第15話 強さのもと
第5戦闘部隊副隊長、リアン・シュナイツ。彼女は、セッカの副隊長となってから苦労が絶えない。
「聞いてますか? 隊長」
「はいはい。聞いてるよ」
セッカは、げんなりした顔で手を振る。
「いえ! 聞いてません。隊長が有事の際にいないなんて聞いたことないですよ! 二度とあんなことしないでください」
「でも、何とかなったじゃないか」
セッカの言うとおり、リアンは隊長不在の中、隊をきちんとまとめ上げた。優秀な副隊長である。
「だとしてもです。いい加減、隊長然としてください」
元々参謀気質のセッカは、前に立って隊をまとめ上げることが好きではない。そのため副隊長であるリアンがセッカの代わりに動くことが多かった。
しかし、訴える様な目で見てきたリアンを無下にすることはできない。
「分かったよ。悪かった。反省してる」
セッカはバツの悪そうな顔で、謝罪を口にした。
「本当に分かってますか?」
「ああ。分かってるって。俺は今からアスカのとこ行くから、お前はもう戻れ」
「分かりました」
リアンは、しぶしぶ自分の持ち場に戻って行った。
『第4戦闘部隊待機室』には、ルドルフ、レオ、そしてベッドに寝ているアスカがいた。
「ん」
アスカが目を覚ます。
「大丈夫か? アスカ」
「はい」
アスカは、ベッドの上に身体を起こし、ルドルフを見つめる。
「僕は、また」
誰もその先は言わなかった。そして、それが答えだった。
「失礼します。アスカ。大丈夫か」
「セッカさん」
『第4戦闘部隊待機室』へ入ってきたセッカを見て、アスカは悲しそうな顔をした。
「ルドルフ。レオ。ちょっとアスカと2人にしてくれないか?」
「分かった。レオ」
「はい」
ルドルフとレオは、セッカの言葉に従い待機室を出て行った。
残ったセッカはアスカに歩み寄る。
「アスカ。これなぁんだ」
悲しむような顔をしているアスカとは対照的に、セッカは明るく言って小さい細い棒を取り出した。
「それは、証ですか?」
「そうだ。アスカ、手出して」
アスカは戸惑いながらも、右手をセッカに差し出す。セッカはその上に証を置いた。
「え?」
「お前の強さは十分見た。認めてやるよ」
「でも、あれは。セッカさんが見たのは僕の本当の強さでは」
「はあ。何言ってるんだ」
セッカは溜め息を吐いて、アスカの頭を軽く小突く。
「トラウマのことは聞いたよ。でも、あれはお前自身の強さだろ」
「でも。トラウマを克服出来ていない僕には。これを貰う資格は」
「あるよ」
セッカはアスカの言葉の続きを奪って、断言した。
「俺には、いろんな血が混じっている。アリステル。オーリウス。ジパニック。カーラン。スタリア。他にも大昔に滅びた国の血もだ。そのせいで、どの国の人間だと胸を張って言う事は出来ない。でも、俺は他の人には持ってないものをたくさん持っている。自分の身体に流れる血も、親から受け継いだ考え方も。俺の成果ではないけど、俺は持っている。だから、自分の持っているものは、全て使おうと思っているんだ」
セッカは、生まれがアリステルであるため、一応アリステル出身となっているが、母親はオーリウスのさらに北にあるスタリアの出身である。そして、祖父母の代になると、さらに様々な国の出身の人たちがいる。そんな中で育ってきたセッカにとって、胸を張ってアリステルの出身だと言える自信はない。セッカの身体にはアリステル以外の国の生き方も、脈々と受け継がれているのだ。
しかし、セッカはそれだけ色んなものを持っていると言い換えることが出来る。そして、セッカは使えるものを全て使ってやろうと思い、ここまで来たのだ。アリステル以外の国の考え方は参謀の能力に。チャクラムや剣、銃と、様々な武器を扱えるのもその成果だった。
「何でその力を手に入れたかなんて、関係ない。赤き制裁の力は、アスカ自身の力だ。そして、その力をお前は俺の目の前で見せることが出来た。だから、認めるんだ」
「僕自身の力」
「そうだ。そりゃ、トラウマを克服することは最善だ。でも、トラウマによる能力だからと言って、使ってはいけないものではない。お前はその力を使ってもいいんだよ」
アスカは、トラウマによって手に入れた能力を使うことを恐れていた。トラウマを克服しなければいけないと思っていた。
「セッカさん。ありがとうございます」
アスカは、手の中の証を握りしめた。
『第4戦闘部隊待機室』を出たルドルフとレオは、廊下を歩いていた。行く当ては特にないのだが、追い出されたのだから仕方ない。
「隊長。アスカ大丈夫ですかね」
「セッカに任せておけば大丈夫だろう。あいつは、本質を見抜くことに長けているからな」
ルドルフとセッカは、年齢は離れているが、養成学校の同期である。共に優秀であったことで、行動を共にすることが多く、お互いのことを良く分かっていた。
「ん?」
2人は、『訓練場』の前を通る。『訓練場』の中からは、空を切るような音が聞こえた。
「誰か訓練しているんですかね」
レオが『訓練場』を開ける。
「レオさん。ルドルフさん」
『訓練場』では、ラークが刀を振っていた。その額には汗が噴き出ている。
「あ、アスカの怪我は」
「ああ。大丈夫ですよ。目も覚ましました」
「そうですか。良かった」
ラークは、安堵の表情を浮かべる。
「朝から訓練とは、精が出るな、ラーク」
「いえ。俺はまだまだです。また、アスカを守れなかった」
ラークの顔に、苦悶が浮かぶ。そんなラークを見て、レオは驚いた表情を浮かべた。
「でも、あなたが全て守れるわけ……」
レオの言葉を、ルドルフが手で制す。
「ラーク。何でお前はそこまでアスカを守ろうとするんだ?」
「それが、俺の使命だからですよ」
ラークの顔には、いつもの笑顔がなかった。
「どうして、そこまで」
ラークは、ルドルフとレオから顔をそらす。そして、振っていた刀を鞘に入れ、『訓練場』の入り口まで歩いて行った。
「ラーク?」
ラークは、ルドルフとレオの顔を見る。そこには、いつもの笑顔が浮かんでいた。
「いつか、分かりますよ。では、俺はこれで」
ラークは、『訓練場』から出て行った。『訓練場』に残ったルドルフとレオは、何とも言えない表情で顔を見合わせた。




