第10話 刀の秘密
ジョーダン家は、武器の製造で有名な家系である。代々、第7戦闘部隊隊長及び第8戦闘部隊隊長を歴任している。
コンデルとエンデルは、エコナとディアルが隊長の任に就いている時に生まれた。そのため、彼らは養成学校に入学するまでの時間を城の中で過ごした。城が彼らの家と言っても過言ではない。
「はあ、疲れた。このためだけに城に来なくちゃいけないんだもん。イーちゃんもこんな規則なくしてくれればいいのになぁ」
「こら、エンデル。今は、イニス様だ」
「はーい。ごめんなさい」
コンデルとエンデルは、園庭のベンチで寛いでいた。
この2人が生まれた時、イニスはまだただの王子だった。エコナとディアルが忙しい時は、イニスが2人の面倒を見ていたのだ。そのため2人は戦闘部隊に入るまでイニスのことをイーちゃんと呼び、慕っていた。
しかし、いくら仲が良くても、今は王様と兵士の関係。イニス様と呼び方を改めているが、気を抜くとイーちゃんと呼んでしまっていた。
「でも、久しぶりにここに来れて良かった」
「そうだな。ここは変わらないな」
王室の隣にある園庭は、コンデル、エンデル、イニスの遊び場だった。
「コンデルさん。エンデルさん」
「アスカ」
園庭に、アスカが入ってきた。
「何でここに?」
「コンデルさん達に会いに来たんですよ。ここにいるってディアルさんに聞いて」
アスカはコンデルの隣に座る。
「あの、コアの訓練を受けるために探していたんですけど。その前に、これ見てもらえませんか?」
アスカは、刀をコンデルに差し出す。ディアルに言われたことを確かめるつもりだ。
「刀? もしかして、新しい刀にするつもりになったのか?」
「いえ、違います」
一瞬輝いたコンデルの目が、元に戻る。
「あ、すいません。えっと、ディアルさんに柄の中に何か入っているって言われて」
「柄の中?」
コンデルは、柄に耳を当てて刀を振る。
「ああ。確かに何か入っているな」
「え、私にも貸して」
エンデルも同じような行動をとる。しかし、エンデルはアスカのような顔になった。
「私には聞こえないけどなあ。さすが、お母さんとコンデルね」
「それって、どういう」
「母さんと俺様は、耳が特別良いんだ。工房にいる時に隣の銃の工房の声が聞こえるくらいまでにな」
「ああ。道理で」
ディアルは、エコナとアスカの会話の内容を当てた。全て聞こえていたのだ。
「開けていいか。アスカ」
アスカは、無言で頷く。
コンデルは、腰についたカバンから道具を取りだした。目釘を外し、柄をこぶしで軽く打ちながら刀を抜いた。抜き身の刀を横に置き、柄をひっくり返し手に平に置く。コンデルの手に平に、一枚の紙切れが落ちてきた。
「ん? アスカ、これ」
コンデルは、アスカに紙切れを渡す。アスカは、神妙な顔で紙を開く。
『アスカへ。お前がこれを読んでいるということは、私はお前に何も伝えられないまま死んでしまったのだろう。この刀は、私の故郷、東洋の国ジパニックで造られた。本来1本の刀だったものを、打ち直して3本に分けた内の1本だ。残りの2本はジパニックにあるだろう。お前が必要だと思うなら、ジパニックに行ってみなさい。きっと力になる。アスカ。苦労をかけてしまってすまない。元気にな。イオリより』
「イオリって?」
「おとう、さん」
アスカの瞳から、涙が流れる。
刀の柄から出てきたのは、10年前に亡くなった父親からの手紙だった。
「お父さんって。アスカの?」
アスカは、涙を拭いながら頷く。
「亡くなっていたの?」
「10年前、コールスでオーリウスの兵士に殺されました。でも、この刀にそんな秘密があったなんて」
「とは言っても、そう簡単に東洋の国にも行けないからなあ」
東洋の国、ジパニック。アリステルとオーリウスの東に位置している小さな国である。他国との交流はほとんどなく、謎が多い。一説によると、王でも軍でもなく、侍に支配されている国であると言われている。
アリステルも東洋の国との交流はほとんどなく、東洋の国に入れるのはイニスとジパニックの元首によって行われる首脳会談の時くらいだった。
「なら、先にコールスの方を調べたら? 他にも何か手掛かりが見つかるかも」
「でも、コールスもそう簡単に行けるものでもないだろ。オーリウスの兵士とはち合わせる可能性がある」
オーリウスが侵攻を失敗した村は、今でも再建し人が暮らしている。しかし、オーリウスの侵攻が成功した村はオーリウスの兵士がいる場合がある。ここ数年は侵攻を許していないが、コールスは戦闘部隊の派遣が遅れたこともあり、ほぼ侵攻されていた。
「あっ。リュンさんに頼めばいいんじゃない?」
「ああ。なるほどな。アスカ。コアの訓練てことは、俺様たちの後は、第6戦闘部隊だろ?」
「そうですけど?」
「第6戦闘部隊の隊長リュンさんは、戦争史を調べるのが趣味でな。コールスも重要な資料だから、よくイニス様の許可を取って行っているんだ。頼んだら連れて行ってくれると思うぞ」
第6戦闘部隊隊長、リュン・ハルカスは、趣味で戦争史を調べている。調査することで、オーリウスの詳しい目的も分かる可能性があるため、イニスも調べる許可を与えているのだ。
「分かりました。頼んでみます」
「よし。これで、一件落着だな」
コンデルは、刀を元に戻してアスカに返す。
「あの、訓練の内容は」
「ああ。忘れてた。つってもな、エンデル。どうする?」
「そうねえ。強さを認めるってい言っても、私たちの技術は特殊なものだし」
今年隊長となり、初めてコアの訓練をする2人に、明確な訓練内容はない。しかし、コンデルとエンデルの強さは、武器の製造の技術。それは、アスカに求めても仕方のないものだった。
「それに、ゼクスに森の中の場所教えてもらってんだろ? あいつが認めてんなら、大丈夫だよ」
「森の中の場所って、あの広場ですか?」
「うん。ゼクスは、認めた人にしかあの場所教えないのよ。私たちは同期で友達だから教えてもらったけど」
なんだかんだ言っても、ゼクスとジョーダン兄妹の仲は良いらしい。
「そんな、簡単でいいんですか?」
「あはははは。いいんじゃないのか? お前ららしい」
アスカの問いに答えたのは、コンデルでも、エンデルでもなかった。
「お父さん、お母さん」
園庭に、エコナとディアルが入ってくる。
「アスカ君がちゃんと2人に会えたか心配になってね。良かったわ」
エコナとディアルはエンデルとコンデルの所まで来る。並ぶとよく似ている家族だ。
「俺たちもゼクスの訓練の時、エンデルとコンデルの友達っていう理由で認めたからな」
「そんな理由で」
アスカは、唖然とする。それぞれの評価基準があるとはいえ、一応訓練なのだ。
「私たちの大事にする強さは、絆なの。コンデル、エンデルとゼクス君の絆。そして、ゼクス君とアスカ君の絆。それは、関わり合い、認め認められることで創られるものだから」
友達になるということは、相手を認めているということ。そして、それは確かな絆だ。その絆を評価基準としているのならば、アスカはもう迷う必要はない。
「分かりました。ありがとうございます」
「アスカ。これ、私たちが認めた証」
コンデルとエンデルは、それぞれ小さい細い棒をアスカに渡す。ジャンに渡されたものと同じだった。
「はい。ありがとうございました」
コンデルとエンデルに認められたアスカは、3つの証を手に入れた。




