序3
住んでいる家は全体が白っぽい雰囲気の小さな家。
大きな家はいくつかあるけど、正直趣味じゃなかった。いくつも部屋を使うのも手入れが面倒だし。
家に到着して玄関扉を開けると『母親』仁王立ちで待っていた。
玄関扉を閉めた。
そのまま裏口に回る。
裏口の扉を開けると『母親』仁王立ちで待っていた。ちょっと走ったのか若干息が上がっている。
裏口の扉を閉めようとしたらドアノブを掴まれた。正直面倒臭い。
ため息を一つ。
「ただいま」
「お帰り、またガラクタ山行ってきたでしょ!あそこは危ないからってなんどもいってるのに……」
「疲れてるから後にして、それよりこれ部屋に入れるから手伝って」
『母親』の小言と説教をぶつ切りにして、こちらの言いたいことを先に言う。何が悲しくて、裏口の前で立ちっぱなしで聞かなきゃいけないのだ。
「もう、またこんな変なもの拾ってきて、女の子なんだからもっと……」
「あーもう、うるさい、うるさい。女の子だからとか押し付けるのは止めて、私は私の好きなことをするの」
まだ後ろで反抗期かしらと、ぶつぶつ言っている『母親』を裏口に置いて、自分の部屋に甲冑を運ぶ。手伝ってもらおうと思ったけど、小言がいつまでも続くのにげんなりしたので自分一人で運ぶ。
床に引きずって傷を付けないように抱きつくように抱えて、運ぶ。
抱えた時に感じる、金属の錆びたにおい。このにおいが何故かちょっと好きだったりする。
金属で出来ているはずなのに、金属特有の重さを全く感じない。抱えるくらい大きな空のバケツを持っているよなそれ位の重さ。
不思議な感じ。
そのまま、自分の部屋の中にもっていき、壁にもたれかけさせる。甲冑は壊れたおもちゃのような、両手を投げ出した姿。後できれいにしようと思い、その前にお風呂とご飯を食べようと食卓に向かった。
お風呂と楽しい夕食(母親との言葉の応酬)の後、自分の部屋で、軽く濡らした布で、赤い靴を磨く。頑固な汚れは、洗剤を付けたブラシの広がってしまった歯ブラシでごしごし磨く。靴はくすぐったそうに身をよじるが、ここで手を抜くと汚れが落ちないので一気に磨いてしまう。磨き終わったら、優しく固く絞った濡れ布巾で拭いてあげる。
「本当は靴用の油でも使ってきれいに磨いてあげたいけど、今は持ってないのごめんね」
それだけ言って、開いた窓のすぐそばに置き、乾燥させる。
「さてと、次はこの子か……どうしようかなあ」
視線の先には手足を投げ出した甲冑。錆をとるとなるとかなりの時間がかかると思うし、道具も無い。明日『商人』の所に行って探してみようと心に留めつつ、とりあえずは……。
「とりあえず、今までの分も含めてご苦労様」
小さくねぎらいを呟きつつ。錆びた甲冑を軽く拭く。錆びたところは当然落ちない。だけど、このままの状態で明日まで置いていくのは何か違う気持ちがした。
この甲冑が何をして、あそこに埋まっていたのか知らない。
知るすべはもうないのかもしれない。けど、最後の最後まで、自分の剣を握り締めていたその強さと、その大切な剣を折ってしまったことに自然と言葉が零れ落ちた。
夜はただ更けていく。




