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真面目令嬢と告白ごっこ  作者: くきの助


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サナリス伯爵令息のプロローグ

いつまでも忘れられない景色がある。




風の吹き荒ぶ学校の図書館の中庭


あの子の顔


射抜くような黒い瞳


風に靡く黒髪


そして自分の投げかけた酷い言葉




きっと一生忘れられない。


後悔は楔のようにいつまでも俺の心に深く刺さって抜けることはない。



どうしてあの子の前だと途端に子供のように何も出来なくなるんだろう。



簡単な事だった。


罰ゲームなんかに頼らずに自分の気持ちを伝えるだけでよかった。

歪な始まりがどんな結果をもたらすかなんて想像もせずに。



「学園の入学式で君を見かけて、ひと目で恋に落ちたんだ。」


素直にそう言うだけでよかったんだ。











ジャクリーン=フルート=カザン準男爵令嬢



あの子のことを知ったのは入学式だった。

と言っても俺の入学式ではない。

あの子の入学式だ。


あの子は高等部からの入学だった為参加していた入学式。

俺たちは中等部からの持ち上がりだから本来不参加だ。


しかし俺は在校生代表でスピーチすることになっていた。


壇上から見える新入生の大半は中等部の生徒。

その中に混じって座っているあの子にそこだけ光が差しているかのように、俺の目の中に飛び込んできた。


(あの子は?高位貴族か?……あそこに並んでいるという事は高等部だよな。同じ学年か?)



その後すぐに、学年は同じだが準男爵令嬢と知ってがっかりした。

高位貴族のクラスなんじゃないかと期待したのに。


同じ学年であろうと下位貴族と上位貴族の教室は離れている。


学園内では平等を謳っているとはいえ、正しい距離は学ばされる。

よって下位貴族のクラスの生徒は簡単に高位貴族のクラスには来ることはできない。


高位貴族と下位貴族とは色んな意味で距離があるのだ。

だから、あの子の事が知りたければ自分で調べるしかない。



直接聞けばいいじゃないか。



もう1人の自分が言う。


令嬢と話すのなんてお手のものだ。

いつもの調子で聞き出せばいい。


その通りだと思うのに、何故だかどうしても話しかけることが出来なかった。



いつもなら令嬢の方から声がかかるから?


高位貴族じゃないから?


もしあの子が派手で目立つタイプだったら


社交的だったら



いつもの感じで話しかける事が出来たのかもしれない。


残念ながらあの子はどれも違った。

慎ましく、真面目で、おとなしい。


我が国、リラの国ではめずらしい神秘的な黒髪は地味なハーフアップに纏められているし、メイクは最低限。


それでも長い手足はスタイルの良さを強調して、姿勢良く立つ佇まいは凛として、はからずも人の目を惹く。


雪のように白い肌、吸い込まれそうな黒い瞳、血色の良い赤い唇。顔立ちは上品に整っている。



皆でいつものように、馬鹿話をしながら、あの子の話をすれば、ニックは下位貴族だから何か知っているかもしれない。


でも、聞けなかった。

そんな気軽に話題にできなかった。


あの子を可愛いと公言するのは、なんだか妙に生々しく、はずかしい。

口にできないせいか、どんどん思いは募りあの子が気になって仕方が無い。


ただ苛立たしいのは高位貴族の他の令息達からもそれを感じ取れた事だった。


高位貴族と下位貴族のクラスはあまり関わりがないとはいえ


廊下ですれ違う時


移動教室の交代の時


学内の行事で集まる時


たまには下位貴族のクラスと顔を合わせる時もある。



そこにあの子がいるとわかったら、必ず誰かの息を呑む音が聞こえる。


同じ空間にいる時は令息達に落ち着かない空気が流れる。


そこにあの子がいると知らなくても、いるんだとわかるくらい場の雰囲気が変わる。



それは悪友バールとニックからも感じられる事だった。


バールとニックは幼馴染だ。

バールとはお互い高位貴族。同じ派閥だったためよく顔を合わせていた。

ニックは子爵令息だが、優秀な騎士を数多く輩出してきた家門で上位貴族との関わりも深い。

お茶会で一緒になることも多かった。


俺たちは周りよりも飛び抜けて女性受けのいい容姿を持っていることを自覚しており、妙に気が合った。


3人でいると目立つらしく、いつの間にやら令嬢達の憧れのまとという位置に俺たちはいた。

これについては満更でもない。


そうして幼少の時から女を侍らすのが常だった俺たちにとって、令嬢というのは向こうから来るものだった。

王立の学園に入学し、大人の目が無くなると、俺たちは色んな令嬢との逢瀬を楽しむようになった。


そもそも女の子は嫌いではないのだ。


上位の貴族令嬢とは格式あるデートを楽しめるし、隠れての口付けも一興。

下位の貴族令嬢なら楽しく遊ぶのにちょうどいい。


積極的な令嬢は大体下位貴族だ。

そういう令嬢とは最後の一線は超えないものの際どい所を楽しめる。


準男爵令嬢に至っては貴族ではない。


平民感覚の令嬢も多く、そういった彼女らは自由恋愛を当然とし、貴族が持つ貞操観念とはほど遠い。

高位貴族の俺とバールは決してあり得ないが、下位貴族のニックは彼女達相手に最後の一線をも越えることもよくあるようだった。



恋愛なんて軽い火傷程度のお遊び。



俺たちが誰かに執着することは決してない。

恋愛に振り回されている令息の噂を聞いては、1人に執着せねばならないほど令嬢にモテないのだな、と3人で気の毒がっていた。


中等部に入ったばかりの頃こそ令嬢同士がいがみ合うこともあったが、次第に俺達が誰にも本気じゃない事がわかると令嬢達も執着はしなくなった。


中等部も後半に差し掛かる頃にはむしろ令嬢達の方が恋愛の楽しみ方をわかっていた。


己の位に合わせて計算高く、時に大胆で、際どい。

こちらもそれに合わせ、お互いそのラインを違えることはなかった。


四男の俺はこのままユルユルと楽しんで、高等部を卒業する頃までに適当にいい感じの貴族の婚約者を見つける。

それが理想のはずだった。


だから……高等部にもなって貴族でもない準男爵令嬢なんか気にかけてられないんだよ、本当に。


なのにあの子と同じ下位貴族クラスの令嬢からのランチのお誘い。

わざわざクラスまで迎えに行ってあの子を盗み見てしまうのは何故だ。


クラスに行けば下位貴族の令嬢達に取り囲まれる。

でもその中に決してあの子が混じることはない。


気が付けばニックやバールも、下位貴族の令嬢と遊ぶ時はやたら下位貴族のクラスに迎えに行くようになっていた。


中等部の時は下位貴族のクラスに迎えに行ったりなんかしなかっただろう?!


でもそんなこと指摘できやしない。

お前もそうじゃないかと言われれば、言い返すことなんてできないから。


皆何かに気付きながらも素知らぬふりをする。


そしてどれだけ下位貴族のクラスに通おうとも、あの子を気にしているのは俺の方だけだ。

あの子は一度もチラリともこちらを見ることはなかった。


結局高等部1年はあの子との接点はないまま呆気なく終わった。


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