第11話 友人の心
「アスカ」
園庭を出たアスカは、自分の名前を呼ばれて、振り返る。
「イニス様! それと、アリス。様」
そこにいたのは、イニスとアリスだった。
アリスは、アスカの言葉に、口をへの字にする。
「アリス。でしょ」
「いや、でも」
アスカは、イニスをちらっと見る。
確かに、呼び捨てで呼ぶと約束した。友達だと言った。でも、さすがに他の人の前で呼び捨てにできるはずがない。それも、王様であり父親であるイニスの前でだ。
しかし、そんなアスカの不安を吹き飛ばすように、イニスは笑った。
「アスカ。大丈夫だ。聞いてるぞ。アリスと友達になってくれたんだってな」
アスカは、イニスの言葉に安心する。
「でもな、アスカ」
イニスは、安心したアスカの顔に自分の顔を近づける。
「友達以上にはならないように」
その顔は、変わらず笑っているが、目は笑っていない。イニスの言葉の意味が分かったアスカは、慌てて首を縦に振った。
「よし」
イニスの目が笑う。アスカは、再度安心した。
「ところで、アスカ。園庭から出てきたということは、コンデル達に会ってきたのか? もう認めてもらったのか?」
「あ、はい」
アスカは、証をイニスに見せる。
「なら、次はリュンだな。と、言いたいところなんだが、第6戦闘部隊は今、後処理のためにメニアに行ってもらっている。だから、先にセッカの所に行きなさい」
第6戦闘部隊はオーリウスの侵攻のあった村の後処理を任せられる。後処理は、村の再建の手はずや死人怪我人の対応、調査など多岐にわたり、何日かかかる。そのため第6戦闘部隊は城にいないことの方が多い。
「そうですか」
アスカにとっては残念だが、コールスの調査は後に回すしかない。
「じゃあ、頑張れよ」
「ばいばい。アスカ」
イニスとアリスは、城の奥へと消えていった。
「セッカさん。次は、第5戦闘部隊か」
アスカが王室とは逆方向に身体を向ける。すると、向こうから歩いてくる人影と目が合った。
「あれ、アスカ」
「ラーク」
ラークが、アスカの所まで近寄ってくる。
「何やってんだ? こんな所で」
「ラークにも、分からないことがあるんだね」
アスカは、純粋に驚きの声を上げる。その言葉にラークは苦笑した。
「当たり前だろ。俺を何だと思っているんだよ。で? ここで何をしてたのか、無知な俺に教えてくれませんかね」
ラークの皮肉に、アスカは声を出して笑う。
「園庭でコンデルさん達に訓練してもらった後、イニス様と話してたんだ」
「訓練ていうと、コア特別の? 認めてもらえたのか?」
「うん」
コア特別の訓練をラークが知っていた事には、アスカはもう驚かなかった。ラークなら知っていると思い、詳しく言わなかったのだ。
「なら、次は第6戦闘部隊か」
「ううん。第6戦闘部隊は今いないから次は第5戦闘部隊に行けって。それを今イニス様に言われたんだ」
「ああ。そっか。第6戦闘部隊は今、この前の侵攻があった村に後処理に行ってるのか。んで、何でそれでそんなにへこんでんだ?」
「え?」
確かに、コールスにすぐに行けないことに、アスカはへこんでいた。しかし、へこんでいることを態度に出したつもりはなかった。現に、イニスには何も言われなかったのだ。
「俺が気づかないとでも思ったのか? 何年友達やっていると思っているんだ」
ラークがアスカの頭を小突く。アスカは小突かれた頭を押さえながらも、嬉しそうな表情を浮かべる。
「そうだね。実は、これが刀の柄から見つかったんだ」
アスカは、ラークに刀から出てきた紙切れを見せる。受け取ったラークは、目を通す。読んでいくにつれ、ラークの表情が驚愕のものに変わる。
「イオリっていうのは、僕の亡くなった父親なんだ。ジパニックにはそう簡単には行けないから、まずはリュンさんに頼んでコールスに連れて行ってもらったらどうかってエンデルさんが言ってくれて。コールスにも何か他の手掛かりがあるかもしれないからって」
「そ、そうか」
ラークは、紙切れをアスカに返す。
「それ、俺も連れて行ってくれないか?」
「え、うん。頼んでみるよ」
「なら、よろしくな」
ラークは、表情を変えずに、歩いてきた方向へ戻って行った。
少し様子のおかしいラークを不思議に思いながらも、アスカは紙切れをしまった。
アスカと別れたラークは、刀の訓練所に入って行った。戦闘部隊の中で刀を扱う兵士は数名しかおらず、刀の訓練所は人がいないことが多い。今日も、訓練所には誰もいなかった。
ラークは、2本の刀を抜き、クロスするように上から下へ振りおろす。そして、深い深呼吸をした。
「イオリさん」
ラークは崩れ落ちるように膝をつく。床についたラークの手に、水滴が落ちた。
「イオリさん。ごめんなさい。父上。俺は、俺は、どうしたら」
ラークの悲痛な叫びは、誰の耳にも届かなかった。




