第16話 リュンの苦悩
第6戦闘部隊隊長、リュン・ハルカスは、城にいないことの方が多い。色んな場所で活動している第6戦闘部隊の隊員に指示をするために、各地を動き回っているからだ。
そのため、リュンがお城にいる時は、様々な人間がリュンの所まで来る。
「それで、何でお前はここにいるんだ」
イニスは、目の前に立っているリュンを見た。
「だって、みんな来るから。いい加減、1人になりたいと思って」
今リュンがいる場所は、王室。イニスが王室に来た時にはすでに、リュンは王室にいた。
後始末に一区切りついたため城に帰って来たリュンの元を訪ねてきた多くの人から、リュンは早々に逃げてきたのだ。
リュンを訪ねて来る者は、純粋に用事もある。しかし、久しぶりだからとリュンを見に来る隊長格の人間も多い。そして、隊長格の人間はほとんどリュンより年上であるため、無下にすることはできない。リュンが最後の手段として思いついたのが、王室に逃げることだった。
「それだけ、好かれてるんだろ?」
「でも、ジャンさんとかセッカさんとか来るんですよ。あの2人を相手するのは無理です」
今年30歳になるリュンは、ジャンやセッカよりも年齢は低い。だが、アリステルの各地を回り、地理や考古学に詳しいリュンを、ジャンやセッカは純粋に尊敬していた。そのため、リュンが帰ってくると必ず、ジャンとセッカはリュンに会いに行っていた。
「まあ、あの2人は遠慮なしだからな。私でも、相手にするのは嫌だ。だが、何で王室に来るんだ」
「僕が、帰るたびに色んな人が訪ねてくるのは、僕に後始末を命じているイニス様のせいだからですよ」
「お前も結構、遠慮なしだな」
イニスは、ため息を吐いた。
「あ、後、報告もあるんです」
「ん? 何だ」
リュンは、紙の束を取り出した。
「この前、コールスを調査した時に見つけました。コールスに住んでいた何者かと、ジパニックに住むヒバリと言う者との手紙です。中身の部分は知らない言語で書かれているので、読み取れませんでしたが」
「ジパニックの者との手紙か。だが、コールスには東洋の者もたくさんいただろう」
「ええ。コールスは異人の村とも言われていましたからね。色んな国の者が住んでいたそうです」
西の村コールス。海に面した、豊かな村である。どの国とも隣り合っていない場所なためか、他の国から移住してくる者が多かった。
「でも、これは結構貴重ですよ。早く解読したいなあ」
リュンは嬉しそうに笑う。
「頑張ってくれ。だが、侵攻された村の後始末も頼むぞ」
イニスは苦笑いをしながらも、しっかりと釘を刺した。
「なら、僕の仕事減らして下さいよ」
「そんなこと言われてもなぁ。あ、お前、今回はいつまで城にいるんだ?」
「え、一応、明日までの予定ですけど」
「なら、その間にアスカの訓練をやっといてくれ」
「え! アスカって、あのコアの新人でしょう? 何で仕事増やすんですか」
リュンの表情が、歪む。
「だって、出て行ったらしばらく帰って来れないだろう。じゃあ、頼んだぞ」
イニスは、リュンを外に放り出した。
「はあ」
リュンは、深いため息を吐いた。
『第6戦闘部隊待機室』は、城の入り口の一番近くの部屋の隣にある。一番近くの部屋は、『第5戦闘部隊待機室』となっているが、第6戦闘部隊も後始末の時には大きな荷物を持って行かなければならないので、出入り口の近くに位置している。
『第6戦闘部隊待機室』の前に、イニスから事情を聞いたアスカが立っていた。
「いいのかな。勝手に入って」
扉には、『ノック不要。勝手に入ってこい』という札がかかっている。
「失礼します」
アスカはノックはしなかったものの、一声かけてから扉を開けた。
「あの。第4戦闘部隊所属、アスカ・シノノメと言いますが」
待機室の中には、3人の男性がいた。
「アスカ」
「おお。アスカ」
「お前が、アスカか」
声を発した順に、ジャン、セッカ、リュンである。一時は王室に逃げたリュンだったが、結局ジャンとセッカに捕まり、待機室で長々と話していた。
「ジャンさん。セッカさん。何でここに」
「いや。ちょっとした話をしにな」
「おぬしが来たということは、訓練かのお。邪魔にならんように、そろそろ帰ろうかの。セッカ。リュン、邪魔したの」
「そうですね。リュン、ありがとな。じゃあな」
ジャンとセッカは、アスカと入れ違うように待機室から出て行った。
「はあ。助かった。いいタイミングだよ。アスカ」
リュンは、今日何度目かのため息を吐いた。2人は、それだけ長い時間滞在していたのだ。
「あ、僕が、第6戦闘部隊隊長、リュン・ハルカス。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「さて、訓練どうしようかな。僕、明日にはもういなくなるから、早く済ませたいんだけど」
リュンは、顎に手を当てて考える。
「あ、そうだ」
リュンは、イニスに見せた紙の束を取り出した。
「調査に必要なのは、発想力。この手紙を少しでも解読できたら、それで合格ね」
リュンは、満面の笑みで言い放った。




