第18話 懐疑的な会議
セッカとジャンは、普段から仲が良いわけではない。というよりも、お互い忙しいためあまり2人きりで会う事は少ない。
しかし、リュンが帰って来た時だけは別だった。リュンの帰宅をどこからか嗅ぎ付ける2人は、揃ってリュンを訪ねていた。
「なのに、何で今はここにいるんだ」
イニスは、訪れた2人の姿にため息を吐く。
『第6戦闘部隊待機室』を出た2人は、その後王室に来ていた。
「ちょっと暇になったからですけど」
「アスカが来たからリュンの所を追い出されてのお」
セッカとジャンは、悪びれもせずに言い放つ。その態度に、イニスは青筋を浮かべる。
「お2人を暇にしたつもりはないんですけどね。そんなに暇ならまだ終えてない仕事がこんだけあるんですが」
イニスは、積まれた紙の束を2人に見せる。
「う、嘘です。ちょっと相談がありまして」
セッカは、焦って首を横に振る。しかし、ジャンは飄々とした態度を崩さない。
今年36歳になるイニスは、ジャンよりも年下である。ジャンはイニスが国王の座に就いた時にはすでに第9戦闘部隊隊長であり、イニスに対しても他の者と変わりなく接する。イニスも、立場的には上だが、年齢的にも経験的にも上のジャンに対しては尊敬の念を持っていた。
「何だ。その相談とは」
「実は、ここに来る途中、ラークに出会ったんです」
「ラークっていうと、第1戦闘部隊の新人だな。今年主席の」
イニスがラークに出会ったのは、年度初めの任命式だけだ。しかも、出会ったと言っても、何人かいる新卒兵の1人として見ただけだった。直接話したことはない。
「そうじゃ。そのラークが奇妙なことを言っておってのう」
「奇妙なこと?」
イニスは2人の物言いに首を傾げた。
『第6戦闘部隊待機室』を追い出される形となった2人は、揃って廊下を歩いていた。
「そういえばジャンさん。今度のイニス様とタイヨウ様の首脳会談の警備について知恵をお借りしたいのですが」
実際に警備するのは第5戦闘部隊なため、警備の見直しの依頼はセッカに任されたが、アリステルの頭脳と言えばジャンなのだ。セッカも、アリステル1の参謀と言われるジャンの知恵を借りたいと思うのは不思議ではない。
「おお。もうすぐじゃったのお」
「その相談。俺も混ぜてもらえません?」
セッカとジャンは、勢いよく後ろを振り向く。2人の後ろにいたのは、汗まみれのラークだった。
「おや。おぬしどっかで」
「ラークじゃないか」
「おお。アスカの訓練の時に園庭で紙を託した小僧か。おぬしがラークじゃったか」
「セッカさん。ジャンさん。お久しぶりです」
ジャンは、アスカの訓練の時にラークに一度会っている。しかし、たまたま園庭にいたラークに、ラークだとは知らずに紙を託したのだ。
「なんで、そんな汗まみれなんだ」
「そこで、今まで訓練してたからです。そしたら、お2人の声が聞こえて」
ラークの指差す先には、『訓練場』のプレートが掲げられた部屋がある。
「何で、相談に混ざりたいんじゃ?」
「それは、カルラ・ストラスが死んでいるとは限らないからです」
ラークの言葉に、セッカとジャンは驚きの表情を浮かべた。
「何で、ラークがカルラのことを知っている。あいつは、今年養成学校を卒業したのだろう?」
「以前、その質問を俺は彼にぶつけました。その時の答えは、笑う演出家だから、というものでした。でも、それ以上に、カルラは死んだはずです。殺したはずです。俺たちが。何で生きてるかもしれないなんて」
ルドルフが、10年前に死んだと言っていたカルラ・ストラス。その者を、当時6歳だったはずのラークが生きているかもしれないと言う。
「ラークは、それ以上何か言っていたのか?」
「いや。その言葉を聞いた後にラークが用事を思い出したからと言って去って行っての。わしらもそのままここに来たんじゃ」
「そうか」
イニスは、身体中の空気を全て外に出すように吐き出す。
「実はな。警備の見直しは私が言いだしたことではないんだ」
「どういうことです?」
「ジパニックのタイヨウ様から連絡が来て。もしも万が一のことがあるかもしれないから、警備の見直しを頼むと」
首脳会談では、ジパニック、アリステルの両国が共同で警備を行う。しかし、それぞれの国がどのように警備をするかは、それぞれの国で決めることになっている。一応、相手国に警備体制は伝えるものの、横やりが入ることはほとんどない。
ただ、今年は違っていた。アリステル国の警備体制を見たタイヨウが、警備の見直しを要求してきたのだ。
「その万が一って、カルラが生きているかもしれないってことですか?」
「分からん。だが、用心はしておいた方がいいのかもしれない。何らかの脅威がある可能性は、上がったからな」
「ラークに対しても、じゃな」
ジャンが、イニスの言葉に付け加える。
「あいつは、色んなことを知りすぎじゃ。情報収集のスペシャリストとはいえの」
「そうですね」
3人は、ラークがコアに、アリステルの味方だと宣言したことを知らない。現状だけみると、知りすぎているラークは怪しい人物の1人なのだ。
「セッカ。ラークのことはとりあえずいい。警備の見直しを頼むぞ。ジャンさんも手伝ってあげてくれ」
「はい」
「うむ」
セッカとジャンは、2人揃って了承の意を示した。




