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真面目令嬢と告白ごっこ  作者: くきの助


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告白ごっこ

「話すのは初めてだね。ごめんよ、急に話しかけたりなんかして。驚いただろう?」


「いいえ……」


「でもずっと話してみたいと思っていたんだ。」


誰もこない図書館の中庭に場所を移すと彼からおもむろに切り出された。


「ボクの事は知ってくれているかな。」



ボク



裏の顔を知っている私は思わず笑いそうになってしまった。


「ええ、そうですね。」


誤魔化すように顎を引き答えると彼は「そっか、ならばよかった。」と風で乱れた前髪を直した。


私のそっけない返事は想定外だったよう。

彼は少し黙り込んだ。


(とっとと告白してくれればいいのに)


早く図書館に行きたい。

でもまだ告白をされてもいないのに断るわけにもいかない。


カサカサと中庭の茂みが音を立てた。

見ずともわかる。

あの2人が潜んでいるのよ。


茶番に付き合うのも、反応を面白がられているのも、気分が悪い。


目の前の美丈夫はどう切り出していいものか考えあぐねている様子。

そういえば初めての告白と言っていたわね。


風で乱れた前髪をかきあげながら「クラスメイトだものね」だとか「知ってくれていたのなら嬉しいよ」だとか、モゴモゴ喋る彼の言葉は、風が吹くたびかき消されて何を言っているのかわからなくなる。


これは何の時間かしら。

それとも私が知らないだけで告白ってこういうものなの?


だとしても埒があかないわ。


「何か大事なお話があるのでしょうか。」


先を促してみる。


「……そう!実は大事な話があるんだ。」


助かったとばかりに、ぱっと明るく顔色を変える。

すっかりとっかかりを無くしていたらしい。


ああ、もう、早く終わって。


「ああそうだね。うん……実はさ」


スイと横を向くとまた風で乱れる前髪をいじり出した。

やっぱりモゴモゴと話し出す。


ええ……


「もうボクが何を言いたいか、勘付いているかもしれないけれど」


なんというか……


この人って……


「せっかく同じクラスだし」


前髪をいじる手が邪魔で彼の顔はよく見えない。


けれど……


「特別親交を深めたいと」


ふっ


思わず私の口から空気が漏れた。

ずっと堪えていたのに。

しまったと隠すように俯きゴホと小さく咳払いして手の甲で口を抑える。


「え?」


ようやく彼がこちらを向いた

私も彼に向かって顔を上げた。


目が合う。


今度こそ口元が緩まないように、グッと奥歯を噛み締める。


「それは、私とお付き合いをしたいと言うことでよろしいんでしょうか。」


彼からの言葉を待っていたら埒があかない。

もうそろそろ付き合っていられない。

そう判断した私はもうこちらから言うことに決めた。


「……そう言うことになるかな?」


「違いましたか?それは失礼いたしました。」


「いや!!違わない!!ずっと君に恋人になって欲しいと思っていたんだ!」


シン……と静まり返った。


誰かの息を呑む音が聞こえる。

目の前の彼は明らか失敗したという顔をしていた。


確かに、いかにも取ってつけたようなわざとらしい言葉だった。


「いいですよ。」


「……へっ?」


彫刻のように美しい彼の口から出た間の抜けた声に、再度笑いたくなった。

けど堪える。


「どうして驚いていらっしゃるんですか?」


「……嬉しくってね……」


意地悪く聞くと苦しい紛れの様な言い訳。

私はそれを嘘だと知っていると言うのに。


「では私は委員がありますので失礼しますね。」


「……ああ……」


ポカンとした顔で私を見送る彼にまた笑いが込み上げてきた。


誤魔化す様に私は踵を返すとようやくふっと口元を緩める。


(まさか了承すると思わなかったんでしょうね。)


学園では隙がなく完璧と謳われる彼。

そんな彼の初めての告白は完璧とは程遠いものだった。


自分から仕掛けるのは意外と勇気がいった、みたいなところかしら。


思い出すとまた笑いが込み上げる。


(なあに、あれ。)


彼が隠すのを忘れていた耳は真っ赤だった。


表は完璧令息。

裏では碌でもない発言を繰り返している彼。


どちらでもない彼を目の当たりにして、好奇心がうずいた。



断られると思っていた相手が了承したら、彼はどういう反応をするのだろう。



ちょっとした興味。


少しの好奇心。


何より悪趣味な罰ゲームに付き合わされた意趣返し。



してやったり。と、これでもうすっかり終わった気分でいた私。


だけども『大真面目令嬢』が慣れない事はするものではない、という教訓を思い知るのはすぐの事だった。


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