第二話-生きる術を-
目を覚ますとニンジンの壁紙が一面に広がる、あぁ部屋だけで元の世界との違いを味わえるのは考えてなかったな、もっと部屋の隅々まで観察するとかして確かめる猶予が欲しかった、
「あ!おはよショータ」
部屋から出るとシィミルが朝ごはんの準備をしていた、キャミソールにピンクのショートパンツ、そして小さな丸い尻尾、朝の日差しよりも眩しいそれに目を逸らすしかなかった
朝はパンとスープだ、もちろん全てにニンジンが使われているという拷問仕様だ
「おいしいです!」
「ほんとに!ショータありがと!!」
ふっ、俺はこの笑顔を守るためならニンジン入りパンを何個だって食べるよ、そんなことを考えているとログロージュが歩いて来た
「さあ、今日はアルスのもとに行くのだろ、ならこれを持っていけ」
ログロージュのヨボヨボな手の中には紫色の宝石があった
「これは?」
「魔石じゃよ、アルスは魔石を集める収集癖があるんじゃ、だからもし断られたらそれを渡しなさい」
「ありがとうございます、やってみますね」
ログロージュよ、お前はなんていいやつなんだ
ジジイとかもう思わないからな
「じゃあ行って来たいと思います、場所を教えていただけないでしょうか」
「あ!じゃあボクが連れてくよ、いーでしょ?」
「ぜひおねがいします」
そうして二人で家を出た
シィミルがいてくれてよかった、いま考えると異世界を一人で歩くなんて危険すぎる、治安の悪さとか魔物とか、いまの俺には対処できないからな
「いっかい街にいってぇ、そこから丘に行くとアルスの家だよ」
街か、異世界の街並みを拝見させていただこう
その後5分ほど歩くと街が見えて来た、レンガ造りの家が立ち並び、パリを彷彿とさせる街並みだ
街にはいろんな店があり、魔法道具や見たことない野菜を売っている店など、ゆっくり見たいものだ
「こっちこっち、アルスの住んでる丘はあるだよ!」
その先には石の塔が丘に立っていた、魔女の家みたいでわくわくする
丘を登ること7分、やっとアルスの家についた、重厚な木製のドアをシィミルが叩く
「アルスさんいますかぁ?」
「誰だ」
その圧迫感のある一言に俺とシィミルは固まった、これはまるで職員室で怖い体育教師を呼びに行くのに似ている、あーやだやだ
「ボクだよ!シィミルだよ」
一瞬の沈黙のあと入れと、一言だけあった
ドアを押し開けるとそこは宝石だらけのギラギラな部屋だった、その中心にそんな宝石がに合わない、青髪の屈強な男が机に足を乗せて座っていた、そして威圧的な目、完全に睨まれている
「お、お邪魔します」
「そいつは?」
「は、初めましてホシノ ショウタです」
その後アルスに記憶がなくなってしまったこと、魔法を教えてもらいたいことを伝えた
「なぜ魔法が使いたい」
その重く、押し潰されそうな声はまるで圧迫面接だ、そんな風に聞こえてくる
「この世界で自分を守る術を身につけたいんです」
「はぁ」
「帰りな」
俺は心が折れそうだった、昔に行きたい大学を父に伝えたときに学費が高い、お前じゃムリ、そんなことを言われたことを思い出した
「お願いします!」
「ボクからもお願いします」
シィミルまでも頭を下げてくれた、申し訳ない
「俺が、お前に魔法を教えるメリットは?」
「お前は俺に対価としてなにをしてくれる」
怖い怖いもう限界だ、冷や汗が止まらない
ならもう "アレ" しかない
「こ、これを」
震えながらログロージュに貰った魔石を差し出す
「お前それは魔石か?」
「はい、そうです」
頼む頼む頼む!これでなんとか!
「ついてこい」
俺の手のひらから魔石を奪い取るとドスドスと階段を上がっていく、俺とシィミルはビビりながらついていく、最後の段を超えると本の棚だらけの部屋が現れた
「ここは、」
「すべて魔法についての本だ、これからお前はこの中の本を頼りに一ヶ月でなんでもいいから中級魔法を使えるようにしてみろ」
「一ヶ月!?それも自分だけでですか」
「そうだ文句あんのか、あぁ?」
「ナイデス、、、」
大アリだよ大アリ、俺は魔法とか使ったこともまだ見たこともないんだぞ、それなのにいきなり中級なんて無理難題だ
一歩譲って俺がこの世界の住民で魔法に触れて来たなら話は別だが、俺は昨日来たばかりの異世界人ですよ!?無理に決まってる
「ここの本は好きに観ていい、シィミルは何も言うなよ」
「は、はい!」
シィミルの肩がビクッと跳ねた、びっくりしたウサギみたいだ、いやウサギか
その後
今日は片っ端から子供用の本を読み漁った
魔法には水、火、土、木、岩、雷、光、闇の8種類とその組み合わせが多数存在している、そして下級、中級、上急、特級、神級が存在しているみたいだ
そして肝心の魔法の使い方だが、手にマナを集めるとしか書いてない、
そう、それだけだ
どの本もマナのコントロールの話ばかりで俺が知りたいマナとはなにか、どう感じるのか、それがこの本すべてに存在していないのだ、魔法が日常にある世界で子供達もマナの感覚を掴んだ状態からのスタートをきっているためそんな初心のことはまず載っていないということかもしれない
あぁ、これは詰んだ
ツンツン
振り返るとシィミルが立っていた、心配そうな顔を俺に向けている
「今日は帰ろう、ショータはがんばったよ一回休も?」
窓の外は赤く染まり、暗い空が覆い始めていた
「わかった、いっかい帰るか」
伸びをして歩き出す、帰り際にアルスが何かいいたげだったが何も言ってこないのでそそくさと重いドアを閉めた
「ただいま」
帰ると椅子にログロージュが座っている、どこか浮かない顔をしながら
「どうだった」
「一ヶ月以内に中級魔法を使えれば教えてやるだとさ」
「まあ、頑張れ」
ん、、、それだけ?
励ましとか何もない感じですか?
「え、それだけですか」
「ああ、」
それだけ言い、ログロージュは部屋に戻っていった
苛立ちが頂点に達した
何が頑張れだクソジジイ、お前の紹介だろうが!
てか俺は魔法の使い方が知りたいのにこれじゃまるでエサが欲しくてピーピーしてるヒナに自分でいけといっているようなものだ
明日からが不安だ、この世界に来たばかりの俺に魔法が使えるのか
はぁ、疲れた
今日は寝て明日考えよう、明日の自分に託そう
そんなことを思いながらまぶたを閉じた
今日から始まるアルスの試験、一ヶ月でほんとにできるのか




