っていた。寮に戻ったアスカは、ベッドの上に倒れる。ほぼ半日辞典を読み漁ったため、疲れがピークに達していたのだ。
「あー。寝ちゃう」
アスカは、そのまま夢の中へと落ちて行った。
そこには、黒髪の男性が2人と黒髪の男の子が2人いた。
「アスカ。元気でな」
1人の黒髪の男の子が、もう1人の黒髪の男の子の頭を撫でる。
頭を撫でられたアスカは、夢だと気づいていた。しかし、その口は、全く別の言葉を発する。
「なんで? 一緒に行かないの?」
「俺は、行けないんだ。アスカを守るのが、俺の使命だから」
アスカは、目の前の男の子が誰か思い出せない。でも、離れたくない存在であることは感じていた。
「イオリさん。アスカをお願い」
「分かりました」
1人の黒髪の男性が、アスカを抱える。
イオリは、アスカの父の名前であったが、アスカは父よりも目の前の男の子の方を恋しく思った。
「では、私たちは行きます。必ず、生きて下さい」
「待って! ねえ。一緒に行こうよ。━━━!」
アスカは、最後まで男の子の名前を思い出せなかった。
アスカが目を覚ました時、外では、鶏が鳴いていた。
「もう、朝か」
アスカは、目を擦りながら起き上る。
「ラークに撫でられた感触と似てた。誰だったんだろう、あの黒い髪の男の子は」
ラークの髪の毛は、灰色。いくら感触が似ていても、同一人物ではない。
アスカは初めて見た悪夢以外の夢を心に留めながら、身支度を始めた。




