第17話 言語の世界
世界には、多くの言語が存在する。それは、各国がそれぞれの言語を持っているからである。
リュンは、母国語であるアリステル語を始め、オーリウス語、ジパニック語、スタリア語の4ヶ国語を扱うことが出来る。しかし、そんなリュンでも、手紙に書かれているのは知らない言語だった。
「その紙って」
「これは、この前コールスに行った時に見つけたんだ。ほら」
リュンは、アスカに紙の束を渡す。
「コールスで?」
アスカは、目を輝かせて紙を開いた。しかし、輝いた目は一瞬で曇る。
「これ、何て書いてあるんですか?」
「内容は分かんないんだけど。ジパニックのヒバリっていう者がコールスの何者かに書いた手紙だよ」
「なんで、ヒバリっていうのは分かったんですか?」
「ヒバリっていう言葉だけ、ジパニック語だったんだ。あれ、そういえばアスカはジパニックの出身だよね?」
アスカが、コアの新人であること。ジパニックとアリステルのハーフであること。リュンは、アスカに会う前にそのことを噂で聞いていた。
「いや、僕は確かにジパニックの血も入ってますが、生まれはアリステルって聞いています。アリステル語しか分かりません」
普通の者は、自分の国の言語しか扱うことができない。アスカも、例外ではなかった。
「でも、何でヒバリだけジパニック語だったのでしょうか」
「そこなんだよね。ヒバリ以外は、どこの言語か分かんないし」
「ヒバリをその言語にしたら、逆に分かりやすくなっちゃうとか?」
頭を捻らせていたリュンは、アスカに顔を向ける。アスカは、急に顔を向けてきたリュンに、驚く。
「それだ!」
「え?」
リュンは、部屋の奥から多くの分厚い本を抱えて持ってくる。
「おっと」
山盛りに積まれた本は、アスカの目の前に置かれた。
「これは?」
「世界各国の辞典。ヒバリをヒントにすれば、どこの国の言葉か分かるかもしれない」
「つまり、ヒバリの意味の言葉が辞典に載っている国の言語が、手紙の言語かもしれないってことですよね」
「そう」
「それを、ここから探すと」
アスカは、顔を引き攣らせる。
現在存在する国の数は、120ヶ国。つまり、辞典は、それだけの量があるということ。アスカの目の前に積まれた辞典はそれだけの量があるとは思えず、おそらく部屋の奥にまだあるのだろう。そして、それからすらも探すということだ。
「もちろん。手伝ってくれるよね」
リュンは、満面の笑みで言い放った。
解読のヒントを思い浮かんだという点では、アスカはリュンの言った基準に合格している。しかし、リュンはまだ合格の一言を発していない。
「分かりました」
アスカは、引き攣った顔をそのままに、返事をした。
『第6戦闘部隊待機室』は、本棚に囲まれた、小さくも大きくもない部屋である。入ってすぐに一人分のデスクが3つ置かれ、その奥には横に細長いデスクが1つ置かれている。その細長いデスクの上には、『隊長用』と書かれたプレートが置かれている。
しかし、今、細長いデスクの上には、多くの本が広げられている。いや、細長いデスクの上だけではない。部屋全体に、本が放り投げられている。その本に埋もれるように、アスカとリュンは机に伏していた。
「なかったね、アスカ」
「はい」
2人の口から、弱弱しい言葉が発せられる。
部屋の中にある辞典、全てを調べた2人だったが、目的とするものは見つからなかった。厳密に言うと、ヒバリを意味する言葉を擁する言語はあったのだ。しかし、手紙に書かれたものと対応させても、意味のある文にはならなかった。
ヒバリを意味する言語を見つけるたびに、手紙を調べる。違うと分かると、放り投げる。その繰り返しに、2人は疲れ果てていた。
「リュンさん。どうするんです?」
アスカは、首を持ち上げてリュンを見る。
「その国の言葉を全て調べてないとは言え、ほとんどの言語は調べたんだけどねえ」
「僕の仮説が間違っているんですかね」
ヒバリを目印にしているため、手紙を照らし合わせていない言語もある。
「それか、存在する国の言語ではないんですかね」
「ん? どういうこと?」
リュンが、首を持ち上げてアスカを見る。
「滅びたり、他の国に吸収された国でも、言語は存在してましたよね。そして、その言語さえも滅びたとは限らないのではないかと」
「なるほど!」
リュンが、身体を持ち上げる。
「だけど、滅びた国の言語を調べるとなると、時間かかるねえ」
『第6戦闘部隊待機室』に、滅びた国の辞典は存在しない。それどころか、滅びた国の言語を調べようと思っても、アリステル国内にも文献は少ない。その分、時間がかかるのだ。
「ここからは、また時間が出来たときだねえ。アスカ、今日はありがとう」
リュンは、アスカの顔の前に、証を転がす。アスカは、身体を持ち上げてリュンの方に向けた。
「解読まではいかなかったけど、ヒントは思い付いてくれたからね。合格だよ」
「あ、ありがとうございます。あの、お願いがあるんですが」
「ん? なに?」
「次にコールスの調査に行く時、僕とラークも連れて行って欲しいんです」
「ラークって誰?」
第1戦闘部隊の新人は、その優秀さから噂されることが多い。しかし、今年はコアにも新人が入ったこともあり、ラークの噂はアスカの噂に霞んでいた。
「第1戦闘部隊所属のラーク・イストックです。僕の同期です」
「連れて行くのはいいけど、僕はまたしばらく帰ってこないから。それまで待つようになるよ」
リュンは、明日までしか城にいない。そして、また村の後始末に出て行くため、次にいつ帰ってくるか分からない。
しかし、コールスに連れて行って貰おうと思ったら、リュンに頼むしかない。
「大丈夫です。待ちます」
「分かった。なんか、事情があるみたいだね。イニス様の許可は僕が取っておくよ。出来るだけ早めに帰ってくるから、アスカも早く全隊長の訓練を終えといてね」
アスカの真剣な表情に何かを感じ取ったリュンは、快諾の意を示す。
「ありがとうございます!」
アスカは、第6戦闘部隊隊長の証と共に、コールスへの切符を手に入れた。




